「政治家は何回当選したか、よりも何をしたか、で判断されるべきです。」
歌手で俳優の杉良太郎さんが先日、違法ダウンロードの罰則化法案の成立に尽力した議員との懇談会で述べた言葉でした。当たり前のようで、実は難しい。そもそも政治家が何をしたかは国民の多くが知らないからである。
しかしそこには政治家自身が宣伝せずにいるために国民が知りえない場合と、政治家が何もしていない場合とがあって、当選回数が若いと経験不足などもあって、案外後者のケースも多いのである。

今回の場合を振り返ってみると、杉良太郎という人が故西岡武夫参議院議長に「楽曲が違法に取引されている。ひどいのになると、そこから海賊版のCDが複製されて日本の楽曲が甚大な被害を受けている」と陳情したことから、当時政党も立場も違う私に自由党時代からのよしみで声をかけてくれたことから始まっている。
「これを法案化し、仕上げたい。手伝ってくれないか」このひとことがその後党内であれほど反対を受けることになるとは想像だにしていなかったし、何をしていいか私はその方面は門外漢。典型的な「何もしていない」政治家であった。

しかし、その後、私が議長の元で働く議運委員長に就任し、逃げられなくなってきた上に当の西岡議長が急逝。この問題は議長の遺言になってしまった。やれやれ。
当惑した私はとりあえず、党内の若手に意見を聞きたいと三原順子さんほかの議員に集まってもらい、音楽業界の方々から状況を聞くことに。そうすると…。

なんと杉さん本人が時間より30分も前に来て熱意あふれる演説。「無断、勝手にネットにアップされ、それを知らずにダウンロードされたのでは音楽家が育たない。著作権者の育成のためにも一定の歯止めをかけるべきだ。ぜひこれに罰則をつけ、白黒をはっきりさせてほしい!日本に育つ子供たちの育成のためにも、政治家が間違ったことを間違えていると言えなくてどうするんですか?!」
完全に“遠山の金さん”である。

きょとんとする議員も多かったと思うが、少なくとも党内のネットコンシャスな議員、すなわちネットからたたかれることを極度に嫌う議員(若い議員に多い)がのちにネット社会の自由を奪うものだ、などとして大反対するのに加担した人は誰一人いなかったところを見ると、それなりに心に沁みこんだんだと思う。

こんなところから始まって、罰則の科料をどの程度にするか、など法案の中身・提出者の選定など党内で大もめにもめた後、議員立法として衆議院に提出、通過。参議院に送付されてきた後、先の国会で成立することになった。

そんなある日。国会が閉じられ、委員長を辞することになると、少し時間ができて映画を見に行った。すると、上映の冒頭に例の映画泥棒のクレジットが。
…あ、違う。「NO MORE 映画泥棒」ではなく、「STOP
違法ダウンロード」になっているではないか!そうか10月から施行されているんだっけ。「宣伝してないがゆえに何もしていない」典型だな。

法律施行日以降、20%~40%の違反件数が減り、レコード、音楽、俳優、演劇、アーチストらの協会から手を握らんばかりの感謝の言葉をいただいた。
この間、一貫して国会の内外で尽力いただいた杉良太郎さんの粘りと情熱には頭が下がる思いであったことを申し添えておきたい。
ちなみに、彼の代表曲「すきま風」はほとんど違法ダウンロードされず、被害はもともとなかったそうである。