クリストとジャンヌ・クロードの「門」、NYに | 三太・ケンチク・日記

クリストとジャンヌ・クロードの「門」、NYに

*記事は2005年2月15日朝日新聞朝刊より転載。

16日間サフラン色の夢
歴史的建造物や橋を布で包んだり、たくさんの巨大な傘を日米の風景の中に立ててみたり、風景と同化する芸術作品を生みだし続けてきたクリストと妻ジャンヌ・クロード。在住するニューヨークで始めてとなる作品「ザ・ゲーツ(門)」の公開が12日から始まった。夫妻による19作目。これまでの作品同様、壮大なスケールと共に、実現までに費やした時間と比べたその命の短さが際だっている。

ゲートは主に高さ4.87mのビニール製の枠、布、2個の鉄の基底部でできている。これがセントラルパークの遊歩道に7500基並ぶ。延長96.5kmのビニールチューブ、長さ18万7311kgのナイロン製糸、4799トンの鉄が使われた。16日間の会期終了後、回収してリサイクルするという。現地時間の11日に開かれた記者会見で、クリストとジャンヌ・クロードは「私たちは世界一の芸術家と言えるかどうかわからないが、世界一クリーンな芸術家だ」と環境への配慮を強調した。

作品の意味は何なのか。ジャンヌ・クロードは「なにもない。シンボルでもメッセージでもない。ただの芸術作品に過ぎない」。クリストは「語るものではない。寒さの中、晴れ、雨、雪の日でも、作品の中で過ごすことが大事」と語った。なぜこの場所で、なぜ「ゲーツ」なのか。夫妻は長男の幼かったころからセントラルパークに親しんできたこと、たくさんの人が歩くことがニューヨークを特徴づけていること、公園が「」を入り口にしていることを口にした。

2月を選んだのは、灰色や銀色の風景にサフラン色が映えるから。サフラン色の布は、日差しを受けて黄金、日陰では深紅へと、多様に陰影を変えると言う。作業を含め、総額2000万ドル(約21億円)という費用はすべて夫妻の負担だ。「作品は私たちの子供であり、完全に自由に想像したいからスポンサーを受けない。なにを、どこで、どのようにつくるかを自由にしたい。いつそれをつくるかは、自由にならないけど」79年に企画し、実現まで26年かかった。夫妻の信奉者、ブルームバーグ市長の誕生という政界の変動が、作品を可能にした。

今までの作品同様の、つかの間の命。「美術的な結論として、そうしている。私たちが人生の中で幼少期を大切に思うのは、それが過ぎゆく時期だから」とジャン・クロードは話した。ただ、期間中に壊れたゲートは修復するという。

クリストとジャンヌ・クロード:共に35年生まれ。パリで知り合い結婚、64年からニューヨーク在住。作品に85年「梱包されたポン・ヌフ、パリ」、95年「梱包されたライヒスターク(旧ドイツ帝国議会議事堂)」など。日本では91年秋、茨城県とカリフォルニアに巨大な傘を林立させたプロジェクト「アンブレラ、日本―アメリカ合衆国」で知られる。
The Gates CentralPark NewYork 1979-2005