「夜明けのうた」
作詞 岩谷時子 作曲 いずみたく
歌 岸洋子(1964年キングレコード)



我が国には「マイウェイ」の前に、この「夜明けのうた」がありました。いずみたくさんの「夜明けのうた」は、岸洋子さんの歌唱で、リリースされた瞬間からスタンダード化が約束されていた傑作です。僕らの世代は、音楽の教科書に既に「夜明けのうた」が載っており、はじめから「定番」として聞いたものです。

岸洋子さんは、山形県酒田市の生まれで、酒田東高校の時の同級生には俳優の成田三樹夫さんがおられたそうです。東京芸大を卒業して、二期会の研究生としてオペラ歌手を目指しますが、膠原病となり断念されたそうです。その病床で聴いた、エディット・ピアフのレコードに「生きる力」を与えられ、シャンソン歌手となります。昭和37(1962)年、キングレコードと契約、「たわむれないで」でデビュー。そして、昭和39年、岩谷時子さんと、いずみたくさんが書いたのがこの「夜明けのうた」です。



http://music.goo.ne.jp/lyric/LYRUTND4726/index.html

岸洋子さんの「夜明けのうた」は、一曲のなかに「人生そのものが凝縮されている」と当時評されたように、日本の新しい「人生讃歌」として、大ヒットしました。昭和39(1964)年のレコード大賞歌唱賞を受賞しました。


昭和40(1965)年、日活で映画化された、浅丘ルリ子さん主演の傑作『夜明けのうた』を観ると、この歌が、どのように受け入れられていたのかが、よくわかります。

脚本は山田信夫さん、監督は蔵原椎繕さん。そうです。石原裕次郎さんの『憎いあンちくしょう』(62年)のコンビです。浅丘ルリ子さん演ずるヒロインは典子。だから、この『夜明けのうた』は、『憎いあンちくしょう』とその姉妹編『何か面白いことないか』(63年)に続く、浅丘ルリ子さんの「典子三部作」の最終作なのです。石原裕次郎さんは出ておりませんが、作家の視点は、最初からヒロインの浅丘ルリ子さんに向けられていた、と考えれば納得です。



さて、この『夜明けのうた』の典子は、押しも押されぬミュージカル女優。奔放な私生活はとかくマスコミのネタになっていますが、彼女は我が道を往くわけです。で、作詞家の岡田真澄さんを不倫をし、エリートの医者・小高雄二さんというセックスパートナーがいても、どこか空しい。そんな彼女のために、プロデューサーと作家の小松方正さんたちは、彼女の私生活を赤裸々に綴ったミュージカル「夜明けのうた」を企画します。

自分自身をさらけだすミュージカルに戸惑い、その台本を読むことすらできない典子。彼女は自分と向き合うことができないのです。混乱する典子は、自棄になります。果たして、彼女は舞台に立つために、自分と向き合うことができるのでしょうか? という、日活映画らしい、アイデンティティの相克が、観念的に貫かれ、それを女優としてキラキラ輝いていた、最高に美しい浅丘ルリ子さんの肉体が演じるのです!

とにかく映画に酔う、映像に見惚れます。蔵原演出の良さ、山田脚本の良さ、そして浅丘ルリ子さんの良さ! 交通事故を起こしたルリ子さんが、おでこにバンソウコウを張るショットがあるのですが、これがイイ! 可愛いのです!

