製作年度:2013年 製作国・地域: イギリス・ドイツ 上映時間: 100分
【※ネタバレ含みます。知りたくない人は右上のバツを押すべし。】
1932年、品格漂うグランド・ブダペスト・ホテルを仕切る
名コンシェルジュのグスタフ・H(レイフ・ファインズ)は、
究極のおもてなしを信条に大勢の顧客たちをもてなしていた。
しかし、常連客のマダムD(ティルダ・スウィントン)が殺されたことで
莫大な遺産争いに巻き込まれてしまう。
グスタフは信頼するベルボーイのゼロ(トニー・レヴォロリ)と共に、
ホテルの威信を維持すべく、ヨーロッパ中を駆け巡り・・・。
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お恥ずかしながらウェス・アンダーソン監督作の初見が
本作だった自分にとって、個人映画史的にこれは事件でありました。
最高に面白い!!!!
来週、齢34歳となる自分。
映画好きを堂々と自称できるほど映画に明るくないですが、
平均的な人と比べると、多少は映画を観ている方ではあります。
そんな自分の中に歴代映画ランキングがあるとすれば、
この映画、ベスト3以内にランクイン必至。
繰り返しますがこの評価は万人にとって当てはまるはずもなく、
あくまで個人的な好みです。
こんなこともあまりないことだけど、
【グランド・ブダペスト・ホテル】にドハマりした熱量のまま、
過去作も一気に5作を鑑賞しました。
【ムーンライズ・キングダム / 2012】
【ホテル・シュバリエ / 2007】
【ダージリン急行 / 2007】
【ライフ・アクアティック / 2005】
【ザ・ロイヤル・テネンバウムズ / 2001】
監督は【グランド~】を含め9作しか発表していないので、
ちょうど3分の2は網羅した形になります。
(※ ちなみに近所のTSUTAYAではこれしか取り扱いなかった。。)
で!!
知る人ぞ知る存在、ウェス・アンダーソンという監督は、
一目見れば「ウェスだ!」とわかるほど作家性の強い監督として有名。
もうね、変態レベルの美意識の塊なんです。
もはや映画ファンの間では語り尽くされているようですが、
簡単に箇条書きしていきます。
① 徹底されたシンメトリー世界
スタンリー・キューブリック監督の影響が強く、
日常ではありえないシンメトリー(左右対称)の画を取り入れています。
ただ、その徹底振りは病的なまでな作り込みで、
キューブリックのそれをはるかに上回る非日常感。
出てくる頻度も常軌を逸していて、
映画世界で半分・・・いや3分の2はシンメトリーな構図。
とにかく絵画的な画を好みます。
②直角パーン&ズーム&スローモーション&真上俯瞰
基本的にカメラは水平か垂直に動きます。
そして遠距離からグッと人物に寄るズーム。
もちろんその世界はシンメトリーです。
あと、ここぞという場面でのスローモーションシーン。
これも本作ではおそらくなかったと思うけど、
ウェス・アンダーソン作品には結構象徴的に使われます。
そして、真上からの俯瞰で撮られたシーン。
例えば書類にハンコをドーン!とか、
レコードに針を落とすシーンとか、
これまた絵画的というか、フラットな画作りをします。
こういったカメラワークを多用・・・本当に多用します。
全編に至ってほぼこれです。
③作品ごとに計算された色の配置
ウェス・アンダーソン監督作を観ていると、
作品ごとに全体を通して表現される色と、
挿し色としての象徴的な色というのが、
これまた異常者レベルで計算されているのがわかります。
たとえば今回の【グランド・ブダペスト・ホテル】は
全体を通してマゼンダカラー、いわゆるピンクの世界ですよ。
通常シーンでも少しフィルターが掛かったように感じるほど。
色や小物への執着がまた凄くて、
本作で登場する新聞も、中身の記事も全て監督が書いていたり、
衣装もヨーロッパ限定のPANTONEで細かく指示したりするらしい。
④統一されたユニフォーム的な衣装
衣装のこだわりも変態レベルです。
素材やミリ単位の数値指示は当然。
オレンジ色一つとっても、イタリアのPANTONE帳で指示するらしい。
あと、そのこだわりを象徴する逸話として、
【ライフ・アクアティック】を観たウェスの友人が、
「あのニット帽とセーター欲しいんだけど、どこのやつ?」と尋ねると・・・
「あれは適切なものが見つからなかったから、修道院で修道女に編ませた」
・・・と答えたらしい。異常者ですよ。
さらに【ザ・ロイヤルテネンバウムズ】で登場する
アディダスの真っ赤なジャージに関しては・・・
「市販の赤は想像と違ったので、作らせた。」
・・・いや、ただの真っ赤ですよ?!
