『評価と贈与の経済学』内田樹、岡田斗司夫 | すっぴんマスター

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(※注:ゲーム攻略サイトではありません)書店員。読んだ小説などについて書いています。基本ネタバレしてますので注意。気になる点ありましたらコメントなどで指摘していただけるとうれしいです。

■『評価と贈与の経済学』内田樹/岡田斗司夫FREEex  徳間書店






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「本書で示されるのは、新しい「交易」と「共同体」のありかただ。貨幣も、情報も、評価も、動いているところに集まってくる。ならば、私たちはどのような動きをする集団を形成すればいいのか。
そのために個々ができる第一歩とは。キーワードは「情けは人のためならず」。若者と年長者の生態を読み解き、ポストグローバル社会での経済活動の本義にせまる変幻自在の対談。笑って、うなって、ひざを打つこと間違いなし! 」Amazon内容紹介より






内田樹と岡田斗司夫の対談。

内田樹にかんしてはともかく、岡田斗司夫については、ちょっと前に世界征服は可能かどうかを考えるという新書を読んだだけで、正直なところよく知らない。なんかダイエット本でヒットを出していたような気もするし、岡田斗司夫について語るほかの誰かの言説を通して、なんというか、「非常に教養の高いオタク」という程度のイメージしかない。東浩紀がいっていたのだったかな、この世代のオタクというのはほんとうにものをよく知っていて、思慮深いのだ。


まあそういう感じで、世界征服の新書はたいへんおもしろく読んだけれども、じっさいのところどういうひとなのかというのはよくわからなかった。内田樹も対談本を最近はぽんぽん出していて、すでに僕は手元に高橋源一郎とのものと中沢新一とのものが途中まで読んでほっぽってある。つまらないということはまったくないけれど、対談本で一気読みをさせるほどのちからをもつというのはけっこうなことなんではないだろうか。本書も、正直いってとりあえず買ったという感じで、僕としては内田樹ファンだから、それだけでも無意味ということはないので、そういう消極的態度で読み始めたのだけど、これは対談本としてはかなりのものではないかとおもう。


それは、もちろん、僕が内田樹ファンで、その思想になれていて、かなりのぶぶん影響を受けている、ということも大きいとはおもうけど、もうひとつには、岡田斗司夫のアプローチにしかたにもあるとおもう。まえがきで触れられているように、両者の考え方はある意味ではよく似ていて、結論もほぼ同じである。けれども、ふたりは当然他人であって、いっぽうは哲学と武道を基本にしたもと大学教授で、たほうは「FREEex」という、社員が給料を払うというかなりかわった会社を代表する筋金入りの博識なオタクである。細部では、考え方は微妙に異なるのであり、そこでは小さな衝突が起こり、そしてじつは、そういう衝突が、本書すべてにわたって起きている。それでいて、意見が食い違っているとか、このふたりは、まったくかんけいのないふたりなんだなとか、そういう印象は生じず、ジャズのインタープレイのように、個性のぶつかりあいが対談そのものを彫琢していっているようなのである。岡田斗司夫というひとはちょっとあきれてしまうほどのアイデアマンで、これには内田樹も笑っていたが、ほんとに、いろんなことをぽんぽんとおもいつく。これは、ひとつには、この両者が他人への「敬意」というものについてほとんど同様の高い価値を見ているということがあるとおもう。対談にもいろいろある。考え方のよく似たふたりを選んで、編集主導で話者それぞれのファンからすればわかりきった(期待されている)はなしをさせるものもあれば、ぜんぜん考え方の異なるものを、年末の格闘イベントみたいなノリでぶつけて喧嘩させるみたいな趣旨のものだってあるだろう。もちろんこれは極端なはなしだけれど、いずれにしても、そこには自己主張のようなものがすけてみえる。それは、しかたのないことというか、それがふつうのことなんだろう。仮に、考え方のちがう他人をもって、たぶん意見は衝突するだろうとあらかじめ予想し、それでも、むしろそれを契機に、理解を絶した他者を経由することで、私自身の思想、またありようが止揚されることもあるかもしれない、というような考えで対談にのぞんだとしても、やはりそこには「私」があり、不定形ながら「私の思想」また「私の成長」が想定されているわけである。しかし、この両者はそうではない・・・というと語弊があるが、まるで「対談」ということそれじたいを、瞬間的に創造していっているかのようで、つまりインタープレイなのである。インタープレイは、相手への敬意、言い換えれば信頼がなければ成り立たない。相手の演奏に懐疑的なまま、「正しさ」と照合しつつプレイしたのでは、相手からの刺激的なアプローチを広げることも、またバックにまわってヒントを与え続けることもできない。


本書で中心となっている話題は、これからの日本においてどういうかたちの共同体を探っていくべきなのかということである。内田樹では、人類学的な贈与の原理を通した「いつものはなし」である。誰かがくれたパスを、次のひとにまわさなければという「反対給付義務」に突き動かされて、世界は運動を続けている。対して岡田斗司夫では評価経済ということばがあてられる。まず評価があって、それに基づいて仕事がまわってくる。ひとつひとつ、おもうところもあり、たいへん刺激的なのだが、内容をまとめるというようなことは僕の手にあまるので、ぜひ本書を読んでいただきたい。





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