事件簿その2 「昼下がりのスイカ泥棒、現行犯逮捕事件」 | 萬収集家「ワタナベ」の珍事件簿

事件簿その2 「昼下がりのスイカ泥棒、現行犯逮捕事件」

確か、私が中学2年。




夏真っ只中の昼下がり。




学校のグラウンドから見上げるほどの高い丘に、私たち2年生の学級園がある。




そこでは、1年を通して様々なものが栽培され、夏にはスイカが育てられていた。




皆で耕して丁寧に育てたスイカ。




どれほど甘いのであろう。




広島の学校では8月6日の原爆投下の日は全校登校日になっている。




「その日に皆で食べよう。」




長い夏休みの前、担任の先生はそう言った。




全校登校日の数日前、事件は起こった。




私たちはクラブ活動でグラウンドで汗びっしょりになりながら練習をしていた。




脱水症状になりそうなほど意識が朦朧とする中、




気を遣って現れたのは、カール似の校長先生だった。




そして疲れている私たちにこう話し掛けてくださった。




「ワタナベくん、スイカ食べるか?」




私は心の中でこう叫んだ。





「それ、おれらが植えたスイカじゃー!!」




「何で勝手に収穫しとんなー!!」




カール校長は30オンスもあろうかと言うほどの大きなスイカを両脇に抱え、




満面の笑みを浮かべている。




私たちは言葉を失くし、真実を伝えられないでいると、カールは、




「いいよ、遠慮せんでも。私が切ってきてあげるけん。」




「食べやすいように!?」




遠慮違いである。




真実を告げることを遠慮したのに。




スイカは食べたい。




是が非でも。






おいしかった。






スイカは甘かった。






8月6日。






スイカは、なかった。






カールは、いったい何個の真っ赤な宝石を収穫したのであろう。