「天空の秘宝 ギャラクティック・バウンティ」ウィリアム・C・ディーツ / たたかうオッサン | 辻斬り書評 

「天空の秘宝 ギャラクティック・バウンティ」ウィリアム・C・ディーツ / たたかうオッサン



スペースオペラ。
ものの本によると、それは舞台を宇宙に移した西部劇なのだそうだ。西部劇と言えば、やたらめったら腕のいいタフなガンマンが自由奔放に荒野を駆け巡り、悪いやつらをバッタバッタと倒していくヒーローアクションである。本書は、数あるスター・ウォーズ小説の執筆陣のひとりにも名を連ねるウィリアム・C・ディーツの手になる、宇宙版西部劇だ。
本家西部劇で悪者とされるのは、ほとんどが開拓村を襲うならず者集団か「野蛮な」インディアンと相場が決まっており、それほどバリエーションは多くないのだが、これが宇宙規模のヒーローアクションともなると、とたんに選択肢が増えてくる。

だって、そうだろう? 想像力次第でいろんな宇宙人や奇妙奇天烈な自然現象、風変わりな異星文化などを物語に登場させることができるのだ。

それこそ、かのスター・ウォーズを思い出してみればわかりやすい。

ルークとオビ=ワンがハン・ソロ&チューバッカのコンビと出会う怪しげな酒場では、様ざまな人種が入り乱れて酒や猥談を楽しんでいるなか、密告によって急行してきた帝国の兵士がなだれ込んできてたちまち銃弾乱れ飛ぶ乱闘騒ぎになったりするし、ごうつくな悪徳宇宙人ジャバ・ザ・ハットにとらえられたレイア姫があられもない格好で鎖に繋がれ、救出に向かったハン・ソロたちが逆に人喰い砂漠に落とされそうになるシーンなどもある。

圧巻なのは、敵の追尾から逃れるために小惑星の亀裂に飛び込んだファルコン号が、なんと巨岩天体に擬態した宇宙生物に丸呑みにされそうになって慌てて飛び出すエピソードだ。

そのほか、たくさんの名場面や印象的なシーンがスター・ウォーズをして快作スペースオペラたらしめているのだ。


さらに本作の主人公は銀河を股にかけたバウンティ・ハンター、つまり賞金稼ぎなのである。

賞金稼ぎという職業はアメリカでは今でも実存していて、州や連邦政府に指定されたおたずね者をとらえて懸賞金をガッポリと稼ぐ、ハイリスク・ハイリターンな自由業だ。

修羅場をくぐって鍛えられた経験則や、他の追随を許さないプロフェッショナリズムに下支えされた高い能力を駆使して危険な仕事を難なくこなす、男のなかの男。知恵と腕力を兼ね備えたスーパーマン。

彼らはきっと、就寝中でもかすかな足音を聞き逃さず、バッと跳ね起きて侵入者を返り討ちにしてしまうような人間なのだ。


ベテランのバウンティ・ハンターが主人公のスペースオペラという代物がどれほど魅力的なものか、なんとなくわかっていただけただろうか。

なんでもそつなくこなし、たとえ窮地に陥っても憎まれ口を叩けるだけのユーモアを持ち、絶対にあきらめない強い精神力でもって道を切り開く。

当然女にもモテるし、その名を聞いて震え上がらない悪党などいない。

うーん、完璧。


……が、そうは問屋が卸さない。主人公マッケイドは上記の条件をほとんど満たすくらいの凄腕のはずなのに、作中何度も簡単に騙されるわ、襲われるとすぐに気絶するわ、挙句の果てに仲間が八面六臂の活躍でマッケイドを助けまくる。おかげでえらく地味なキャラクターになってしまっているのだ。

主人公が冴えないヒーローアクションなんて、おもしろくもなんともないではないか!


ご安心を。

たとえ主人公に肩入れできなくても、テンポのよさで読めてしまいます。

というか、ほとんどそれだけ(笑)。

スター・ウォーズが好きな人(スタートレックを挙げないのがミソ。なぜなら、あっちはSFドラマだから!)や、サクサク読めるアクションものが好きな人には最適の一冊。



ウィリアム・C・ディーツ, 斉藤 伯好
天空の秘宝

オススメ度★★★

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