PANTONEの概念超えてます。
それだけこだわっているからこそ、
あの世界観が作り上げられるんでしょうね。
ちなみに衣装デザインはキューブリック作品
【時計じかけのオレンジ】なども担当しているミレーナ・カノネロ。
ファッションを観ているだけでも飽きません。
・・・っと、とにかくこだわり抜いた映像は、
どこかミニチュアな世界を覗いているようなジオラマ感。
無機質な演技は、より人形劇のような浮世離れ感を演出し、
まさに唯一無二な映像表現をモノにしているわけです。
さて、長くなりましたが映画の中の話へ。
ウェス・アンダーソンの映画を表現すると、
『スイーツレトロ』という造語を作りたくなるような
独特のオシャレ感が先に立ち、ストーリーは二の次みたいな印象があります。
実際、【グランド・ブダペスト・ホテル】以前の作品はその色が強く、
正直過去作は、サブカルクリエイターや勘違いお花畑乙女のみが
高く評価するような、ユルっとオシャレな雰囲気重視作品が多い。
しかし、この【グランド・ブダペスト・ホテル】は
ちゃんと万人が楽しめる作品になっていることが素晴らしいのです。
しかも、これは大衆に寄り添って彼の作家性を一部封印したわけではなく、
徹底的に突き詰めた上で、メジャーシーンでウケる内容になっている。
これがどんなにすごいことか。
例えば、お笑いに例えるとダウンタウンですよ。
彼らの何がすごかったかって、俗に言うシュールという笑いを
一部のマニアだけを相手にするアンダーグラウンドではなく、
ゴールデンタイムで成功させたことなんですよ。
本作ではこれまでの美意識はそのままに、
キャラクターの個性やテンポが際立っていて、
まるでジェットコースターのように話が展開していくので、
飽きる暇がありません。
あと、時代ごとに画面サイズが変わるという新たな試みをしているんだけど、
基本的に物語のほとんどはアカデミーサイズっていう、
ほぼ1:1の正方形に近い画面になっています。
これが前述したシンメトリー構図や、
水平・垂直へのパーンをより強調する形になっていて、
他作品に比べても、さらに絵画的というか・・・
もはや動くアートのようです。
さらにさらに、小物一つ一つの愛おしさね。
象徴的なのが劇中に登場するスイーツ店メンドルズのお菓子の造形。
パッケージもめっちゃオシャレ。
私、職業柄、雑貨メーカーにて商品の企画デザインを
生業にしていることもあり「うわ!最高!」と唸ってしまいました。
ちなみに公式チャンネルでYOU TUBEにて、
このお菓子の作り方を解説している動画があるので、
気になった方は是非作ってみて下さい。
衣装をはじめ、スイーツや鍵。
登場する全ての物がミリ単位で設計された異常アート世界。
この世界に打ちのめされたのは海外の映画ファンも例に漏れず、
本作に登場するアイテム等をフラットデザインなイラストで
描き起こしてネットに上げている人がいたので、
オレ、そのイラストを拝借し、レイアウトを変えてA3で印刷して、
額縁に入れて、部屋に飾ることにしました↓
なかなかいいでしょ??
というわけで、好きな映画ほどレビューが難しいことを実感。
そして、映画と言うよりは監督の紹介になってしまったことを反省しつつ、
この興奮を感じ取っていただければそれで充分です。
最後に過去作のオススメ順を発表・・・
【ザ・ロイヤルテネンバウムズ】★★★★★★★★★☆
実はこの映画も大好きな映画の一つになりました。
この作品でアカデミー賞脚本賞を受賞しています。
一番、ストーリーもちゃんと楽しめる上に、キャラクターも愛せる。
とくに3兄弟の長女マーゴがスーパーキュート!
彼女がバスから降りてくるシーンが、
スローモーションになるんだけど、ここ名シーン。
ただ歩いてくるだけなんだけど、表情が最高。
オーディオコメンタリーで、監督本人も、
「彼女の表情のおかげでこのシーンは名場面になった」と。
もし猫を3匹飼うようなことがあったら、
チャス・マーゴ・リッチーと名付けたい。
自信を持ってオススメできる作品です。是非観て下さい!
【ムーンライズ・キングダム】★★★★★★★☆☆☆
【ライフ・アクアティック】★★★★★★★☆☆☆
この2作はウェス節を堪能できるというか、
とくに作家性が色濃いので、ビジュアル的に楽しめると思われ。
映画好きの人が好むタイプの作品のような気がします。
カメラワークが!衣装が!とか、そういう目線でモノを楽しめる人は
一見の価値有りです。
【ダージリン急行】★★★★★☆☆☆☆☆
【ホテル・シュヴァリエ】★★★★★★☆☆☆☆
この2作は連作だけど、前述した作品に比べると
個人的には少し満足度が低かったです。
相変わらず小物へのこだわりやカメラワークは健在ですが、
まず観るなら【ロイヤルテネンバウムズ】をオススメします。
・・・というわけで、
今回レビューとしては微妙だったと思いますが、
その興奮や熱量は伝わったかと思います。
あ!!!
書こうと思って忘れてたことが一つ!!
ちょろっと書かせて下さい。
この監督の作品って一貫して、
親子関係・・・もっと言うと父子関係を描くことが多いです。
血縁関係がない場合もあるけど、
必ず、箱庭的な世界での家族の絆を描いてます。
今回のコンシェルジュのグスタフとベルボーイのゼロの関係は
子弟関係であり、父子関係でもありましたよね。
ちなみに調べてみるとウェス・アンダーソン本人も
親が離婚しているらしいです。
やっぱ人生が作品に影響しているんでしょうね。
これを意識して過去作を振り返るとまた面白いと思います。
とにかく!!!
個人的には本作は10年に1本の傑作です!!
最高でした!本当ありがとうございました!!
次回作が楽しみです!!
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次回、更新予定の映画タイトルは
【WOOD JOB! ~神去なあなあ日常~】です。
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これきっかけで観てみ。