「僕がここに来る前……」


〓〓〓〓〓


師匠は僕を見ると、凶悪な顔で笑った。

「成績の心配でもしてんのかぁ?
気にすんな、お前は俺が直々に仕込んでやったんだ。
こんなトコで遅れを取る訳ねぇよ。
俺にそんな弟子はいねぇ。」

「はいっ!!」

ビシッと敬礼した僕に、師匠は軽く笑って、そして真面目な顔になった。

「まぁ冗談はともかく、お前は一番上のクラスに入れるように手配した。
お前の実力なら1番、悪くて2番くらいにゃなれるだろう。

だが、お前にゃ任務がある。
そのために、実力は隠しておけ。
クラスが落ちない程度にダメでいろ。
分かったな?」

「はい、師匠。」

「ククッ…そんなに気ィ張らねえでも、芝居やダマシはお前の得意分野だろうが。」

師匠は僕を小突くとさっさと歩き出してしまった。


〓〓〓〓〓


「………ってこと。
分かった?」

「任務って……って聞いても答えらんねえよな。
でも、何で実力を隠す必要があるんだ?」

「もちろん、警戒させないためだよ。
それと、あわよくば油断させるため。」

「それって……」


その言葉の意味に、俺がさらに言い募ろうとした時、同時にショウが言った。

「ところで陸、支度しなくていいの?」

「……あっ……」

時間、ヤバい。
それどころじゃ無かったのは確かだけど。


何とか俺が支度を終えると、ショウも立ち上がって、部屋を出た。

俺は数歩離れてついていく。
まだ恐怖心が抜けきっていないんだ。


「陸、何でそんなに離れてるんだよ。
僕はよっぽどの事がなきゃあんな事しないよ?
……友達、なんだろ?」


いたずらっぽく笑うショウを見て、俺の中で何かが吹っ切れた。

それは、恐怖心が尊敬へと変わる合図。


俺はショウに駆け寄った。

「だってよ、本気で怖かったんだぜ?」

「僕の師匠はその数十倍だよ?」

「うわ……ご愁傷さま、ショウ。」

その様子を想像して、引きつった笑みを浮かべる俺に、腕時計を見たショウが呟いた。
「…あ、あと2分だ。」

「げ…まずい、走るぞ!」


俺とショウは教室へと走った。