前記事、書こうと思ったことを一つ取りこぼしていたので追加。


つまり、観て思ったのだ。

演技の要素が全て、表現のために置かれている感じだなと。


フロリダの練習風景を何度か配信で観て知ったのは、アイスダンスのプログラムがどれほど緻密に作られているかだった。まるで1日1cm程度しか制作が進まない絨毯のように、アイスダンスのプログラムの要素も行きつ戻りつ、ほんの少しずつ作られていく。

それはもちろん、プログラムの世界を築くための緻密さではある。が同時に「競技でより点を取るための」緻密さでもある。

指定された要素をきちんと組み込んだ緻密なプログラムの美しさは素敵だったが、一方でシングル時代の大輔さん独特の音の合わせ方や、微妙な動きのゆらぎが見られないことを、私は少し残念に思っていたのだ。



今回、その大輔さんらしい動きが、アイスダンスの要素の中に組み込まれていると感じた。

具体的にいうと、哉中さんを抱え上げてから下ろすまでの間に1、2、3、4とリズムに合わせて動きを一瞬止めるリフトに、それを感じた。

あれは「I’m kissing you」の中の、体を3回止めながら崩れ落ちていく動きとちょっと似ていると思った。あるいは「eye」のステップの中の、体全体の動きを一瞬止めた後、四肢をばらけるように動かすところとか。ばっとガチっと止めるのではなく、軽くすっと止めて、次に出てくる動きをより印象付ける、大輔さんらしいと思ってたやり方が、リフトにも組み込まれたように思えたのだ。




「絵の具を手にして」という記事を2023年4月に書いていた。



<引用>

シングル時代の高橋大輔選手ほど多彩ではないだろうけど、印象的な絵を描くには十分な、綺麗な色の絵の具、つまり技術が揃った。

(略)

絵の具は揃った、あとはパレットで色を混ぜ合わせて描いていけば、これからも素敵な絵を見ることができるだろう。

<引用終わり>


それから一年。

かなだいの二人は引退後も絵の具を増やし、大輔さんのシングル時代の感性をも投入できるような色も揃え、パレットでそれらの絵の具を混ぜて新しい色を使った。そして描かれたのが「Symmetry」の演技のように思えたのだ。


これからも新しい色が生まれ、それらで描かれたちょっとエキセントリックなプログラムをかなだいは演じていくように思えた。

大輔さんの感覚を、大輔さんが表現するだけではなく、哉中さんが受け止め自分のものとして体現していく、そんなプログラムを。




競技引退後もなお技術を揃え続け、これだけの水準になっている。ならばその技術は生かしたいに決まってるよね。

だから、かなだいの活動はこれからも続く。おそらく大輔さんのシングル時代の感性というかニュアンスもより組み込まれる形で。


楽しみである。




はっきり言うとソロで滑る大輔さんだってそりゃ観たい。一方でアイスダンスの技量を生かし切ったプログラムも見たい。


これからも二刀流、お願いしますね、という気分になったのであった。