ゴールデンなグローブ
毎年この時期になると、アカデミー賞への期待を膨らませるイベントがありますな。
そう、アカデミー賞の前哨戦、ゴールデングローブ賞。
アカデミーとは違って、各賞がドラマ部門とミュージカル/コメディ部門という二つに分けられてるのがこの賞の特徴だけど、アカデミーを占う上では今年もやっぱり有力だろうな。
さてさて、今年の受賞&ノミネートはどんな感じでしょうか。
最優秀作品賞(ドラマ部門)
『Babel/バベル』
■ノミネート
『Bobby/ボビー』
『The Departed/ディパーテッド』
『Little Children/リトル・チルドレン』
『The Queen/クイーン』
やりましたな『バベル』!オイラ的には今年もっとも楽しみな作品のうちのひとつ。
傑作『アモーレス・ペロス』から数えてもまだ数本しか撮ってないメキシコ人監督イニャリトゥも、これで一気にお茶の間にも名前が知れ渡るだろうな。
その他のノミネート作もそれぞれ気になる作品が多い。
そうそうたるキャストが集まったロバート・F・ケネディ暗殺事件を題材にした『ボビー』、
ダイアナ元皇太子妃の「あの事件」後の王室の混乱をエリザベス女王の主点で描いた『クィーン』、
この2作はアカデミーでもノミネートされるんじゃないかね。いかにもアカデミー向きだし。
『ディパーテッド』はどうかね?受賞はないだろうけど。しかしディカプリオは、スコセッシがデ・ニーロと組んでた頃を髣髴とさせるね。でも、なんでディカプリオなの?どうでもいいけどさ。
しかし、ジョニー・デップとかとは違って、なんか色気のない年の取り方してるよな、やつは。レオ様なんてのは遠い過去だな。
最優秀作品賞(ミュージカル/コメディ部門)
『Dreamgirls/ドリームガールズ』
■ノミネート
『Borat/ボラット』
『The Devil Wears Prada/プラダを着た悪魔』
『Little Miss Sunshine/リトル・ミス・サンシャイン』
『Thank You for Smoking/サンキュー・スモーキング』
受賞した『ドリームガールズ』は、なんといっても注目なのが今回助演男優賞を受賞した、「星の王子」ことエディ・マーフィー。それ、ヅラですか?と言いたくなるヘアスタイルはさておき、「サタデー・ナイト・ライブ」を彷彿とさせるエディが見られそう。この作品で完全復活か?よかったね、エディ。
『プラダを着た悪魔』は日本でも特に女性にはすごくウケがいいみたいだね。オイラの周りの人もちらほら話題にしておりましたな。『リトル・ミス・サンシャイン』はインディ作品ながら大奮闘。こんなオイラでも、たまにはこういうハートウォーミングな作品を観るとやっぱり和むわな。かなり好きです。
最優秀監督賞
マーティン・スコセッシ
『The Departed/ディパーテッド』
■ノミネート
クリント・イーストウッド『Flags of Our Fathers』
クリント・イーストウッド『Letters from Iwo Jima』
スティーブン・フリアーズ『The Queen』
アレハンドロ・ゴンザレス・イニャリトゥ『Babel』
クリント・イーストウッドはもういいだろうけど、またスコセッシか!いや、大好きですけどねこのオッサンは。イニャリトゥはあと一歩及ばず。アカデミーに期待ですな。
最優秀主演男優賞(ドラマ部門)
フォレスト・ウィテカー
『The Last King of Scotland/ザ・ラスト・キング・オブ・スコットランド』
■ノミネート
レオナルド・ディカプリオ『Blood Diamond』
レオナルド・ディカプリオ『The Departed』
ピーター・オトゥール『Venus』
ウィル・スミス『The Pursuit of Happyness』
←『フォーンブース』より。交渉役にはもってこいの善人顔がよい。
フォレスト・ウィテカー、いいチョイスです。めちゃくちゃ人がよさそうな顔してるんで役を選びそうだが、いい役者です。
ディカプリオはダブルノミネート。『ビーチ』以降あまりパッとしなかったけど、脱アイドルで一皮向けた感じか。それもこれもスコセッシのおかげだよ。
最優秀主演男優賞(ミュージカル/コメディ部門)
サシャ・バロン・コーエン『Borat/ボラット』
■ノミネート
ジョニー・デップ『Pirates of the Caribbean: Dead Man's Chest』
アーロン・エッカート『Thank You for Smoking』
キウェテル・イジョフォー『Kinky Boots』
ウィル・フェレル『Stranger Than Fiction』
←受賞作『ボラット』より。すばらしい画です。たまりません。
イギリス発のバカ映画『アリ・G』のサシャ・バロン・コーエンが受賞。
こういうバカコメディあがりのやつが、なにを血迷ったかシリアス路線に転向するという悲しいケースがたまにあるけど、こいつには最後まで『サウスパーク』のノリで行っていただきたい。
最優秀主演女優賞(ドラマ部門)
ヘレン・ミレン『The Queen/クイーン』
■ノミネート
ペネロペ・クルス『Volver』
ジュディ・デンチ『Notes on a Scandal』
マギー・ギレンホール『Sherrybaby』
ケイト・ウィンスレット『Little Children』
← 受賞作『クイーン』より。今回は、脱ぎません!