もちろん、岸洋子さんがご自身として、ナイトクラブのステージで「夜明けのうた」を歌うシーンもあります。日活映画がイイ、と思う瞬間は、例えばこのシーンです。岸洋子さんは自分のヒット曲「夜明けのうた」がミュージカル化されることを喜んで、その主演者である典子から花束を受け取ります。これも宣伝のために製作者が仕組んだ茶番であり、典子は欺瞞に満ちたこの花束贈呈に嫌気が差して(この時点では、主演するつもりはない、という気持ちなので)いるという状況のなか、岸洋子さんのステージが映画に登場するわけです。

歌謡映画なら、こんな失礼な話はないのですが、これもすべて、ヒロインの典子に仕掛けられたハードルなのです。このハードルを越えてこそ、真の「夜明けのうた」があるわけなのですから。で、何が感動的かというと、ラストに流れる「夜明けのうた」です。この映像を観るために、観る側のコンディションによっては息苦しい展開が、とても重要となってきます。ラストに約束されている、最高の「夜明けのうた」。僕は、どのヴァージョンよりも好きです。

でも、残念ながら『夜明けのうた』はDVD化されておりません。CSなどで放映される機会もありますので、チャンスがあれば是非!

これもまた「スタンダードナンバー~オトナの歌謡曲~」で歌われる予定です。

https://ticket.kyodotokyo.com/jigyo.do?jigyoBango=9Y27&unitCode=671

日本のポップスを確立した3人の作曲家、
中村八大・いずみたく・浜口庫之助の
名曲を歌い継ぐコンサート。

2009年11月24日(火)新宿文化センター大ホール
開場18:00 開演:18:30

出演:由紀さおり/遊佐未森/今野英明/バンバンバザール/土岐麻子/羊毛とおはな/中山うり/藤澤ノリマサ/中村中/阿部芙蓉美
演奏:鈴木総一朗
総合司会:柿木央久
「黒い花びら」
作詞 永六輔 作曲 中村八大
歌 水原弘(1959年7月東芝音楽工業)



”水原弘の”というより、”日本の歌謡曲の”代表曲といえるのが、この「黒い花びら」です。水原弘さんの抜群の歌唱力、”流行歌ばなれした”アレンジ、キャッチーなメロディ、どれをとっても”カッコイイ”曲だと思います。この歌がヒットした昭和34(1959)年は、前回、ご紹介した「黄色いサクランボ」も大ヒットした年でもあり、レコード業界、歌手の世界も大きく変わる転換期でもありました。

映画の世界では、日活アクションが本格的に撩乱し、小林旭さん、石原裕次郎さんを両輪に、”邦画ばなれした”アクションは、それまでの活劇とは一線を画す、新しくてカッコいいものとなり、日本のアクション映画、後のアクションドラマへの道がこの年から始まる、と僕はみております。

さて「黒い花びら」の水原弘さんは、高校時代に文化放送の「素人ジャズ喉自慢」で優勝、ジャズ喫茶で歌っているところを、渡辺プロダクション(1955年設立)の渡辺美佐さんがスカウト。ダニー飯田とパラダイスキングの初代ヴォーカルでもありました。そして空前のロカビリーブームが続くなか、日劇ウエスタンカーニバルの舞台やジャズ喫茶のステージに立ち、この「黒い花びら」でレコードデビューを果たします。発足間もない、東芝の専属歌手として、なんと7月発売にも関わらず、年末までに30万枚を超すヒットとなります。

まさしく、新生レコード会社の新星だったわけです。そして、この曲は、この年スタートしたばかりの、第一回レコード大賞を獲得、この年を代表する大ヒット曲となりました。デビュー間もない、水原弘さんの姿を観ることができるのが、東宝映画『青春を賭けろ』(7月28日 日高繁明)です。「黒い花びら」のカップリング曲をフィーチャーした、夏木陽介さんの主演作です。水原さんは歌手役で、渋いノドを披露してくれます。

続く東宝映画『檻の中の野郎たち』(8月4日 川崎徹広)にも出演、「黒い花びら」がヒットするなか、年末には日活映画『青春を吹き鳴らせ』(12月27日 舛田利雄)、そして、年が明けて東宝映画『黒い花びら』(1月27日 瑞穂春海)が作られます。テレビの映像がほとんど残っていない、この時代の水原弘さんを、一部とはいえ、歌っている姿を観ることができる映画は貴重です。

