10月号10首選
塔10月号 10首選 村田智子
満月は空にのぼりて一日の体言止めのようなる白さ 永田紅
臓物のごときを太く垂らしつつエレベーターが夜を降りくる 千名民時
まな板をはみ出す鯛の目を見ずに先ずしゃかしゃかと鱗をはずす 浜井鈴子
反発をせんとするのを押さえつけ羽毛ぶとんを袋に入れぬ 邑岡多満恵
昨夜カットしてもらいたる軽さにて今朝の鏡に映る白髪 森真澄
醤油蔵のレンガ積みなる煙突が大正ガラスにゆらめき映る 杉崎康代
満月に物干し竿の光りをり羽衣掛くるなら貸しませう 潔ゆみこ
知る誰も誰も旧姓に歌を詠む女流歌人は一世をかけて 大木恵理子
一生に花束いくつもらうだろう それぞれ理由がありて手にする 佐原亜子
夏の夜を無灯火でゆく自転車の少女ら笑ふ街灯ごとに 久保茂樹