『カレンダー・ガールズ』で59歳にも関わらず見事な脱ぎっぷりを見せたヘレン・ミレンが受賞。2003年のゴールデングローブではこの『カレンダー・ガールズ』でコメディ/ミュージカル部門にノミネートされたけど、今回はドラマ部門で見事受賞。脱ぐ脱がないは影響ないようですな。エリザベス女王になりきった彼女の演技はそれだけで必見、のようです。
最優秀主演女優賞(ミュージカル/コメディ部門)
メリル・ストリープ
『The Devil Wears Prada/プラダを着た悪魔』
■ノミネート
アネット・ベニング『Running with Scissors』
トニ・コレット『Little Miss Sunshine』
ビヨンセ・ノウルズ『Dreamgirls』
レニー・ゼルウィガー『Miss Potter』
←『ディア・ハンター』から約30年。今や名女優ですな。
若手を押しのけての貫禄の受賞といったところか。長いキャリアの中でも、この作品は彼女の代表作になるだろうね。それにしても、今回の女優賞受賞者は年齢層が若干高めですな。いや、いいことだけどさ・・・
とまぁ、主要部門はこんなところだ。それ以外はこんな感じ。
最優秀助演男優賞
エディ・マーフィ『Dreamgirls/ドリームガールズ』
最優秀助演女優賞
ジェニファー・ハドソン『Dreamgirls/ドリームガールズ』
最優秀外国語作品賞
『Letters from Iwo Jima/硫黄島からの手紙』(アメリカ)
最優秀アニメ賞
『Cars/カーズ』
最優秀脚本賞
『The Queen/クイーン』
最優秀音楽賞
『The Painted Veil/五彩のヴェール』
日本で話題になっていた、助演女優賞でノミネートされていた『バベル』出演の菊地凛子。ほんと今後が楽しみな女優ですよ。今回は残念ながら、だけど若手の日本人女性が海外で評価されるっていうのはうれしい。これだけでこれから益々オファーが殺到するだろうけど、アカデミーでも期待できるんじゃないか。もう、渡辺謙は飽きたよ。
個人的に注目していたのは、脚本賞でノミネートされていた同じく『バベル』のギジェルモ・アリアガ。この人、『アモーレス・ペロス』からこの『バベル』までほとんど外れ作なし、とオイラは思ってる。あるひとつの「きっかけ」を軸に時間をパズルのように交差させて、そこにいくつものストーリーを紡ぐスタイルは彼のお得意。『バベル』は更に国までも交差させ、より深みのあるスケールの大きなストーリーのよう。アカデミーにはぜひとも期待したいところだ。
毎年茶番でおなじみの、ラジー賞のようなラインナップの日本アカデミー賞より100倍以上面白いゴールデングローブ賞。もちろん受賞・ノミネートされる作品・役者だけがいいわけではないけど、イベントとしてみても楽しいアカデミーの期待をより膨らませてくれますな。
『イキガミ』で、泣け!
