第2回本屋大賞、恩田陸の「夜のピクニック」 | 三太・ケンチク・日記

第2回本屋大賞、恩田陸の「夜のピクニック」

夜のピクニック

夜のピクニック 」、1200人もの生徒が、朝の8時から翌朝8時まで80キロを歩くという「歩行祭」、夜中に数時間の仮眠を挟んで、前半は団体歩行、後半は自由歩行と決められている、高校生活最後の大きな行事です。高校でのこの行事、僕の知ってるところでも、旧制高校の伝統を受け継ぐ男子高校がこの行事をやっていますね。当てずっぽうですが、著者の恩田陸宮城県出身、たぶんモデルは「仙台一高」じゃないかという人もいます。がしかし、小説では男女共学と言うことになっているので、果たしてどうでしょうか。まあ、あまり意味ないけど。


西脇融と甲田貴子は異母兄弟です。貴子は融の父親恒が、聡子と浮気をした年に出来た子どもです。聡子は恒に養育費は要求しい代わりに、彼とは一切の関係を絶ったシングルマザーです。融の父の葬儀に現れた甲田親子はカッコよかった。黒いスーツをびしっと着こなした母親は風格があって凛としていた。制服姿の娘は落ち着いていて聡明さが顕れていた。それに比べて自分たち親子はうら寂しく惨めだったと融は思います。


西脇融戸田忍甲田貴子遊佐美和子、アメリカへ転校した榊杏奈、この5人を軸に、「夜のピクニック」は歩行祭のスタートからゴールまでを事細かに追います。草餅や落雁を食べたり、缶コーヒーを飲んだりしながら、誰と誰がつき合ってるとか、誰が誰を好きだとか、はたまた堕した子どもの父親探し、高校生らしい話をしながら歩行祭は続きます。お調子者の高見光一郎、融を好きだと押し掛ける内堀亮子。去年の歩行祭には誰も知らない生徒が紛れ込んで、夜の集合写真にもその生徒は写っていた。幽霊だと大騒ぎだった、等々。いかにも高校生を主人公にした青春小説ですね。


貴子のところに歩行祭の始まる10日前、ニューヨークにいる杏奈から「あたしも一緒に歩いているよ。去年、おまじないを掛けといた。貴子たちの悩みが解決して、無事ゴールできるように」という謎ようなの葉書が届きました。歩行祭も後半になると、突然、野球帽を被った少年が現れます。去年歩行祭に紛れ込んだ少年です。スナップ写真を持って人捜しを始めます。杏奈と仲のよかったタカコとミワコに近づき、姉杏奈の好きな男を捜しているという、アメリカからこのためだけに来た榊順弥です。みんなの前で、「友だちの兄弟にいいなと思う人がいる。その人は家庭の事情があって、同じ学年にいるんだって」と。これではばれてしまいます。美和子と杏奈は貴子の母親から以前に聞いていましたが、忍はそのことを初めて知り驚きます。「どうして言ってくれなかったんだよ」と、忍は融に言います。それにしても、榊順弥、あまりにも都合よすぎない?


貴子はこの歩行祭の間に人知れず賭けをします。それは、融に話しかけて返事をしてもらうという、賭けというよりも小さな願いです。融に「誕生日、おめでとう」、融は「ありがとう」、ただそれだけですが、「あたしは賭けに勝ってしまった」のです。ゴール前に友だちの配慮もあって、今まで避けあってきた二人が並んで歩く。「今度、うちへ遊びにおいでよ」「行くよ」「うちのお母さんに会ってくれる」「うん」「これで賭けに勝ったわけだ」と、まあ、ここで予定調和的に物語は終わります。


夜のピクニック

夜のピクニック 」は、「高校生が夜を徹して歩く学校行事を舞台に、思春期の心のうつろいをていねいに描いた青春小説」です。全国の書店員の投票で選ぶ第2回「本屋大賞 」を受賞した作品です。このブログでもそのことを記事にしました。そして、すぐに本屋へ走ってこの本を購入しましたが、ついつい読むのが遅くなって、やっとこの記事を書いています。正直、この歳になって、延々と高校生の会話が続く小説を読むのはけっこう退屈で、疲れます。いまさら学園小説かよ、という気持ちです。それが「本屋大賞 」かよ、と思っていました。


池上冬樹は「とにかくノスタルジックで、リリカルで、いつまでも読み続けていたい小説だ。懐かしくて、切なくて、愉しくて、もう最初から最後までわくわくしてしまった。生きてあることが嬉しくて、誰かに感謝したくなるような幸福感がひしひしとわきあがってくる。」と、新聞の書評でベタボメです。そうも読めないことはないですけど、結局は高校生の学園小説です。とても「新作にしてすでに名作必読!」とまで言えるでしょうか?


そうしたら、あの「文学賞メッタ斬り !」の辛辣な書評で定評のあるお二人、大森望豊崎由美が、恩田陸 は順当勝ちと言いつつも、「博士の愛した数式 」の後が「夜ピク 」じゃあ、意外性がなさ過ぎる、と。早くも2回目にして予定調和になりかけてるのはいかんですよと「本屋大賞 」を憂慮しています。僕は、恩田陸 の作品をこの作品以外には知りません。亀和田武 は、幻想的な色合いの濃い従来の作品で、恩田陸は受賞できたかと疑問を呈します。そして、大賞のノミネート作品を見ても、泣かせる話への書店員の欲求は強い。本屋の棚は近い将来「切なく」「優しい」「温かな」小説で埋め尽くされるのだろうか、と嘆いています。