春の雪(2005年、東宝)
監督:行定勲 原作:三島由紀夫
出演:妻夫木聡、竹内結子、高岡蒼佑、大楠道代、若尾文子、他
時は大正初期。
士族出身の成りあがりの松枝侯爵家の長男・清顕は、
幼い頃、真の「雅」の優雅さを身に付けるために公家の家系である綾倉家で育てられた。
綾倉家の令嬢の聡子とは、幼馴染。
聡子は幼少の頃から、年下の清顕を慕い、次第に愛するようになる。
そして清顕は、そんな聡子の気持ちを知りつつも、自分の気持ちに素直になれず、
聡子に宮家の王子との縁談が決まって初めて、聡子への愛に気づくのだった。
二人は重罪になることを承知で逢瀬を繰り返す。
しかし、そんな関係は長くは続かなかった。そして二人の結末は…
原作は三島由紀夫の同名小説である。
初日に観てきた。悲恋の物語。
以前、照明の中村裕樹さん直々にコメントを頂き、この映画をかなり楽しみにしていた。
カメラマンも監督が惚れ込んだ台湾の方で李屏賓(リー・ピンビン)氏。
ウォン・カーウェイ監督の「花様年華」始め、40本以上の映画の撮影をしている方である。
感想は、映像美も内容も完璧な作品だと思った。
全体的に安定したカメラワーク、ライティング、衣装、キャスティング、ロケーション、そして演出…
三島由紀夫文学の世界観を見事に映像化していると、
原作者と旧知の仲であった美輪明宏が絶賛しただけの事はある。
行定監督が三島由紀夫を撮ったら、どうなるんだろうかという当初の心配など全く感じさせない、
見事な仕上がりになっていたのでは無いだろうか。
笑わない、爽やかじゃない妻夫木聡は本当にイイと今回改めて思った。
悪巧みをしている小悪魔っぽい表情から、狂おしいほど相手を思う気持ちを見事に好演していた。
竹内結子の「大和撫子」は壊れてしまうくらい美しかったし、
品のある奥ゆかしさも完璧にはまっていた。
とにかく、カメラワークが良かった。
俯瞰(フカン…高い位置から見下ろす様に撮る事)から撮る”画”もとても安定していて、
まるで自分が空にいて見下ろしている様なそんな臨場感もあったし、
フォーカスの合わせ方も、どの人物の気持ちをメインにしているかが明らかにわかった。
監督とカメラマンの意志が見事に通じていた事を証明していると思った。
そして、ライティングである。
中村裕樹氏の作る灯りは、登場人物の輪郭をやさしく映すのだ。
いつも驚かされるのは、その”画”のやさしさである。
人物の表情や風景というのは、ライティングひとつで変わって見える。
それも、やはり周りとの意志が合っていないと成り立たないのだが、
顔の表情のどこに影を落とすか、風景のどの部分にフォーカスを当てるか、
それはすごく重要で、どんなに良い演出家でも、どんなに良いカメラマンでも、
全体の”画”を決める照明が良くないと台無しになってしまうのだ。
そういう点でも、中村氏の照明は完璧である。
美しくてやさしい”画”をこの人以上に作り上げれる人は世界広しともそう多くはいないと思う。
まさに光の魔術師である。今回も脱帽した。
この物語は悲恋であると先程書いたが、結末も完璧に救われない。
私のイメージする三島由紀夫とは、「悲しさや寂しさの中の美しさ」を追求した人だと思っている。
だから、この映画を観ての意見は賛否両論かもしれない。
映画が終わって、後ろの席から「何コレ、つまんなーい」と若い女の子の声が聞こえてきた。
そういう感想になる人がいるのも最もだと思う。
内容が難しいし、何よりもリアルな時代の話ではない。
それでも、私はこの作品は完璧だと思った。大満足でお腹いっぱいだ。
しいてダメだしをするとしたら、宇多田ヒカルの主題歌だろうか。
劇中に流れなくて本当に良かったと思った。
曲はとてもイイのだろうが、この映画の音楽としては全く必要を感じなかったのが残念だった。
私はこの作品をベタ褒めしているが、それが全てでは無いとご理解頂きたい。
私はこういう美しく儚く異時代の話や純文学とかに憧れていたり興味があったりするので、
全く興味が無い人には、2時間半は苦痛でしかないかもしれない。
もしも興味があれば、是非ご覧頂きたい。行定監督万歳!!