江國香織の「きらきらひかる」読了。 | 三太・ケンチク・日記

江國香織の「きらきらひかる」読了。

以前、このブログで江國香織 について書いたときに、コメントとして、僕が読んだ本以外に多数の推薦をいただきました。「きらきらひかる」ははずせないとか、あるいは「流しのしたの骨 」、私立女子校の一貫教育での女の子同士のまったりした空気感を描いた「ホリー・ガーデン 」、また、江國ワールドが帰ってきた感じの「思い煩うことなく愉しく生きよ」や、「神様のボート 」などです。この中でとりあえず読んだのが、江國作品の中でも最も人気があると言われている作品「きらきらひかる」でした。もちろん、ブックオフで手に入ったからですが。

江國香織 の「きらきらひかる 」は、1991年5月5日発行ですから、13年以上前の小説です。そういうことで言えば、もう堂々とした中堅の作家ということになりますね。僕が読んでいた江國香織の数冊の作品 は、ここ5、6年の比較的安心して読める作品ということができます。「きらきらひかる」と比べれば、ですが。なにしろアル中で情緒不安定の妻、その夫はホモで恋人持ち、この2人が見合い結婚をして、セックスレスだが愛し合っている。夫の恋人が絡んで、この3人を巡っての話なのだから、話の先行きはどうなるんだろうと予断を許さない。

私たちは十日前に結婚した。しかし、私たちの結婚について説明するのは、おそろしくやっかいである。笑子はアル中、睦月はホモで恋人あり。そんな二人は全てを許し合って結婚した、筈だったのだが。セックスレスの奇妙な夫婦関係から浮かび上る誠実、友情、そして恋愛とは。傷つき傷つけられながらも、愛することを止められない全ての人々に贈る、純度100%の恋愛小説。(「BOOK」データベースより)

ホントに「純度100%の恋愛小説」かなと思いながら、ここまで書いて、BS2でやっていた深夜映画「ゴッホ 」を見てしまいました。伝道師をやめて画家を志すヴィンセントは、画商である弟のテオの援助を受けて一心不乱に絵を描きます。やがて画家仲間のあいだでは一定の評価を得るようになるが、絵は一向に売れず、貧困に沈んだままプロヴァンスへ移り住みます。そこで友人のゴーギャンとともに創作に没頭するが、徐々に狂気に蝕まれて行きます。

狂気に蝕まれたヴィンセントは、回りには迷惑をかけ、自分の耳を切り落としピストルで自殺してしまいます。弟のテオは、自分の生活が決して楽ではないのにも関わらず、ずっとヴィンセントを支援し続けます。彼を誰よりも大事に思っています。「兄弟」ということもあるでしょうが、どうしてあそこまで人は優しくなれるのか?画商であるテオは、時代が変わりつつあることを感じていました。そして兄は間違いなくその新しい芸術の担い手のひとりだと思うからこそ、あれだけの献身的な支援ができたのだと思います。

江國香織 の「きらきらひかる 」は、おとぎ話のようだとも言われたりします。夫の睦月は医者で生活には困りません。交友関係も医者でホモセクシャルだったりします。お得意の「カタカナ」単語が散りばめられて、ファッショナブルな舞台装置はいつものように整っています。つまり、ここにはまったく「生活感」というものがないのです。唯一、笑子と睦月の両親が出てきて、ああでもないこうでもないと大騒ぎするところは、生活感というよりは、下世話なエピソードです。それにしても、出てくる人がみんな優しい人ばかり。笑子があまりにも身勝手だと思うのは、僕だけでしょうか?