かくしてわたしは ふかふかの絨毯の上に小惑星のようにひろがったチーズスフレをなんとかごまかそうと、原西一歩手前店長の目を盗み、手を伸ばしたわけで・・・・・
椅子に座りながら、相槌を打つ店長と目をあわせつつ、右手を伸ばした。
目指す場所は右手に座る、次女、長女の椅子の下。
手を伸ばすと、必然的に顔全体もそちらに寄るわけで・・・
右に揺れるたびに店長が ん?という顔をするので、慌てて元の位置に戻る。
そしてまた右手を伸ばし・・・店長に見られ元の位置に戻る。
しむらけんの変なおじさん、のダンスの右側だけバージョンである。
それを何度も繰り返してる間に、
まるでR&Bが好きな人、みたいになっていた。
店長からはわたしの腕が見えないわけで、首をやたらうごかす、つまりは音楽がかかってもないのにめっちゃのってるサウンド中毒風である。
目が合うたびに元の位置に戻り、笑ってごまかすのだからなおさら恐怖を与えていたに違いない。
いたたまれない・・・
嗚呼、いたたまれない・・・
のびのびと広がるチーズスフレを苦々しく盗み見ていると、はた、と気が付いた。
落ちているのは、体操服ズボンを履いた、見るからに頭のやわらかそうな子供たちの下である。
彼女たちが こぼさないわけがない
わたしは、娘には悪いが、子供がこぼしたことにしようと思ったの。
そう思ったとたん、心に余裕ができて、原西店長の なるほどなるほどなるほどねーの相槌に
ええ。そうですの。おほほ。 とばかりにお上品ぶれたのであった。
もつべきものは 頭の悪そうな子供たちである。
だが、上品ぶれたのもわずかな時間だけだったのである。
優雅な空間を引き裂いたのは 頭の悪そうな2号、次女のララであった。
ええ、ええ、とほほ笑み、穴の空いたズボンをはきつつも上品ぶるのもなかなか板についてきたわたしに
「あー!ママ、こぼしてる!!」
しばらく時間が流れるのをスローモーションで感じたね。
無音で。
ちが、ちがうの、わたしは・・・
そう思って右を向くと、冷たい目をしたドアマンが、わたしを見下ろしている。
左を向くと、峯ふじこがなにやってんのよというふうにあきれて見ている。
私は椅子を蹴って立ち上がり、頭を抱え膝をつく。
「いやぁぁあああああーーーーっ!!」
なんていうドラマチックでもなんでもなく。
冷や汗を垂らすわたしと
悪びれた様子もなくしっかりと名指しした体操服ズボン2号。
バカに見えて賢いのね。
自分のせいにされてはたまらないとでも思ったんでしょうよ。
親の顔がみてみた・・・ってあたしやん。
ええ。知ってますとも。 A型のあなたたちが、B型のわたしより、キチンとさんだってことは。
「す、すびばせん・・・」
店内の視線が刺さるのを痛いほど感じた。
お前の方かいっっ!!
ふかふかな絨毯には極力、近づかないほうがいい、という教訓になった。
そんなこんなで私の左薬指には指輪が光り輝いているのである。
今考えたら、アーサーが一番、いたたまれないわよね?
かっこつけて指輪を送ったら、食べ物をまき散らかされるという。
今日も一日、何気なく平凡な時間を楽しもうぜっ!カフェオレでした。