グランド・イリュージョン/NOW YOU SEE ME (9点) | 日米映画批評 from Hollywood

グランド・イリュージョン/NOW YOU SEE ME (9点)

採点:★★★★★★★★★☆
2013年11月2日(映画館)
主演:ジェシー・アイゼンバーグ、マーク・ラファロ、ウディ・ハレルソン、メラニー・ロラン、アイラ・フィッシャー、マイケル・ケイン、モーガン・フリーマン
監督:ルイ・ルテリエ


 映画館で見た予告編を見て、面白そう!と思っていた作品。予告編だけでここまで見たい!と思った作品は数年ぶりかもしれない。

【一口コメント】
 文句なく2013年最高の作品、ここ数年でもTOPの作品かもしれない。

【ストーリー】
 マジシャン・ダニエルの前に、ある日謎のカードが届けられる。カードに記してあった場所を訪ねると同様にカードを手にした3人のマジシャンが集まっていた。ダニエルの元アシスタントであり脱出魔術の使い手ヘンリー、メンタリストのメリット、そして奇術師のジャック。この日から1年、4人は"フォー・ホースメン"としてラスベガスの豪華ホテルでショーを開催できるほどの地位を築いていた。
 そのショーの最中にパリの銀行から金を盗み出すという大技を行う。それがきっかけとなり、FBIのディランとインターポールのアルマが4人を追うのだが、証拠を押さえることができず、マジックの種明かしの名手サディアスに助けを求める。
 舞台はラスベガスからニューオリンズへと移るが、そこでも4人が手かげるイリュージョンの前になす術もない。そして最後のイリュージョンはニューヨークが舞台となる・・・。

【感想】
 久々にThis is HOLLYWOOD!的なエンターテインメントを見させてもらった。
タイトルにもあるようにイリュージョンを扱った作品であり、映画との相性はもともと抜群!4人のマジシャンをFBIとインターポールが追いかけ、カーチェイスや銃撃シーン、さらにアクションなども盛り込むというある種、王道的な展開でありながら、死者は出ない。あくまでもエンターテインメントである。さらに脚本の秀逸さが加わり、2時間の上映時間、まったく飽きることなく最後まで楽しめる。

 まずは導入部分。ダニエルが女性を前に「トランプを指で流していくから見えたカードを覚えて」という古典的なマジックを披露するのだが、ビルのネオンを使ってその回答を見せるという演出もさることながら、おそらくほとんどの観客が作品中で見せられた答えと同じカードを覚えているという素晴らしい演出。これぞマジック!手品を知っている人間なら考えれば直ぐにわかるタネを仕込んでいるのだが、映画のオープニングとして、観客を物語りに引き込むという意味では満点!
 それに続くメンタリストの演出も見事。夫婦の隠された真実を暴きつつ、催眠術を使いながら違法すれすれに強引にお金を巻き上げる。そしてキャラクター紹介も兼ねて、他の2人に対しても同様の演出が待っている。
 ここまでのシーンだけでもすっかりこの作品が好きになってしまう。そして第1のイリュージョンで度肝を抜かれる・・・。

 ラスベガスのMGMホテル(ボクシングの世界王者決定戦なども開催される)という世界トップクラスのエンタメの本場で、そのイリュージョンは展開される。その中身はこうだ。観客の中からランダムに選ばれたお客の銀行からお金を盗んでくるというイリュージョン。しかも観客はフランスのパリからの訪問客。ということでラスベガスからパリに瞬間移動し、かつ銀行の金庫から盗んできたお金がラスベガスの会場の上空から舞い落ちてくるという壮大なイリュージョン。しかもこれがイリュージョンではなく、実際にパリの銀行からお金が消えてしまったことでFBIとインターポールが4人のマジシャンを追う展開になってしまう。
 第2のイリュージョンは舞台をニューオリンズに変える。そこで行われたのは4人のスポンサーである保険会社のオーナーの個人口座からハリケーンの時に保険金をもらえなかった観客全員の口座へお金を送金するというこれまた素晴らしいイリュージョン。
 第3の舞台はニューヨークのファイブ・ポインツ。ここではプロジェクション・マッピングという最新技術を交えたイリュージョンが展開される。

