あるところに三人の天使がいた。


Aさんは極めて大きな翼を持っていたので、誰よりも高く、遠く飛ぶことが出来た。


Bさんは極めて小さな翼を持っていたので、誰よりも低く、短い間しか飛ぶことしか出来なかった。


それに対してCさんは、Aさんのように大きな片翼と、Bさんのように小さな片翼を持っていた。


そのため、Cさんは両翼のバランスが取れず、飛ぶことが出来なかった。


それで、いつもAさんやBさんが飛ぶのを地上から眺めていた。


しかし、Cさんは内心ではいつもこう思っていた。


「Aさんは立派な両翼を持っていていいな。


自分もあんな両翼を持っていたら。


しかし、そんな俺でも、あのBさんよりはマシというものだ。


だって、Bさんは両翼ともあんなに貧弱なんだもの。


飛ぶ格好だってみっともないし。


それに比べたら、俺は片翼だけでもAさん並みのものを持っているんだ。


だから、俺の方がBさんよりもマシというものだ。」


ある日、神様がCさんのところに訪れて、言った。


「今日は、お前に話があって来たのだ。


お前の翼の大きさは左右が異なるが、その理由について話そう。


実は、わしがお前を作った直後に、悪魔がいたずらをして片翼を別のものに付け替えてしまったのだ。


本来ならば、お前の両翼はBさんと同じぐらいになる予定だったのに、


悪魔がお前の片翼を、Aさんと同じ大きさのものに取り替えてしまったのだ。


それで、お前は今日まで飛ぶことが出来なかったのだ。


しかし、お前が望むのならば、私がその大きな片翼を本来の大きさのものに取り替えてやろう。


そうすれば、Bさんのように飛ぶことが出来るようになるぞ。」


それを聞いたCさんは、あっさりと断わった。


「せっかくですが、お断りします。


私はこの大きな片翼を誇りにしています。


両翼ともBさんのようになるのは嫌です。


せめて片翼だけでもこの大きさのままでいさせてください。」


神様は言った。


「それではいつまでたっても、空を飛ぶことが出来んぞ。」


それに対して、Cさんは答えた。


「このままでかまいません。それでも飛べるように努力します。


そして、いつかはAさんのように高く飛んでみせます。」


すると、神様はそれ以上は何も言わず、帰っていった。


その後も、Cさんは一生懸命飛ぶ練習をしたが、いつまでたっても飛ぶことが出来なかった。




別の話。


あるところに、三人の女性がいた。


A子さんは大変な金持ちの家に生まれ育ち、容姿にも恵まれていた。


B子さんは大変貧しい家に生まれ育ち、容姿にも恵まれなかった。


C子さんはB子さんと同じぐらい大変貧しいうちに生まれ育ったが、A子さんと同じぐらいに美しかった。


それで、そのC子さんはいつもこう思っていた。


「私は貧しい家庭に生まれ育ったが、容姿には恵まれた。


だからこの容姿を武器にして、のし上がり、いつかはAさんのように大金持ちになってやる。」


しかし、実際には、C子さんの思ったようにはいきませんでした。


その容姿の美しさに惹かれ近づいてきた有能な男たちと結婚しては別れるということを繰り返していました。


その一方で、B子さんは相性の合う、相応の男性を見つけて、十分幸せに暮らしました。


そして、C子さんは、気が付くと、B子さんよりも惨めな人生を送っていました。




人間は誰しも野心というものを持っていますね。


さて、この野心というものには、ひとそれぞれ強弱がありますが、その強さはいかにして決まるのでしょうか。


私は、それは、その人が生まれつき持っている、一番の幸運な点と一番の不運な点の差によって決まるような気がします。


ある人に、何かしらの幸運があったとしても、別の不運との差が大きければ、その差を埋めようとして、無理な人生を送ったりするのではないかしら。


そして、その結果として、一番、幸福になれなかったりするのではないかしら。


逆に、その差が少ない人は、たとえ、いろいろなことに恵まれなかったとしても、それなりに幸せに暮らすのではないかしら。


何か、そんな気がするのです。



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