〈兵庫:秘伝公開(1)姫路南・スリッパノック〉きれいな捕球を追求
2011年7月4日11時13分
$とっちゃんのブログ

スリッパを手にはめて鋭い打球に食らいつく=姫路市の姫路南高校グラウンド
 もうすぐ始まる夏の高校野球。それぞれのチームにそれぞれの個性があるように、練習方法も千差万別だ。兵庫大会の開幕を前に、各校野球部が知恵を絞った「とっておきの特訓法」を5回にわたって紹介する。本塁上から次々放たれる鋭いゴロを、内野手らが懸命に追う。打球の正面に走って、がっちりキャッチ。だが、よく見ると、内野手の手にはグラブがない。代わりにはめているのは、ビニール製のスリッパだ。幅の狭い薄い靴底で打球を受け止め、素早く右手を添えてボールをつかむ。時折、打球が底をはじくと、すかさず吉本純也監督(37)の叱責(しっせき)が飛ぶ。「下手なんがようわかるぞ!」これが、5年前に就任した吉本監督が県立姫路南高校野球部で採り入れている名物練習「スリッパノック」である。2年生の冨祐磨(とみ・ゆうま)君は入部当初、あまりに奇抜なこの練習に面食らった。小5で野球を始め、中学時代は三塁手。守備には自信があったが、勝手が違った。打球はことごとく底をはじき、夢中でつかもうとするほど失敗を繰り返す。「一番嫌いな練習メニュー」になりかけたころ、監督から声をかけられた。「違う。これはやみくもにとるための練習じゃなくて、きれいな捕球の形を作るための練習なんや」
   □    □
 きれいな捕球の形とは何か。
 ゴロが来ると内野手はまず、体の正面で打球を迎えられるよう移動し、腰を落とす。グラブは寝かさず、手のひら部分をしっかりと立て、その中心に打球を収める。と同時に、右手でグラブにふたをする。これが捕球の基本動作だ。でも実際には、こうした基本が少々おろそかでも、グラブの性能のお陰で捕球できてしまうことが多い。スリッパだと、靴底の角度が少しぶれただけで球がはじかれる。ごまかしのきかない条件下で技術の未熟さをあぶり出し、基本を徹底させる。それが、この練習の狙いなのだ。同じように捕球の精度を上げる練習として、幅の小さい市販のミニグラブを使ったり、四角い板を手のひらに装着したりしてノックを受ける方法がある。
 だが、吉本監督は言う。
 「ミニグラブは買わなきゃいけないし、板は打球が当たると響いて痛い。その点、スリッパの底は適度なクッションがあって手になじむ。何より学校には、使い古されて廃棄処分されるスリッパがたくさんあるからね」高校野球ならではの、エコで安価な練習方法というわけだ。
   □    □
 冨君がコツをつかんだのは、入部から半年以上たった昨年末だった。
 「きれいな形を意識して続けていたら、ある時、急に捕れるようになった。そこでスリッパをグラブに替えたら、ポン、ポン、ポンと、本当にリズムに乗ってキャッチできる。コツをつかめば簡単とは聞いてたけど、ここまでとは」彼は今春から内野の要、遊撃手を任されている。(宮武努)
■心得
一、バウンドを読み、最も捕球しやすい位置で打球を迎える
一、スリッパの底を正面に向け、中心で打球を受け止める
一、同時に右手でしっかりボールをつかむ
■アンケートから:基本徹底に腐心 共通
 「打撃は水もの。一番大事なのは守備力だ」
 高校野球を取材していると、多くの監督がこう話すのを耳にする。
 捕球技術は基本中の基本。朝日新聞が5月に実施した県内全校アンケートでは、多くのチームがとっておきの上達メニューを教えてくれた。
 白陵(高砂市)は、アップシューズを左手にはめてキャッチボールをしたり、壊れた卓球ラケットを握ってノックを受けたりしている。スリッパノックと同様、右手のフォローが磨かれる。
 親指と人さし指の間の網を外したグラブで捕球練習をしているのは西脇(西脇市)。グラブの中心の手のひら部分で打球をつかむ感覚を養う。
 西宮北(西宮市)は、部員のベルトの背中側に2リットル入りペットボトルをひもでぶら下げ、ノックをする。ひもの長さは、部員が直立すればボトルが宙に浮き、腰を低く落とせばボトルが地面に横倒しになる程度。考案者の辻克樹監督は「ボトルが浮かないよう低い姿勢でゴロを追い、捕球時は横倒しになるまで十分腰を落とさせる」と狙いを語る。
 どのチームも基本の徹底に心を砕いている。
$とっちゃんのブログ