 これらの演出が本当に見事。もともとも見栄えのするイリュージョン・ショーだが、そこに映画というキング・オブ・エンターテインメントの要素が加わることで本当に華麗かつゴージャスな世界がスクリーン上で繰り広げられる。これが本当に格好よい!だからといって現実ではあり得ないなぁ・・・とはならずに、本当に現実でもあり得るかも!?と思わせるだけのリアリティある演出が本当に見事。
 その大きな要因として、これらの「映画だからできるんだろ!?」という超絶トリックを解き明かしてくれる人物がいる。モーガン・フリーマン演じる元マジシャンがそれだが、第3のイリュージョンも含めてすべての謎を解き明かしてくれるため(第2のイリュージョンに関してはモーガン・フリーマンではなく、"フォー・ホースメン"がヒントを口にする(飛行機での些細な会話の内容)ことで解き明かされる)、謎解きされないミステリーのようなモヤモヤ感も一切ない。
 またこの謎解きが実に見事であるだけでなく、メンタリストの催眠術が実に良い味を出している。オープニングの夫婦から金を巻き上げるシーンもそうだが、ニューオリンズのアメフトのシーンも「こういう展開になるんだろうな」と思いつつも、実際にそうなった瞬間の爽快感たるや、本当に気持ち良い。

 もう1つ大きな要素が、箱の中にウサギを入れると次の瞬間消えてしまった!(実は鏡で見えない空間を作り出している)トリックをはじめ、テレビなどでよく見る細かいマジック。警察署に連行されたダニエルが手錠を外すシーン、そしてその鍵が缶コーラに入っている演出、トランプを剣に突き刺して正解のカードを見せるシーン、ピラニアの水槽から脱出する演出・・・こういったよく見るマジックが随所に散りばめられていることで大掛かりなイリュージョンもタネ明かしとあいまって現実味を増す。
 そしてこういった細かいマジックが後の大掛かりなイリュージョンにも応用されているなど、このあたり脚本の伏線の回収の上手さが光る。
 そして脚本という意味では、「近づいていては見えないものが、遠くに離れると見えてくる」など、作品中で繰り返し使用される台詞もかなり多い。この台詞はこの作品の本質を突いており、原題である「NOW YOU SEE ME」も実に上手いタイトルだと思う。
 また台詞だけでなく、催眠術によって2度もエア・バイオリニスト者が登場するなど、このあたりの台詞や演出の伏線としての使い方やその回収方法も素晴らしい。全世界でシリーズもの映画しか売れないと言われて久しいが、シリーズものでなくてもこういう高品質な脚本が年に1度は出てくるあたりはさすがハリウッド。邦画であれば10年に1度あるかないかのレベルであり、やはり邦画はまだまだ遠く及ばないと実感させられる。

 そしてマジックには欠かせないミスディレクションもお見事!イリュージョンにおけるミスディレクションもそうだが、最重要人物である"アイ"なる人物についても次から次へと怪しい人物が浮上しては消えていく。このあたりのテンポの良さというか、見せ方が本当に素晴らしい。謎解きは決してついていけないほど速くもなく、ドラマ部分もちょっとタルイなと感じるほど遅くもなく、かつ程よいタイミングで種明かしも入り、本当に映画そのものが監督の思った通りに観客を動かしているイリュージョンなのではないか!?と思わされる。
 唯一残った"この脚本書いた人間、どれだけ頭良いんだ!?"という謎もエンド・ロールの中にあの偉大なるマジシャンの名前を発見し、クリアになった。その名は"Magician of the Millenium"のニックネームを持つデビッド・カッパーフィールド。自由の女神を消したり、万里の長城を潜り抜けたり、誰も思いつかないような壮大なイリュージョンを数々披露してきたマジシャン。彼が関わっているならこの作品のレベルの高さも納得だ!

 これぞ、ハリウッド映画!って映画を久々に見た。2013年最高の作品です。アカデミー賞脚本賞も狙えるのではないだろうか?タネを知った上でもう1度見てみたいと思える作品です。