阪急電車 (幻冬舎文庫)/有川 浩

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この本のあらすじを読んでふと思い出したのが『ハートにS』という深夜番組。

この番組自体ご存知の方は少ないでしょうが、
とにかくほっこり、嬉し泣きさせてくれるような番組だったのです。

その中に電車に乗っているおばあちゃんと幼稚園位の孫娘、そして喧嘩するカップルの話がありました。

駅に到着したらカップルがけんか別れをし、女性が電車に乗り込んでくる。

横目で見ているおばあちゃん。

走り出す電車、他愛もない孫との会話、立ちながら窓の外を見つめる女性。

電車が急停車する。

そこで、孫がおばあちゃんに尋ねる。

『ねぇ、どうして電車とまっちゃったの?』

おばあちゃんは

『そうね~、神様がちょっと考える時間をくれたのよ。
本当にこのままでいいか?引き返した方が良いんじゃないか?って
立ち止まって考てみようって』

と女性に聞こえるように。

耳に届いたその言葉に女性は落ち着きを取り戻し、思案する。

そして、電車が動き出し、隣の駅で彼女は降りていく。



そんな話でした。

まぁ、語りが下手なので、どうも感じないかもしれませんが、
袖触れ合わずとも縁があり、暖かさがある。

ほんの数分の物語。


最近テレビを見ていないので想像で物を言いますが、
感情のふり幅が大きなものが多いのではないかと思っています。

怖い事や楽しい事、ばかばかしい事や真面目な事。

徹底的というよりも、瞬間的な針の振りが大きい。

わかりやすいし、琴線に触れる。

でも、そればかりじゃない。

その振りきれるまでに指し示す感情の動きそれぞれに
それぞれの良さがある。
他人から見れば他愛のない悩みだって、
はたから聞けばおかしくもなんともない話だって、
キラリと光る魅力にあふれている。

ただの楽観主義とは違う。
人生が良い事ばかりだとは限らないが、
そこに美しさがないとは言えない。
美しさで強すぎるとしたら、
『良さ』になるのかな・・・・

この本で作者はそこを描こうと思ったのではないかと思いました。

物語としてはありきたりだし、現実的でも何でもないし、
小説と言うよりむしろ漫画的な要素が強いような気がする。

でも、まぁ、そこは良いじゃないかと思えてしまう。
そういった厳しい目で見ればきりがないが
そうじゃない、この本の物語、登場人物たちと時間を共有しちゃおうよ!
といった甘さに読み手も浸ってしまえば何の事はない。
にやにやとしてしまう。



じゃぁ、この本を読んで阪急電車の魅力がわかったかと言えばそうではない。
むしろどこの沿線でも構わない。

一つだけここでないとこの場面はなかったのかもしれないと思った部分があるにはあるが
ここでは触れないでおこう。


読みやすいしすぐ読める。
何かを問うわけでもなく、ただ進む物語に耳を傾けているだけで
少しだけ優しい気持ちになれる。
それは車窓に流れる景色に似ているのかもしれない。