普段ほとんど泣くことがないですけど久しぶりに号泣したでやんす、しかもマンガで。
今回はそんな乾いた心を潤す「泣ける」マンガをご紹介して、皆さんのご機嫌を伺おうかと思います。
【逝紙(イキガミ)」を配達された者は24時間以内に死ぬ…。「死」への恐怖感を植えつけることによって「生命の価値」を再認識させる、との目的で「国家繁栄維持法」により1000人に1人の割合で若者が死亡宣告をされてしまう社会。
この作品『イキガミ』は、逝紙配達人・藤本をストーリーテラーに、「逝紙」を手渡されたものが残りの時間をどう生きるのかを追っていく物語だ。 by R25.jp 】
毎回、「イキガミ」を手渡され命の期限を突然決められた者たちを主人公にして、彼らが残された時間をどう生きていくかを追っていく。それぞれの境遇は様々で、家族のため、仕事のため、あるいは生前の憎しみを晴らすため、彼らの最後の様々なストーリーが展開する。残りのすべての時間を愛する家族や恋人に捧げる者もいれば、暴走をして命の期限を待たずに逝ってしまう者もいる。
そのそれぞれのストーリーがとても切なく、生や死、愛や憎しみといった命題を、極限状態における人間にスポットを当てることによってまざまざと考えさせる。生きることとはいったいなんだろうか?という究極の質問へのヒントがこめられているよう。
オイラはたまたま本屋で平積みされているのをみつけて買ってみた。
仕事帰りに、よく行く焼き鳥屋でビールを飲みながら読んでいたんだけど、恥ずかしいことに涙が止まらなくなり、
1ページ進んでは閉じ、また開いては閉じ、みたいに読み進めるしかできなかったよ。いい年してね。
マンガだからと侮るなかれ。最近、マンガ原作のテレビドラマや映画が多いけど、この『イキガミ』もご他聞に漏れず、間違いなくなんらかの形で実写化されるだろうね、きっと。個人的には、ただ「死」を描くことで手っ取り早くお涙頂戴を狙う作品は好きではないけど、この『イキガミ』は「死」を描くことで逆に「生」をテーマにしている点がすばらしい。ぜひ原作の良さを十分に引き出してくれる実写化を期待したいところ。
現在3巻までしか出てないので、先が待ち遠しくなるけど、たまにこういう作品を観てたっぷり泣きまくるのもいいかもです。
ディア・ウェンディ
『ディア・ウェンディ』 (‘05/デンマーク・フランス・ドイツ・イギリス )
監督: トマス・ヴィンターベア
ラース・フォン・トリアーらによって始められた「ドグマ95」という映画手法を用いて、1998年に『セレブレーション』でカンヌの審査員賞を受賞したトマス・ヴィンターベアの監督作。脚本は個人的にもっとも好きな映画監督の一人のラース・フォン・トリアー。
この作品『ディア・ウェンディ』は主人公ディックが愛するウェンデイに宛てた、最初で最後のラブレターを綴る形でスタートしていく。
ただ、ラブレターといっても愛するウェンディは女性ではなく銃だ。ただ、彼はまるで女性を扱うかのように、彼女を愛し大切にし、そして片時も肌身離さず身につけることによって、今まで持ち得なかった強さと誇りを身につける。ディックはいつしか彼の周りにいる、負け犬のような仲間達を集め、周りから負け犬呼ばわりしている彼らに、銃を持つことによって得られる、精神的な安らぎや自信、正当性を説き、彼らもまたそれによって生まれ変わったかのように自信(=自身)を身につける。
それぞれ親愛なるパートナー=銃を得ることによって、立ち向かう強さと勇気を得た自分を負け犬と自覚している
彼らには、もう恐れるものなど何もないかのよう。それぞれパートナーに名前をつけて、片時も放すことなく生活していく。
銃は確かに魅力的だ。本来身を守る手段としての銃は、時に精神的支えにもなりえるのかもしれない。劇中に登場する、強さと美しさを兼ね備えたアンティークの銃の美しさに見せられる感覚はやはり実際に手にとって観たものにしかわからないだろうが、例えばブランド品や高価なアクセサリーを身にまとうような、自身を誇張するためのもっとも手軽で効果的な手段なのかもしれない。
ただ、当然銃を手にしたものは、いずれ鑑賞するだけでは満足いかずに、そのパートナーを実際に使ってみたくなる。単なる紙の的を狙うようになるには大して時間はかからず、そうなれば銃が的以外の違うものに向けらるのも時間の問題だ。
