始業ギリギリに、僕と陸が教室に駆け込むと、あちこちから小さく笑い声が聞こえた。


養成学校の生徒は、完全な暗殺者に育てるために、心を殺すように教育されているのだと思ってた。(実際そういう所も多い)

でもここの生徒はそんなのではなく、多少目付きと雰囲気が鋭いのを除いたら、まるで普通の学生のようだ。


「それで日本最高ランクなんだから凄いよねぇ…」

僕は誰にも聞こえないように呟いた。


知ってる限りでも、この学校から輩出された腕利きの暗殺者は大勢いる。


……政府諜報機関の実動隊長、“疾風”朝比奈賢、
レベルSの任務を100件以上こなしたというスナイパー、“鷹の目”伊東孝則……
などなど。

通り名が付くだけでもかなりの凄腕だが、彼らはその中でも特別腕の良い人だ。



日本政府の暗殺部隊である特殊機関“神風”は、世界的にも高レベルの戦闘能力を有すると言われている。

もちろんこの名前は通称。
正式な名前は……長ったらしいのでまぁ置いといて。


ここは、その主戦力を育てる学校。
その首席ともなれば、半端な強さではないだろう………


と、僕はぼーっと考えながら隣に座る女の子を眺めた。


無表情、長い黒髪、標準より少し小さな体躯……無表情。

ここまでなら、普通かどうかは別としても特別変わっているというわけでもない、が。

腰に、ベルト。
制服のスカートなのに、革のベルト。

そして、剣帯、日本刀。


目を疑うようなその姿の女子生徒こそが、この学年の首席、一条悠。

「どのくらいの強さなのかな…?」


僕は呟いた。

しかし同時に、何か殺気のようなものを感じて、前を向いた。

で、見たのは。

何かを投躑した教師と、
放物線を描かず真っ直ぐに飛んでくる、白いチョーク。


「おぉ。ホントにチョーク投げる人初めて見た。」

呑気にそんな感想を漏らしていると、案の定、僕の額のド真ん中にチョークがクリティカルヒット。


……意外と痛い。


「白瀬!編入翌日から何をボケッとしてる!
学校長の推薦だかなんだか知らんが、そんなのではすぐにクラス落ちるからな!」


クラス中からの忍び笑いに混ざって、陸が僕に言った。

「今の、わざと当たったろ。」


当然。

たかが人が投げたものごとき、目瞑ってても避けられる。
でも返事はせずに、前に向きなおった。

あんまり目付けられ過ぎても困るし。


返事をしない僕を見て、陸は何を言うでもなく、楽しそうに笑った。


……コイツもなかなかいい性格してる。