Yの悲劇・・・ | 鳥取大学医学部保健学科検査技術科学専攻のブログ

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こんにちはラブラブ


曇りくもりの天気ですが、だんだんと春の気配が近づいているかんじです桜



今日は、飯島先生からのお話です。


長音記号2     長音記号1     長音記号2     長音記号1     長音記号2


飯島 憲司 

 今回は「Yの悲劇」について話します!!といってもかの有名なエラリー・クイーンの推理小説「Yの悲劇」ではなくて,Y染色体に関する話です。


 卵子は精子と融合(受精)して発生を開始することは言うまでもありません。つまり女と男がいてはじめて子孫が残せるということですが,この当たり前のことが危なくなるという話です。いずれ男が消えていなくなる時が来るらしいのです。


 皆さんすでによくご存知のとおり,ヒトの性染色体にはXYがあり,受精卵がXXをもつと女性になり,XYをもつと男性になります。生物の教科書本ではこうなっていますが,実は哺乳類では何もしないと生殖腺は卵巣に分化します。ところがY染色体上にある性決定遺伝子(SRY遺伝子)が働くと生殖腺は精巣になります。つまりSRY遺伝子があるかないかで,男性になったり女性になったりするわけです。

 もともとX染色体上の遺伝子の一部がSRY遺伝子に変異してY染色体ができたと考えられています。哺乳類の中でも単孔類はXY型ですが,SRY遺伝子をもっていません。他の哺乳類は全てXY型でSRY遺伝子をもっています。哺乳類の祖先が原獣亜綱(=単孔類)と獣亜綱に分かれたのが中世代三畳紀(22.5億年前)ですから,SRY遺伝子ができたのはそれより後と考えられます。


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 ヒトのX染色体上には1,000以上の遺伝子が乗っているのに対して,Y染色体上には255(78あるいは45という意見もあります)しかありません。YXからできたわけですから,Yにも当初は1,000以上の遺伝子があったものと思われます。それがなぜはてなマーク現在では1/4にまで減ってしまったのでしょうか。

 生殖細胞が減数分裂をする時に相同染色体の間で対合がおこることはご存知のことと思います。この時に互いの遺伝子を比べて異常があると修復します。XXの場合はこの修復機構が働きますから正確な遺伝情報を維持できます。これに対して,XYの場合はY染色体は1本しかありませんから,対合ができません。つまり遺伝子が傷ついた部分の修復が効きません。傷ついたまま次世代に渡されることになります。このようにしてY染色体には世代毎に傷が蓄積されていきます。

 ここからは単なる想像です。傷ついた遺伝子は,ひとまず「使えない遺伝子」として一塊にしておくのではないでしょうか。

この塊が図



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(図をクリックすると大きくなります)Y染色体末端にある「遺伝子砂漠」ではないかと思います。砂漠の遺伝子は「TTCCC」の5塩基が延々と繰り返されています。そして何らかのきっかけで遺伝子砂漠が脱落すると,Y染色体は短縮します。

 この短縮化傾向は現在でも続いていて,あと600万年程するとY染色体そのものが消失するそうです。つまり男がいなくなるわけです。その時ヒトは一体どうやって繁殖していくのでしょうか。卵子だけで単為生殖する方法もありますが,この方法は遺伝子の交換がありませんのでいずれは行き詰ります。あまりいい方法ではありません。また魚類うお座のように環境によって性転換するものもありますから,女性がある日突然男性に変身することも考えられます。もっとも人類の祖先がチンパンジーさるの祖先と別れたのが600700万年前で,ヒト(ホモ属)になってからは200万年しか経っていませんから,600万年後のことはあまり心配する必要はないかもしれません。

 図はヒトゲノムマップから拝借しました。