恋唄 吉本隆明

理由もなくかなしかったとききみは愛することを知るのだ

夕ぐれにきて夕ぐれに帰ってゆく人のために

きみは足枷になった運命をにくむのだ

その日のうちに

もし優しさが別の優しさにかわり明日のことが思いしられなかったら

きみは受肉を信じるのだ 恋はいつか

他人の血のなかで浅黄いろの屍衣のように安らかになる

きみは炉辺で死にうるか

その人の肩から世界は膨大な黄昏となって見え

願いにみちた声から

落日はしたたりおちる

行きたまえ

きみはその人のためにおくれ

その人のために全てのものより先にいそぐ

戦われるものがすべてだ

希望からは涙が

肉体からは緊張がつたえられ

君は力のかぎり

救いのない世界から立ち上る