小菅優のシェーンベルク(東響) | 豊玉南一丁目音楽研究所

小菅優のシェーンベルク(東響)

2011/10/7 東京交響楽団定期
ドビュッシー:「夜想曲」より シレーヌ
シェーンベルク:ピアノ協奏曲 作品42
(アンコール)武満徹:雨の樹の素描Ⅰ
ラヴェル:ダフニスとクロエ(全曲)
新国立劇場合唱団
ピアノ:小菅優
指揮:ジョナサン・ノット

厳格な十二音技法で書かれたこのコンチェルトがこんなに妖艶に美しく響くことに驚く。小菅優さんのデリケートな音色のコントロールがすごい。冒頭主題がしっとりと響き、全曲を通して確かな歩みで音色美を聴かせる。とくに、アダージョ途中、冒頭音列の反行型を縦に並べたカデンツァ(286小節)からジョコーゾの主題提示(330小節)あたりまでの、仄暗い紫色のニュアンスは、絶品。

ホールが響くので、ピアノの細かい部分はちょっと聞き取りにくいところがあったが、アンコールの武満ソロ作品では、彼女が持つ音色への感性を十分に堪能できた。静寂に響きが溶けていった後の長い長い沈黙がお客さんの反応。すばらしい。

「ダフニスとクロエ」は、ノット氏の抜群なリズムへの感性に酔った。娘たちがダフニスを囲む7/4拍子のダンス、ドルコンとダフニスの諍い、そして2拍子のドルコンの踊りに至るあたり、頻繁にテンポが揺れ動く場面でのリズムの処理がすばらしい。棒でカチカチっと合わせるんじゃなくて、彼の体全体から発せられるリズムの波にオーケストラ全体が共感して揺れるのが心地よい。

一昨年と今年、N響に客演したときにも、ノット氏のリズムのすばらしさを感じたが、彼は相当な実力者だと思う。

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写真は、シェーンベルクのピアノ協奏曲、アダージョの冒頭。オーボエとファゴットが絡みあい、対(つい)になって、主題音列の基本型、反逆行型、反行型が順次現れる二声のメロディを演奏する。全曲全パートがこのように主題音列から派生する厳格な書法で貫かれているにもかかわらず、実際に鳴る音は官能的に美しい。信じられない技法。