そして、これらの映画、すべての音楽を担当しているのが、中村八大さん! BGMもイカします。CSなどでたまに放送しているので、一見の価値アリです。

僕らの世代で、水原弘さんというと「忍風カムイ外伝」の主題歌「しのびのテーマ」です。これがカッコ良かったんです。抜け忍の孤独と、水原さんのイメージがダブルわけです。



それから、子供のハートをガッチリつかんだのがこの「ヘンな女」です。




さて、「黒い花びら」を、宇多田ヒカルさんのお母さんでもある、藤圭子さんが熱唱したヴァージョンを聴いていると、この曲の持つ「歌の力」のすごさを、改めて感じます。



これもまた「スタンダードナンバー~オトナの歌謡曲~」で歌われる予定です。

https://ticket.kyodotokyo.com/jigyo.do?jigyoBango=9Y27&unitCode=671

日本のポップスを確立した3人の作曲家、
中村八大・いずみたく・浜口庫之助の
名曲を歌い継ぐコンサート。

2009年11月24日(火)新宿文化センター大ホール
開場18:00 開演:18:30

出演:由紀さおり/遊佐未森/今野英明/バンバンバザール/土岐麻子/羊毛とおはな/中山うり/藤澤ノリマサ/中村中/阿部芙蓉美
演奏:鈴木総一朗
総合司会:柿木央久
「黄色いサクランボ」
作詞 星野哲郎  作曲 浜口庫之助
歌 スリー・キャッツ(1959年8月コロムビア)



なんとものどかな、馬が歩いて来そうなイントロですが、これが1959年型の”お色気”です。

殿方と少年は、なんたってお色気です(笑) どんなエロよりも、キョーレツなのが、こうした”お色気ムード”だったりします。この歌が流行したのが、昭和34(1959)年。映画『Always 続・ 三丁目の夕日』で描かれている年です。これまでのお色気ソングといえば、昭和20年代末を席巻した神楽坂はん子さんの「ゲイシャ・ワルツ」「見ないで頂戴お月様」「こんなベッピン見たことない」「こんな美男子見たことない」などの、お座敷ソングの数々でした。

これらのお座敷ソングは、歌の中身が”お色気”ということではなく、歌っているのが芸者さんという、パフォーマーの持つ”お色気”が、巷の殿方(そして思春期の少年。これはいつもセットなのです・笑)に受けたということでしょう。いわば、お色気のプロが歌うことで、お色気を醸し出す。これが昭和20年代までの、お色気ソングの有り様でした。

それは、昭和30年代の五月みどりさんや、その妹さんの小松みどりさんへと継承されますが、五月さんの場合は、神楽坂はん子さんが作った”お座敷ソング”の継承者でもあるわけで、五月さん=芸者さんという映画などのヴィジュアル・イメージが醸成されていくわけです。

で、「黄色いサクランボ」です。なんたって「若い娘は~」です。「お色気ありそで~」「なさそで~」と来るわけです。この歌は芸者さんのような、お色気のプロの歌ではなく、あくまでも「若い娘」が主体なのです。お色気の一般化、フツーの人々のお色気を歌うようになったということが、画期的なのです。

しかも、この頃から「健康的なお色気」という言葉が使われるようになります。ということは、これまで「お色気は不健康なもの」だったのか! と、突っ込みたくなりますが、あくまでも建前では、お色気を標榜することができるのはプロだけ、という棲み分けがあったのです。この変化は、昭和33(1958)年3月31日をもって、赤線が廃止されたということと、大きく関連があります。売春は違法だけど、恋愛は自由。「健康的なお色気」は「健康的なセックス」という、なんだか、やっぱり「セックスは不健康」というそれまでの不健康な考え方がちらつきますが、ともあれ、昭和33年を境に、映画や歌における”お色気の在り方”が大きく変わってきたのは間違いありません。

