皇帝ペンギン(7点) | 日米映画批評 from Hollywood

皇帝ペンギン(7点)

採点:★★★★★★★☆☆☆
2005年7月31日(映画館)
吹替:大沢 たかお、石田ひかり
監督:リュック・ジャケ


 予告で見た映像、そして口コミで評判が良いため、見に行った作品。


【一口コメント】
 外見からは想像もできない過酷な現実を生きるペンギンたちのドラマです。


【ストーリー】
 氷の大陸、南極大陸に生きる皇帝ペンギンの生態系を追ったドキュメンタリー映画。冬の訪れと共に産卵のためにいろんな場所から、皇帝ペンギンたちが行進をして、一箇所に集まってくる。そして集まった場所で求愛の行為を行い、産卵し、子育てをし、そして再び海に帰っていく。


【感想】
 まず最初に、この映像を撮ったスタッフたちの努力に敬意を払いたい。極寒の地で1年に及ぶロケを成功させたその苦労は想像を絶するものがあったのではないだろうか?

 そして人間の世界からは想像も出来ないような厳しい世界の中で生きるペンギンたち。
 まず、無事産卵した母親がエサを求めて海へと行っている間、父親ペンギンたちはマイナス40度という強風の吹き荒れる中、3ヶ月間食事も採らずに、ひたすら卵を温め続け、母親の帰りを待つ。
 一方、母親も海でアザラシに襲われて、中には命を落とすペンギンもいる。無事に父と子の待つ場所へと戻った母親たちのもとに更なる悲劇が待っている。嵐の寒さに耐え切れずに、凍死してしまう子供。そして3ヶ月間の絶食の末にエサを求めて海へと向かう途中で力尽きる父ペンギン。
 そうした苦難の末に無事、春を迎える子ペンギンとその両親。こうして皇帝ペンギンたちは命をつないでいくのだ―――。

 物語前半はほのぼのとしたペンギンたちの映像を中心に進むが、物語が進むにつれて、過酷な現実がスクリーンに映し出される。
 アザラシに襲われる母親、それがもう一つの命を奪ってしまう。すなわち、母親の帰りを待つ子供の命。
更に、冬の最期の嵐に耐え切れずに死んでしまう子供。その死体を見ながら途方に暮れる母親。そして他の親の子供を奪おうと狂気に陥る母親。
 苦しみと悲しみ。それがスクリーンを通して、伝わってくる。
 台詞が極力少ないため、映画が本来持つパワー、映像の力をまざまざと見せつけられる。

 しかし自分が一番心を揺さぶられたのは、アザラシに襲われるはペンギンでもなく、子の悲しみに暮れる母ペンギンでもない。それは行進についていけずに取り残されたペンギンの映像。果てしなく続く氷の世界に、たった一匹だけ取り残されたペンギン。見渡す限りの白銀の世界に、そこだけが黒く映る。ぺたぺたと歩くペンギン、そして立ち止まって、途方に暮れる。この淡々とした映像が、ものすごく心に深く残った。

 人間の世界では見れない貴重な映像と過酷な現実に心を揺り動かされた、そんな作品でした。