写真家・本橋成一の映画 | 三太・ケンチク・日記

写真家・本橋成一の映画

今年はひどいらしい。初めてなったのは一昨年でした。その時はひどかった。そんなものに、絶対にならないと思っていたのに。でも、去年は一度もならなかった。ちょうど今頃、海外旅行をしてことも関係しているのかな?海外旅行というとなんか凄そうですが、単に格安の時期を選んで、見ていないところへ何カ所か行くイタリアへのツアーに参加したというものですが。それがかからなかった、不思議です。今年は、1週間ぐらい前から目がショボショボし始まりました。最初は、あっ、風邪かな?まさか、インフルエンザじゃないよねと思いながら、数日経つと、だんだん目のショボショボが、毎日、午後になるとかゆくなってきて、外を歩くときなどは目が痛いぐらいになってきました。あぁ、やっぱり、これは来たなと思い、昨日、重い腰を上げて医者に行って来ました。一昨年、かかった医者です。今年はひどいですよ、でも、まだ始まったばかりで、これからが本番ですよ、と、脅かされて帰ってきました。そうです、「花粉症」です。以前には、この僕はそんなものには絶対にかかるわけはないと思っていたのですが、いやはや、こうして「花粉症」にかかってみると、その辛さがよくわかります。と、作文風に書いてみました。

突然ですが、といっても僕のなかでは突然でもなんでもないんですが、数日前の新聞の、久しぶりに写真家本橋成一 さんの動向を伝えるインタビュー記事が載っていました。「わたしの一番」というコーナーです。一番大事なものはなにかということで、インタビュー形式で応えているものです。彼は、小学6年生の時に書いた作文帳です、と言っています。幼いときに経験した東京大空襲や戦前戦後の暮らしの記憶を「僕のおいたち」という題名で綴ったものだそうです。その作文帳は母親の日記を収めた箱から数年前に見つかった古びた3冊のノートです。焼け跡で本屋を始めた両親の店番をしている横で、戦争の話を聞きながらこの文を書いたそうです。終戦を境に大人がみんな明るく優しくなって、「平和ってこうなんだ」と実感し、「戦争はイヤですよ」という根拠だといいます。そして、それが彼のその後の仕事の根底につながっている、と言います。

彼は「自由学園 」の出身です。「自由学園」というと、信仰を持った2人のジャーナリスト羽仁吉一・もと子夫妻の創立した自由な気風の学校で、フランク・ロイド・ライト の設計した、重要文化財「明日館 」があることでも知られています。「婦人之友 」も関連としてありますね。もと子の娘、羽仁説子と結婚したベストセラー「都市の論理」を書いた羽仁五郎 や、その息子で映画監督の羽仁進 、その娘の羽仁未央 チャンもいます。いずれにせよ、そういった自由な気風が写真家本橋成一 の中に流れているのかなと感じました。

本橋さんは今年64歳、その風貌からも仕事の内容からも、「カメラマン」と言うより、確かに「写真家」といった方がピッタリの人です。僕が最初に彼に出会ったのは、いやいや、ご本人に直接お会いしたということではありません。何年前になるんだろう、5、6年前だったかな、代々木の駅を降りて新宿方面へちょっと歩いた、そうとう汚いビルの4階で行われていた写真展を見に行ったときです。志を同じくする6人の写真家との「世界のヒバクシャ 」という写真展でした。あれから何年経つんだろう?そういえば、その後、イラクの写真展も見たな?

その後、なかなか見る機会がなくて残念に思っていた映画、だいぶ遅れてやっと下高井戸の映画館でやっているというのを見つけて行って来ました。2本立てだったか、それぞれ別の時に見たのか思い出せません。本橋成一監督作品、映画「ナージャの村 」と「アレクセイと泉 」です。 こうして書くと2本同時に見たのかな?「アレクセイと泉」は、ロシア・サンクトペテルブルグ国際映画祭でグランプリを受賞した作品です。この二つの作品は、1991年に起きたチェルノブイリ原発事故の被災地に、自らの意志で残って暮らす村人たちを撮った作品です。核に汚染された土地は、実り豊かな美しい大地でもありました。写真家としてチェルノブイリへ入って、写真はもちろんですが、それをきっかけに「本当の豊かさとはなにか」と静かに問いかける、そういう映画を撮りました、と彼は言います。

2002年11月に開戦前のイラク国内を、作家の池澤夏樹と歩き、共著で「イラクの小さな橋を渡って 」を緊急出版したそうです。その後の監督作品は?監督3作目となるドキュメンタリー映画ナミイ! 」は、石垣島の三線の名手の波乱の人生を描くもので、来年1月公開予定で制作中だそうです。もし僕が画家で「平和の図」を描くなら、作文帳に書いた終戦後の風景だね、モノはなかったけれど幸せだった、と彼は言います。
*上の画像は「アレクセイと泉」のポスターで、制作は小張正暁 さんです。