というわけで、スリー・キャッツさんの「黄色いサクランボ」です。歌う三人娘は、小沢桂子さん、上原由里江さん、梅田和代さん(初代~1960年2月には、上原さんは妊娠と、梅田さんが結婚を理由にそれぞれ脱退。新メンバーは、小沢さん、佐伯みち子さん、堀田直江さんとなりますが、間もなく上原さんが復帰します。というわけで、結構メンバーは異動しているのです)。

作詞は、後に傑作「自動車ショー歌」を書かれる星野哲郎さん、作曲は我らがハマクラさん。カップリングの「ピンク・ムーン」(!)とともに、松竹映画『体当たりすれすれ娘』(1959年8月3日・穂積利昌監督)の主題歌・挿入歌として吹き込まれたものです。この映画、九条映子さん、有沢正子さん、中圭子さん扮する、コーラス・グループ「スリー・キャッツ」が活躍し、大暴れする「お姐ちゃん」映画です。映画のスリー・キャッツは、女優さんたちが演じているで、ややこしいですが(笑)ともあれ、松竹版「お姐ちゃん」シリーズを目論んで企画されたものでしょう。

「お姐ちゃん」シリーズとは、この頃、東宝で、団令子さん、中島そのみさん、重山規子さん主演による、現代的な女の子がヒロインの『大学のお姐ちゃん』(1959年3月3日杉江敏男監督)を第一作とする明朗喜劇。昭和39(1964)年の『お姐ちゃん三代記』(筧正典監督)まで8作も作られました。

もとは、戦前の松竹映画「与太者」シリーズの女の子版として東宝が作ったのですが、昭和30年代らしく、自立している職業婦人であるヒロインが、仕事やボーイハントに張り切るというものです。

団令子さん=週刊誌記者
重山規子さん=ダンサー
中島そのみさん=お金持ちお嬢さん(だけど跳ねっ返り・笑)

三人とも、お金には困っていない。ナイトクラブへも自腹で出かけることができるし、車の運転もできる。今では当たり前のことですが、この頃は、画期的なことだったのです。

そうです。戦後の映画における女の子像は、このあたりから、大きく変わってきたのです。自立する女の子、自由恋愛、健康的なお色気なのです。というわけで、松竹が東宝の「お姐ちゃん」シリーズを意識して作った『体当たりすれすれ娘』のスリー・キャッツもまた、自立する女の子です。自分で稼いでるんだから、お色気もOK、ということで成立したのが「黄色いサクランボ」のお色気なんじゃないかと思います。

でも、「つまんでごらんよ」なんて! かなり大胆ッすね(笑)
http://j-lyric.net/artist/a001371/l001023.html

というわけで、スリー・キャッツさんのピンク・ムードは、お色気のイメージをぐっと身近なものにしてくれたのではないかと。

で、この「黄色いサクランボ」ですが、僕らの世代は、やっぱり昭和45(1970)年に颯爽と登場した、ゴールデンハーフのデビュー曲というイメージが強烈です。エバ、マリア、ルナ、ユミの四人組で「8時だョ!全員集合」はじめドリフターズの番組によく出ていました。デビュー間もない、ゴールデンハーフの「黄色いサクランボ」は日活の『野良猫ロック セックスハンター』(1970年長谷部安春監督)で、堪能できます。



これもまた「スタンダードナンバー~オトナの歌謡曲~」で歌われる予定です。

https://ticket.kyodotokyo.com/jigyo.do?jigyoBango=9Y27&unitCode=671

日本のポップスを確立した3人の作曲家、
中村八大・いずみたく・浜口庫之助の
名曲を歌い継ぐコンサート。

2009年11月24日(火)新宿文化センター大ホール
開場18:00 開演:18:30

出演:由紀さおり/遊佐未森/今野英明/バンバンバザール/土岐麻子/羊毛とおはな/中山うり/藤澤ノリマサ/中村中/阿部芙蓉美
演奏:鈴木総一朗
総合司会:柿木央久