その7 からの続き)


その日の夕方、僕たち数人は集まって、彼の自宅に押しかけた。


玄関の呼び出しチャイムを鳴らすと、寝巻きのようなトレーナー姿の彼が出てきた。彼は、僕たちの訪問を予想もしていなかったのか、驚いた表情を浮かべた。彼の驚いた顔を見て、誰かが切り出した。


「おう、われ、今日はどうしたんなら。何で中学に来んかったんなら。」


すると、一瞬ひるんだ彼は、向き直って怒鳴り返した。


「わしゃ、あの中学には行かんのじゃ。お前らとももう遊ばんのじゃ。帰れ。帰れ。」


そう言うと、藤本は、ドアに一番近い者を突き飛ばして、玄関のドアを閉めてしまった。その後、僕たちは再度、呼び出しチャイムを鳴らしてみたりして、玄関越しに彼をからかってみたが、その玄関が開くことは二度となかった。僕たちはあきらめて彼の部屋の手前にある螺旋階段をぐるぐると歩いて、降りた。


「なんじゃあ、あいつは。」


「あがあなやつたあ、もう絶交じゃあ。」


不満をぶちまける彼らと一緒に階段を下りながら、僕はときどき彼の部屋の方を振り返ってみた。しかし、そこには彼の顔はなかった。


僕は階段を下りながら、ショックでぼんやりとしていた。僕は、その日まで、彼から何も聞かされていなかった。他の友達はともかく、今日まで2年間、毎日のように二人でいっしょに遊んでいた僕に何の説明もなかったことが信じられなかった。そして、今日、一方的に、もう二度と遊ばないと彼は言ったのである。僕は今日まで一体何をしていたのだろう。


他の者たちと別れて、帰り道をひとりで歩いていると、やがて広いネギ畑が広がってきた。ネギ畑の向こうには点々と小さな古い木造家屋が散らばっていた。ネギが夕日を浴びて青く輝いていた。僕はネギ畑の途中で立ち止まり、大粒の涙を落とした。



(以下、続く)