鳥巣清典の時事コラム218「髙橋洋一教授=財務省が隠す650兆円?」 | 絶対に受けたい授業「国家財政破綻」

鳥巣清典の時事コラム218「髙橋洋一教授=財務省が隠す650兆円?」


髙橋洋一氏の新著『財務省が隠す650兆円の国民資産』(講談社)が主張するところを整理してみます。

①日本政府は600兆~700兆円にも上る膨大な資産を保有。とくに、うち500兆円を占める金融資産(現金・預金や有価証券のほか、特殊法人などへの貸付金や出資金、および年金積立金管理運用独立法人への預託金など)は、年金見合い資産121兆円を除けば、原則として売却できる。
②だが、当然ながら、霞が関はパワーの源泉である資産の売却を何とか阻止しようとする。財務省は、財政関係のパンフレットに、「我が国政府の金融資産の多くは将来の社会保障給付を賄う積立金であり、すぐに取り消して債務の償還や利払いの財源とすることはできない」と予防線を張っている。
③バランスシートが苦手な学者やマスコミは、この財務省の言い分を鵜呑みにし、そのまま発言する人が多いが、これが真っ赤な嘘であるのは、バランスシートをチェックすればわかる。
金融資産500兆円の内訳を見ると、貸付金155兆円、有価証券92兆円、出資金58兆円、運用預託金121兆円など、財務省の取り崩せないとする年金の積立金は121兆円で、資産の2割程度に過ぎない。財務省の「多くが積立金」という表現は詐欺的であることがわかるだろう。固定資産を除く300兆円くらいは容易に売れるはずだ。


【鳥巣注】
問題が大きいのは、髙橋氏が元財務省の人であるという事だ。
しかも、政府のバランスシートを氏自身が最初につくっている。
仮に”現役”なら、大変な騒ぎになる。
「いや、国民のみなさま、申し訳ありませんでした。政府には、650兆円にものぼる隠し資産がありました。少なくとも、300兆円は売却可能と判断されます。よって、年金の受給開始年齢引き上げなど一連の給付削減策は取り消し、消費税増税も延期させて頂きます」
という声明になるところだ。
テレビも新聞も、当然、大きく報道するところだろう。
一体、どうなっているのか?

財務省のホーム・ページには、平成23年6月に発表した「平成21年度『国の財務書類』について」が載っている。
http://www.mof.go.jp/budget/report/public_finance_fact_sheet/national/fy2009/2011_03.pdf
簡潔で解説も行き届いている。
<『国の財務書類』は、企業会計の考え方を活用して、国全体の資産や負債(ストック)、費用や財源(フロー)といった財政状況を、一目で見ることができるようにしたものです>との説明がある。


【国の貸借対照表(平成21年度末)】
(単位:兆円)
<資産の部>         <負債の部>
貸付金・・・155・0    公債・・・・・720・6   
有価証券・・・91・7    公的年金預り金130・4
運用預託金・121・4    政府短期証券  96・8
出資金・・・・58・2

資産合計は、647兆円。
負債合計は、1019兆円。
となっている。

また、「ストックの状況(貸借対照表)」のページには、<平成21年度末の資産合計は647・0兆円であり、有形固定資産が全体の約3割、有価証券と貸付金と運用預託金で全体の約6割を占めています>とある。

資産合計647・0兆円

○現金・預金18・8兆円(2・9%)=現金、日本銀行預金及び外貨預金
●有価証券91・7兆円(14・2%)=為替介入(円売り・外貨買い)に伴い取得した外貨証券や日本郵政株式の一部など。(*外貨証券に対応する負債は政府短期証券<外国為替資金証券>)
●貸付金155・0兆円(23・9%)=地方公共団体や政策金融機関等への長期・低利での財投貸付など。(*財投貸付に対応する負債は財投債<公債>など)
○運用預託金121・4兆円(18・8%)=将来の年金給付のための積立金を運用預託したもの。(*対応する負債は公的年金預り金)
●出資金58・2兆円(9・0%)独立行政法人等への出資金

さらに、「各資産の詳細」を見てみます。

有価証券=有価証券のうち、外貨証券が約9割を占めています。
外貨証券82・0兆円=米ドル建て債券については1米ドル91円で換算。その他9・8兆円。
外貨証券は、外国為替資金特別会計(外国為替相場の安定のために設けられた会計)が保有する資産であり、円売り・外貨買いの為替介入に伴って取得したものです。
為替介入は政府短期証券(外国為替資金証券)を発行して円貨を調達し、調達した円貨を外国為替市場で売却して外貨を購入しています。
このため、外国証券に対応する負債は政府短期証券(外国為替資金証券)となります。
外貨建て資産のため、為替相場の変動により金額が増減します。また、市場価格による時価評価を行っているため、市場価格の変動によっても金額が増減します。
*その他9・8兆円=日本郵政株の一部です

貸付金=貸付金のうち、財投(財政融資資金)貸付金が約9割を占めています。
財政融資資金貸付金139・0兆円=地方公共団体や政策金融機関などへの貸付金です。
財投債(公債)により調達した資金などを財源として、中小零細企業、教育、社会福祉などの分野に、民間では対応が困難な長期・低利での貸付が行われています。
このため、財政融資資金貸付に対応する負債は財投債(公債)などとなります。
*その他16・0兆円=日本学生支援機構への貸付(無利子奨学金の原資)などです。

出資金=出資金のうち、独立行政法人への出資が約5割を占めています。
独立行政法人28・7兆円→国際協力機構や日本高速道路保有・債務返還機構、福祉医療機構などへの出資です。
特殊会社15・5兆円→日本郵政株式のうち国が政策目的をもって保有しているもの(日本郵政株式全体の3分の1)や日本政策金融公庫・日本政策投資銀行などへの出資です。
その他14・0兆円→国際機関や国立大学法人などへの出資です。

*出資金と有価証券の違い
国有財産として管理されている政府出資等のうち、国が政策目的をもって保有しているものを「出資金」として計上しています。政策目的をもって保有していない有価証券については「有価証券」として計上しています。

【鳥巣注】
以上が、髙橋教授の述べる「300兆円くらいは、すぐ売れる」という政府資産の中身。
髙橋氏の意図は、「役人天国の源になっているのは、規制だけではない、600~700兆円という膨大な保有資産の威力がある。膨大な資産を有するとは、裏返せば政府の外郭団体が非常に大きいということを意味している。多くの外郭団体や特殊法人に資金を融資しているから、結果的に資産が巨額になる。そして、融資の見返りとして天下りポストを拡大しているのだ。
この意図で霞が関がつくった特殊法人や独立行政法人は、実に約4500.そこに2万5000人が天下りし、国費が12兆円も注ぎ込まれている」(213ページ)
と指摘しているように、政府の外郭団体潰しに狙いがある。
これに対し、財務省のある職員は、
「彼は、貸付金や出資金を整理すれば良いと言いたいのだろう。しかし、一度売ったり、整理したらなくなってしまう。一方で、毎年、積み上がって行く負債がある。一度売ったら終わりのものに注目しても・・」
と漏らした。
これは、見解の相違とも言える。
国民が、どちらの言い分に納得するか。


*以下、随時加筆していきます。