〇人間の尊さと生きる価値

 夕餉の席で、息子が唐突に話しかけてきた。
「ねえ、お父さん。天皇なんて、居なくてもいいって云う人、居るんだけど。」
「ん?」
「ただ居るだけで、お金が沢山掛かってるんでしょう?それがもったいないって。税金の無駄遣いだから、日本には要らないって云うんだけど、それってどうなの?」
「うーん。どうかな? 世の中には、いろいろな役割の人が居て、家を作る人。魚を穫る人、お米を作る人、歌を歌って人を楽しませる人、それぞれの人が、何か人のためになることをして、お金を貰い、生活をしている。その役割にも大きさがあり、大勢の人を楽しませたり、満足させたり出来る人ほど、貰えるお金が多かったりする。また、お金を取らずに、人々のためになることをしている人も居る」
「うん。それは分かる」
「日本の天皇は、国民みんなのために平和を願い、国民みんなの幸せを祈り、国民みんなが、そんな天皇を敬愛し、誇りに思う。そんな、国民のみんなから愛され慕われ、みんなの心を和やかにしてくれる。そんな人は、日本には天皇しか居ない。日本人には、天皇が生きていれば、お金が掛かるから、居なくてもよいと、云う人が一部には居ても、それ以上に、日本人にとっては掛け替えの無い天皇の存在を大事に思う人が多いから、国の象徴になっているんじゃないのかな。国のお金が掛かっても、国民の多くが天皇を慕い、そして大切に思っている。多くの外国人からも日本人は良い天皇を持っていて羨ましい、と云われているよ」  
「そうか、分かった!。オレ達と人間の重さが違うのか!」
「その通り!。天皇も、お前も、一人の人間として生きる権利は同じでも、日本国民として、世界に生きる人間としての重さが違うんだよなあ。」
「うん。」
「世の中に、要らない人は生まれて来ない。と、お釈迦様が言われたと言う。いくらお金が掛からない人だと云っても、一年12ヶ月、生き延びるために掛かるお金は最低でも百万円近くのお金が必要だろう。もし、本当に日本に要らない人が居るとしたら、たとえ、数十万円のお金でも「勿体ない」と云われるだろう。「日本には天皇が要らない」と云ってる人自体が、他人から秤に掛けられ、「日本国には要らない人」と、云われないように気を付けなければならないのかも知れないね。」
「そうだね」
「さあ、食事を先にして」
の、妻のかけ声に、食事の箸を止めて私の話を聞いてた息子が、すき焼きの鍋の中に肉を取りに行く。
秋も一層深まった。夜は冷える。鍋は旨い。

                                       平成29年、朝霜の降りそうな晩秋の夜。