「蝉しぐれ」をいち早く試写会で観た! | 三太・ケンチク・日記

「蝉しぐれ」をいち早く試写会で観た!


なんと、今までなんの景品がついたことがない「朝日新聞」から、初めて映画のお誘いがありました。藤沢文学の最高傑作と呼び声高い「蝉しぐれ」という映画です。「東京都ASA連合会」という新聞販売店の組織が、映画製作に資金の一部を提供したようです。さっそくFAXで申し込むと、間髪をおかず、招待券を2枚、届けてくれました。会場は近くの区民会館でした。これがよく言うところの「試写会」というやつなんですね。


藤沢周平が唯一映像化を認めた鬼才・黒土三男は、一切の妥協を許さない脚本作りに取り組み、構想から15年の歳月をかけ、小説以外では表現できないと言われた透明感を見事に映像化しました。と、チラシにあります。実はこの「蝉しぐれ」は、2003年8月からNHKで金曜時代劇で放送されたようで、その時の脚本も黒土三男が担当しました。第1話「蝉しぐれ/嵐」がモンテカルロ国際テレビ祭・ドラマ部門のグランプリを受賞した経歴があるそうです。どうして映画化されたのか、詳しい経緯は不明ですが、黒土監督自身が、「テレビでは表現できない『蝉しぐれ』の空気感と透明感を表現することができた」と語ったそうです。



近年、「時代劇」がブームと言われています。数多くの時代劇が製作されていますが、なかでも山田洋次監督の「たそがれ清兵衛」と「隠し剣 鬼の爪」は、原作が藤沢周平です。藤沢周平は文章の名手と称される作家です。故人となって10年近い月日が経ってもなお、評価が高まっているそうです。「蝉しぐれ」は、発表後17年経っても人気が衰えず、120万部を超えるロングセールスを記録し続けているようです。ブックオフでも、国内の一般小説とは別に、時代小説は分けていますね。でも、僕は時代小説はほとんど読みませんので、藤沢周平がどんな作家であるかはよく分かりません。


舞台は東北の小藩「海坂藩」。下級武士である養父の元で成長する牧文四郎。父は藩の派閥抗争に巻き込まれ、冤罪によって切腹を命じられる。その後、謀反を起こした父の子として数々の試練が待ち受けるが、幼なじみたちの助けと、剣の鍛錬によって日々を質素に、そして懸命に、母とともに生きる。ある日、筆頭家老から牧家の名誉回復を言い渡される。しかし、これには深い陰謀が隠されていた。文四郎は、藩主側室となり派閥抗争に巻き込まれた初恋の人・ふくを命懸けで助け出すことになる。その時、海坂藩には、悲しみをつんざく蝉の声が、いつまでも鳴き響いていた・・・。



おふく役の木村佳乃が、品があって素晴らしい。大した演技をしているわけではありませんが、ただいるだけでその存在感が伝わります。いわゆる空気感透明感とはこの人のためにある言葉のようです。文四郎役は市川染五郎は「それなり」でしたが、存在感のある脇役が凄い。緒方拳が出ているのはどうしてなのか判りませんが、原田美枝子、大地康雄、加藤武、柄本明、田村亮、大滝秀治、等々。そうそう、今田耕二とふかわりょうは、まあまあの演技でご愛敬。文四郎・ふくの子供時代を演じたのは映画初出演の二人、石田卓也佐津川愛美、重要な役を瑞々しく演じていました。


20年ぶりで再会した文四郎とおふくが静かに語り合います。「文四郎さんの御子が私の子で、私の子どもが文四郎さんの御子であるような道はなかったのでしょうか」。藤沢文学で最も有名な場面だそうですが、新聞連載時にはこの部分がなかったそうです。単行本化に際して大幅に加筆されたようです。また、3ヶ月前までは「朝の蝉」という題名だったとか、構想メモの段階ではヒロインの名は佐久、新聞連載時にふくに決まったそうです。折しも世田谷文学館で藤沢周平の文業と生涯をたどる「藤沢周平の世界展」が開催されています。「蝉しぐれ」執筆の興味深い舞台裏も、公開されているようです。



そして、風景がまた素晴らしい。山形の庄内地区には、壮大なオープンセットを作ったという。この映画も、「20年、人を想い続けたことがありますか」とあるように、分類すれば「青春映画」と言うのでしょう。「若々しさ」や「清々しさ」が作品のテーマとなっています。それともうひとつ、時代劇というと「日本人の気高さ」ですね。この手の映画は必ず、「日本人が忘れていたものを思い出させる」となってしまうのですが、そうなると、やや陳腐になります。


そうそう、映画のイメージソングは 一青窈(ひととよう)の「かざぐるま」です。22日の夕刊には全面広告が載っていました。コメントしている人たちは、どこかの会社のエライさんばかり。映画のHPにも、同じコメントが載っていました。こうまでされると興ざめの感は否めません。「蝉しぐれと、藤沢周平の世界」という文春ムック本も発売されています。しかし、本年度ベストワンの呼び声がどこからともなく聞こえてきます。10月1日から東宝系で公開されます。是非、ご覧になってみてはいかがでしょうか。


「蝉しぐれ」公式HP

世田谷文学館HP