前半こそ、愛するパートナーを得た彼らの様子が青春ドラマのように明るいタッチで描かれる。しかしこの作品の脚本はあのラース・フォン・トリアーだ。このまま終わるはずがないと思ったら、やっぱりアメリカ嫌いのトリアーらしい後半が待っていた。
確かに銃は人々を魅了する。だけど、自分を守る銃が必ずしも、自分に向けられないとも限らないもの。人は銃に魅せられ、最終的に人を虜にし、そしてその人の命を奪う。この『ディアウェンディ』はテーマとしてもちろん銃社会の批判が込められているともとれるが、その描き方は、マイケル・ムーアのような直接的な批判というよりは、皮肉たっぷりに銃社会が招く結果を滑稽に描いているように感じられた。
誰でも気に入った愛すべき品というものはあるもの。それに名前をつけ、いつまでも大事にしていくというのは珍しいことじゃない。彼らにとっては、それがたまたま銃だっただけ。見た目にも美しく、しかも時には自らを守ってくれるもの。そんな銃に魅せられる感覚は、やっぱり実際に手にした事がない僕らには100%想像はできないかもしれないが、すっかりケータイに依存し、自分達が実はケータイの大きなストラップに成り下がった、今の僕たちにも多少は通じるところはあるんじゃないかと、ふと思った。
トリアーが手がけた作品というと、どうしても根底にアメリカへの憎しみと批判が込められているように感じてしまうけど、人が何かに依存していく様を -例えば銃なら?という視点で- 描いた作品として観ると、また違った視点で観れて面白いかも。ただ、もちろん後味は悪いですが。
ゲット・リッチ・オア・ダイ・トライン
『ゲット・リッチ・オア・ダイ・トライン』 (‘05/アメリカ)
監督: ジム・シェリダン
エミネム主演の『8マイル』が公開されてもう数年が経った。あの作品は、単なるアイドル映画と呼ぶ声もあれば、その演技力や真摯な作風を高く評価する声もあり、言うなれば賛否両論のようだった。いずれにせよ、あの作品は興味がない人はぜったいに観ないだろう部類の映画だと思う。
ドキュメンタリーとしてではなく、今までもミュージシャンをフィーチャーする作品は、ビートルズやらドアーズやら、最近ではカート・コバーンやジョニー・キャッシュなど、腐るほどある。でも、自身が出演するケースはあまりない。それは当然、彼らの死後製作されたものだから。
そんななかで、瞬く間にシーンを席巻したラッパーでしかも白人、という話題性十分のエミネムに白羽の矢が立ったのは、まぁ当然といえば当然の流れのように感じた。ただ、単なるブームで終わるかと思ったら、今度は50セントまでもが、映画になったというから驚いた。しかも監督は、あの名作『イン・アメリカ』のジム・シェリダン。いやはや、作風ぜんぜん違うでしょ。ターゲットも。
で、エミネムに見出されてこちらもあっという間にシーンを食った50セント。そんな奴が主演の半自伝的映画と聞いて、ただの二番煎じかと思ったが、蓋を開けてみると以外や以外、単なるサクセスストーリーとは呼べないほど壮絶な半生を真摯に映画描いた秀作だった。
いわゆる元ギャングスタがそのままギャングスタ・ラッパーになったというもので、この作品を観ると、やっぱり「白人」のエミネムのそれとは比べ物にならないくらいのハードなものだったんだろうと感じる。どんなに生活が困窮していてもそこは白人。ただ、50セントのこの作品を観ると、根底にあるのはとにかく生き抜くこと、生きるためにはどんな手段も選んでいられない、という常に死と隣り合わせの過酷な生活だ。こういった環境の中で育つ子供達は、皆がそれぞれに抱き夢見た、ラッパーやNBAの選手などなど、夢を現実に変えるにはあまりにも過酷な現在進行形の「今」を行きぬかなければ行けないんだ。
ただの皿洗いとして一生を終えるか、それともどんな手段を使ってでも金と名声を手に入れるか。そのためには、ドラッグディーラーやギャングになるかという選択肢しか残っていないような現実が彼らを待っている。
だけど、その先に待っているのはギャング同士の抗争の果ての死か、気の遠くなるような牢獄での生か、いずれかだ。50セントもやはり服役の経験がある。ただ、そこで今まで自分に蓋をしてきたラッパーという希望を改めて抱いて、そこに向かうため曲作りを獄中でするようになる。まるで、あのマルコムXが服役中にイスラムに傾倒し、取り憑かれたように勉学に励んだみたいに。
