ぐるぐるめぐるル・コルビュジェの美術館 | 三太・ケンチク・日記

ぐるぐるめぐるル・コルビュジェの美術館

「前回上野へ行ったときは西洋美術館で半日過ごしてしまい、他へは行けずじまいでした。」というコメントを残してくれたのは、若いブログ仲間のMさん。この記事に誘発されて、今回は「国立西洋美術館 」について書いてみようと思います。いつも他人の記事からということで、いや面目ない、自主性というものはないのか、というお叱りの言葉が?

日本で唯一のル・コルビュジェの建築というのは、上野の「国立西洋美術館 」です。そうなんですよ、ちょくちょく行ってると、現代建築の巨匠の設計というのは意識はしているんですが、実は外観の写真を撮ったことがないことについ最近、気がつきました。外国の場合は建築を見に行くと、写真の撮りまくりなんですが。ということもあって、ロダンの「考える人 」とコルビュジェの「西洋美術館」を同じフレームの中に入れて撮った写真が上の画像です。こんなアングルで撮る人はほとんどいないと思います。ということは、自分では気がつきませんでしたが、人から言われて気づいたことです。なにしろ「美術館に美術館」を見に行くというと、一般の人は「なに、それ?」となると思います。もちろん、美術館には展示してある美術品も見に行きますが、美術館の建築も見に行くというわけです。

ということで、現代建築の巨匠、ル・コルビュジェの設計による「国立西洋美術館」を、解説付きで全部見せちゃおうという、太っ腹なオモシロ企画が去年ありました。2004年6月29日から9月5日まで、子どもから大人までを対象として「建築探検・ぐるぐるめぐるル・コルビュジェの美術館 」というのがそれです。常設展示室に建築探検のための16のチェックポイントを設置しました。

そのチェックポイントはこれ。1.トップライト2.床照明3.ランプ(斜路)4.中3階5.回遊空間6.バルコニー7.天井の高さ8.旧館長室トイレ9.屋上庭園10.独立柱11.雨樋12.照明ギャラリー13.律動ルーバー14.ピロティ15.柱と柱の間隔16.石畳・外壁。一巡りするとル・コルビュジェならではの「しかけ」が見えてきます。なるほど、そうだったのか、と。探検のための16項目を分かりやすく解説した丁寧なパンフレットも用意してありました。

ル・コルビュジエ建築の特徴は、というと、「近代建築の5原則 」を参照すると、1.ピロティー(柱)、2.屋上庭園、3.自由な平面、4.横長の大きな窓(水平連続窓)、5.自由なファサード(正面)、の5項目となっています。そして、西洋美術館はこれらに加え、展示室の中心にスロープで昇っていく渦巻き形の導線に特徴があります。この案は「パリの現代美術センター」でコルビュジェが提唱して以来、実現することがなかった「四角な螺施状に発展する美術館」の構想を展開したものといわれています。

西洋美術館は、ル・コルビュジェの基本設計で、彼の弟子だった3人、前川国男、坂倉準三、吉坂隆正が実施設計を行ったものです。その頃フランス政府は、戦時中に敵国資産として差し押さえていたものを返還することになり、その返還の条件として収蔵展覧する特別の美術館を建築することを求め、日本政府はその美術館の設計をコルビュジェに委嘱 したといういきさつがありました。この返還された美術品 が「松方コレクション 」と呼ばれているもので、「国立西洋美術館」の元になったものです。こうして、コルビュジェの日本における唯一の建築として上野の森に残されたわけです。コルビュジェは、この建築のために1955年に一度だけ来日しました。竣工は1959年です。

そうそう、最近知ったことですが、これにはビックリでした。渋谷駅東口のランドマークとして47年間 に渡って親しまれてきた屋上にプラネタリウム のあった「東急文化会館 」が解体されました。国内で最大とも言われた1階の映画館「パンテオン 」の緞帳が、なんと、ル・コルビュジェのデザインによるものだったとは。この緞帳は、高さ9m50cm幅22m80cmの「闘牛十四号 」というものだそうです。この建物を設計したのは坂倉準三ですから、その関係でコルビュジェに依頼したのでしょう。文化会館パンテオンも僕は何度も行っていたのですが、でもこの話はまったく知りませんでした。この緞帳は東急によって保存が決定しているそうです。