ピアノ曲「亜麻色の髪の乙女」などで知られるフランスの作曲家クロード・ドビュッシーは、何よりも海が好きであったという。


 あるとき、「生まれ変わったら何になりたいですか?」と聞かれ、「水夫になりたい」と答えたそうだ。とてもダンディな受け答えだと思う。


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 何年か前、HNK-FMのクラシック番組で、ドビュッシーに関するちょっとしたドラマというか、朗読をやっているのを聴いたことがある。はっきりとは覚えていないけれど、クロードとその恋人との、こんな感じの対話があったのが印象に残っている。


女「ねえ、クロード。私は世界で一番あなたが好きよ」
クロード「そうかい。ありがとう」
女「あなたが世界で一番好きなものは、何?」
クロード「僕は海が好きだ。水夫になりたいといつも思う」


 それはひどいよ、ドビュッシー! 


 と思ったのは僕だけではないはずだが、事実ドビュッシーはひどい奴であった。


 猜疑心が強く、傲慢で嘘つき。横柄でわがままで孤独癖があって、その上金と女にだらしない。なんとその生涯において、2人の女性を自殺未遂に追いやったというのだから凄まじい。


 こんな男のことだから、恋人にこれぐらいのことを言ったとしても、不思議ではない。ラジオドラマでは、その後、恋人がピストル自殺を図る場面が朗読され、そして、ドビュッシーの作品である交響詩「海」が流れる、という運びであった。


 ドビュッシーは悪い奴だったかも知れないが、音楽に対する情熱と才能は本物だったのだろう。僕はこの「海」を聴いて、いたく感動したものであった。



↓ご参考までに。僕の愛聴盤です。

フランス国立放送局管弦楽団&合唱団, フランス国立放送局合唱団, フランス国立放送局管弦楽団, ドビュッシー, マルティノン
ドビュッシー:管弦楽名曲集

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 人間を大別すると犬派と猫派に分けられるように、海派と山派にも分けられるのではないか、と思う。


 別段、ドビュッシーに自分を重ねようと思うわけじゃないが(金はともかく、僕は女には全然だらしなくない男である)、僕は海が好きだ。水夫になりたいとは思わないけれど、できることなら、海の見える家に住みたいとよく思う。


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 そういえば、小倉百人一首には、海に関する歌が、僕の記憶している限りでは3首ある。僕が海が好きだからそう思うだけなのかも知れないが、これが揃いも揃ってすばらしい名歌なのだ。


 次回は、それを紹介したいと思う。