「開高健先生と、オーパ!旅の特別料理」/旅と料理 | 旧・日常&読んだ本log

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流れ去る記憶を食い止める。

2005年3月10日~2008年3月23日まで。

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谷口 博之
開高健先生と、オーパ!旅の特別料理  

「天上の開高先生に」捧げられた本。

作家、開高健とともに旅し、料った記録と記憶。

「まえがきにかえて」と題された、開高健『オーパ、オーパ!!海よ、巨大な怪物よ』より抜粋から、更に抜粋すると、この旅の始まりは辻調理専門学校で知られる辻氏とのこんな会話だったそう。

忍耐力と想像力に富んでいて即断即決、どんな素材でもその場でコナして料ってみせることができるという人物を推薦してもらおうじゃないか。とれとれのオヒョウだの血まみれのオットセイの肉などはどう逆立ちしても東京や大阪では入手できないのだから、あえてそれに挑戦して頂く。

目次
まえがきにかえて
Chapter① ベーリング海の孤島で巨大オヒョウを姿造りすること
Chapter② ネバダの砂漠でブラック・バスの洗いに舌鼓をうつこと
Chapter③ カナダの川原でチョウザメのキャビア丼に夢を馳せること
Chapter④ アラスカの入り江で海の果実をまるごとブイヤベースにすること
Chapter⑤ ウガシクの湖畔でないないづくしの野生にひたること
Chapter⑥ コスタリカのジャングルでイグアナのスープを絶賛されること
Chapter⑦ モンゴルの草原で幻の魚を味噌汁の実にしちゃうこと
Chapter⑧ テムジンの大地でウォルトン卿のパイク料理を試みること
あとがき

当初は他のメンバーにその重量に目を剥かれようとも(飛行機の重量制限があるからね)、大鍋、小鍋、フライパンからすり鉢、包丁一式をはじめとする料理人の七つ道具をずらり取り揃え、また、どんな土地においても出汁もきっちりとっていたのが、回を重ねるごとに「やわらかく」なる様が面白い。うん、臨機応変ってやつだよね。和包丁から、フィレッティング・ナイフへと得物を持ち替え、この辻調理専門学校・谷口“教授”は、クルー全員の胃袋を満たす。

釣れれば釣れたで大変な魚だってあるし、ボウズに終わった時のクルーの沈んだ気持ちを引き立てるのもやっぱり料理。釣りは水物。事前の調査があるとはいえ、期間が限られた中で、狙った獲物を釣り上げるのはやはり大変なよう。傷心の皆を、たまには「隠し玉」の素麺で癒したり、谷口氏の功績は非常に大きいのだ。

物置のドアを外してまな板とした、一メートル70センチにも及ぶベーリング海の巨大なオヒョウの姿造りから、なぜかイグアナや、川ガメ(甲羅を斧と金槌で割った!)、中南米最大・最強の毒ヘビ、ブッシュマスターの解体までする羽目になったコスタリカまで、その料理は「和食」のスケールから外れてとってもハード。しかも、谷口氏は爬虫類、両棲類が大嫌いだというのに・・・。この旅から外されてはならじ、と頑張る部分は、少々痛々しくもある。

回を重ねるごとに、先輩や同僚に「お前、だんだん荒れてきたんとちゃうか」と言われるほどに、谷口氏はすっかりアウトドアな男になってゆく。豚や牛の肉を使ったら日本料理ではないと言われていた頃もあったというのに、何せイグアナのスープとか、作っちゃってますからね・・・。

「ある量を超えると質に転ずる」を身上とし、これはと思う食べ物に出会うと、徹底的に食べて食べて味をとことん追求する、開高流鑑賞法に付き合うのも大変そう。時には「不味」といわれてしまう事もあるわけで・・・。でも、谷口氏は、一緒にとことん追求してしまうのです。うーん、料理も極めるとほんとに「研究」になってしまうものなのね。

旅して食べるというと、C.W.ニコルさんや、椎名誠さんを思い出すけれど、開高健への尊敬の念で全員が一致団結しているこのチームの雰囲気は、やはり多少他とは違う。開高健とは、やはり凄い作家というか、凄い人間だったんだなぁ、と感じた。

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*臙脂色の文字の部分は本文中より引用を行っております。何か問題がございましたら、ご連絡ください。