「悼む人 」 天童荒太 ★★☆☆☆
ひとの亡くなった場所を訪ね歩くひとがいた。
独特のポーズで、そのひとの罪も死の理由も関係なく、
「だれに愛され、だれを愛し、どんなことをして感謝されたか」
を知り、それを胸にそのひとを、確かに存在したひととして、
胸にしまい、悼む静人。
いつしか彼は「悼む人」と呼ばれていた。
彼に出会った雑誌記者の蒔野、
死を控えて息子思う静人の母親、
そして自分の殺した夫を悼む静人を見て彼に興味を引かれる倖世。
この世に一番いてほしい人、として、
天童荒太が8年ぶりに描いた書き下ろし長編。
++++++++++++++++++++++++++++
各所で大絶賛されてますが、わたしはなんていうか、
ダメでした。というか、じわじわ、読後にダメになってきた。
おもしろくないわけではないし、
テーマもすごくわかるし、共感する人がいるのもわかるんだけど、
なんていうか、このお話からわたしは、
絶望しか感じなかった。救われる気がしなかった。
だって、けっきょく、こうまでしないと、
死んだ人を覚えていることはできない、ってことなの?って。
できない、けど、それでいい、っていう結論でもなく。
それに静人がぜんぶ自己満足なのも、ちょっと。
や、自己満足でもいいんだけど、
それをあんなに語らないでほしかった。
倖世ともできちゃうし。やっちゃうし。いいの?
聖人っぽくしたくなかったからってこと?
でもそれだと「こういう人にいてほしい」ではないんだけどな。
それならいっそ御伽噺みたいな聖人にしてほしかったな。
それに、いちばん身近な母親の死に向かう姿に寄り添わないで、
それを後悔するかしないかみたいなところもないし。
静人のことをけっきょく全肯定なのがなんかやだった。
と、読み終わったあとは、
「うーん… いいお話なんだろうけどなんか響かないな」
だったのが、あとからあとから疑問が降って沸いて、
ダメになっていったのでした。
死んだ人を忘れてしまう、そういうことに傷つく気持ち、
忘れちゃいけないって強迫観念、それはとてもわかる。
だから静人のあの苦しみは、きっとたくさんのひとの胸を打つだろう。
それもわかる。わたしのずっと持ってるテーマでもあるから。
なのに、ぜんぜん、響かなかったのは、
たぶん天童さんの出した結論と
いまのわたしが持っている答えとが
ちがう方向を向いているからなのかもしれないと思う。
年齢の問題かしら? いやいや…
あとちょっと、スピリチュアルすぎるのも、
蒔野があまりにころっと変わっていくのもうそ臭くてやだったな。
スピリチュアルならスピリチュアルで、
やっぱりいっそ、静人を聖人にすればよかったのに…