箱 | 備忘録(byエル)

3つめの箱も開けてしまえ
と君が言う
ロジックが固くて手に力が入らない
と私は言う

空は秋の色に青く
ウロコ雲なんかを散りばめているというのに

美容室の南向きの天窓から
あたたかな光が
ひざかけを包み
私の髪は脱色されていく

老人のように真っ白になってしまった髪は
魂を悪魔に売り渡してしまった役者のようだ

3つめの箱の中身は知らないんだ
と君が言う
認識できないものは開けたりできない
と私は言う

すっかり葉を落としたケヤキの木の枝に
残された2枚の葉が巻かれ
各々一匹ずつの蓑虫がもぐりこんでいる

葉に篭る必然はあるのだろうか
冬が寒いとは限らない
北風が吹くとは決まっていないというのに

3つ目めの箱に何が入っていたらいいのか?
と君が尋ね
何も入ってない可能性はないのか?
と私は尋ねる

だって
白髪の役者の髪をしたからといって
蓑虫の必然を嗤うことなんてできないじゃない

だって
空でウロコ雲が泳いでいるからといって
安心なんかできないじゃない

3つめの箱は開けられる前に
12月の風が暖かな光を奪いにくるかもしれない

それでも
箱を開けろと君はいう