最終的にはもちろんサクセスストーリーではあるけれど、ファッションとしてギャングスタを気取っている巷の(特に日本の)ラッパーとはまるで違う。出所後、燻っていた組織の抗争の末、9発もの銃弾を受け、夢を抱いたまま生死の境をさまよった50セント。それでも、奇跡的に一命をとりとめリハビリを続けながら曲作りをする彼の半生には、「悪がき」を気取る連中のような生温さなんて少しもない。
この『ゲット・リッチ・オア・ダイ・トライン』、スターと呼ばれる一人のアーティストの自伝、として観ると今現在の自分がどれだけ夢を勝ち得るのに恵まれた環境にいるのかを改めて感じさせる、そんな作品だ。アイルランドから夢と希望を持ってアメリカに移住してきたジム・シェリダンがこの作品を監督したのも、なにか共感するものを感じたからかもしれない。
この手の映画は、やっぱり嫌いな人はまず見ることはないんだろうけど、主役や扱うテーマだけでこの作品を避けるのは少し損な気がするね。
デビルズ・リジェクト
『デビルズ・リジェクト』 (‘05/アメリカ)
監督:ロブ・ゾンビ
なにを勘違いしたのか続編を撮っちゃうからすごいです、ロブ・ゾンビ。しかも結果は大成功。もうすでにホラー界の巨匠たる貫禄がある、と勝手に思ってるが。
1作目を凌ぐ続編というのは、特にホラームービーに関しては極端に少ない。どのジャンルでもそうだが、1作目のインパクトを超えるのは並大抵のものではないが、このロブ・ゾンビはなんなくそれをクリアしたようだ。成功した要因は、あえて前作と180度変えた映像スタイルと、ある意味新鮮な主要キャラクターを追い詰める「天敵」を作品のかなりの割合でフューチャーしたことだろうか。トビー・フーパーが『悪魔のいけにえ2』でまったく超えられなかった自分自身が築いた1作目の高い壁を、PVで培った持ち前のビジュアルセンスとパクリ精神、いや過去の作品へのリスペクト精神で軽々飛び越えた。
前作『マーダー・ライドショー』のあの『悪魔のいけにえ』的なキチガイ一家による数々の悪行がいい加減明るみになり、地元警察にその家を追われ、今度はそのおもちゃ箱のような家を飛び出して、大好きな殺人を繰り返しながら逃げ続けるロードムービー仕立てになってる。しかも、テーマは家族愛か?ともとれるストーリーに、後半は男なら思わずむせび泣きしてしまうこと必至だ。
この『デビルズ・リジェクト』、前作とはまったくテンションも撮り方も音楽も違う。踏襲しているのは主要キャラの3人だけ。前作が、インダストリアルと極彩色を取り入れた派手な画だったのに対し、今回はカントリーウエスタン調のBGMが流れる中、砂吹き荒れる埃っぽい70年代風アメリカン・ニュー・シネマの作風だ。ただ、残虐度は120%増し。ホラー特有の耳障りなBGMではなく、逆に心地いい曲をバックに繰り広げられるゴアなシーンの数々。お子様映画の金字塔、『アニー』をバックにローストチキンで年寄りを殴り殺す『シリアル・ママ』のような悪趣味なギャップが生むブラックユーモアとでも言うべきだろうか。すばらしくセンスが溢れております。
前作が、キチガイ一家主観なのに対して、今作は一家に負けずに壊れまくるキャラクターが登場する。この一家への復讐のために、とても法の番人とは思えないキチガイっぷりで追い詰める保安官ワイデルだ。『悪魔のいけにえ2』のデニス・ホッパーもびっくりの切れっぷりで一家を追い詰めていく。それは、執拗に追われる羽目になる一家がだんだん気の毒になるほどなわけで、どういうわけか後半は家族愛が全編に漂う、なんだか心温まる妙な感覚になるから不思議だ。
今作は、『マーダー・ライド・ショー』のような中途半端な謎解きのようなものはなく、ストーリーはとてもシンプル。追うものと追われるもの。そのどちらもがお近づきにはなりたくない連中なんだが、前作を見てる分、だんだん気持ちが一家3人に傾いてしまう自分にびっくりする。
そう、この作品は不器用で社会から隔絶された家族が、ただ自由を求めひたすら前に進み続ける、感動アウトローロードムービーと呼べなくもないけど、違うか。
キャラクターとしては、シド・ヘイグ演じるイカレピエロの「キャプテン・スポールティング」が注目されがちだが、それ以外に注目なのはケン・フォリー。『ゾンビ』から何十年も経ったわけだけど、『スパイダーマン』でブルース・キャンベルを発見したときに匹敵するほど興奮。こういうマニアックなキャスティングは大好きだ。