横浜港大桟橋国際客船ターミナル | 三太・ケンチク・日記

横浜港大桟橋国際客船ターミナル

「模型を作って考えてからコンピューターへ入力するのではなく、最初からコンピューターの上で考えて設計している形」のその案は、建築のつくり方をまったく変える革新的なアイデアでした。並みいる実力者を尻目に、最優秀に選ばれたのアレハンドロ・ザエラ=ポロとファーシッド・ムサビという建築家ユニット。ちなみに、アレハンドロが男性(スペイン)、ファーシッドは女性(イラン)でこの二人、夫婦です。

コンペの時の案を古い雑誌で見ると、なだらかに連続するスロープや、CTスキャンのような断面、当時はかなりアッといわせる衝撃的な案でした。なにしろ他の人の案と比べると、まるっきり「建築」が見えない案でしたから。1995年に行われた国際コンペで選ばれたものです。

設計料や著作権、設計体制などで折り合いがつかず、契約は結んだが、設計の見直し、工事費の増額等々、紆余曲折があった「横浜港大桟橋国際客船ターミナル」が、苦節7年、コンペ時のアイデアをなんとか実現しました。オープンは昨年の5月です。

まずは“保存再生”成った「横浜赤煉瓦倉庫」をぐるっと一回り。カフェやレストラン、ブティック、イベントホール等、ショッピング街として、2棟の煉瓦倉庫は見事に再生され、多くの人で賑わっていました。といっても、オバサンと若者がほとんどでしたが。煉瓦倉庫側から「客船ターミナル」を見ますと、ベイブリッジ方向の眺望を阻害しない控え目な形で、どこにあるのか判らないという“”です。以前は「横浜港大桟橋」と言ってましたが、ただ長いだけの単なる2階建てのお役所風の建物でした。

さて、車で移動して直接駐車場に入り車を置くと、そこにはエレベーター乗り場が。どこから出てくるのかと思ったら、なんと下から油圧式のシースルーのガラスのエレベーターが。階段が見あたらないのでエレベーターに乗って上階へ、と言っても駐車場階と、その上の階の2フロアーしかないんですが。そこは「折り紙」からヒントを得た構造の、大きなイベントホール、この階にレストランや売店があり、乗船客を待つ出入国ロビーにもなっています。実はコンペ案では「折り紙構造」ではなく、「段ボール構造」だったのですが、構造設計や工事費等の関係でやむなく断念したようです。そうそう「横浜港一周ディナークルーズ」もここから出発します。

が、なんと言ってもこの建物を特徴づけているのは屋上の波のイメージに合わせたうねる巨大なウッドデッキです。一部芝生の所もありますが木の感触が素晴らしい。ハイテクとローテクの混在した空間、理屈抜きで楽しめます。ここを歩くには、靴は当然、デッキシューズでしょう。スロープばかりですから、やや体力はいりますが。ここは24時間自由に開放され、誰でも立ち入ることが出来ます。「桟橋をここまで開放するのは世界的に見ても珍しい。屋上を公園のように利用して、港や客船に親しんでもらいたい」とは、横浜市港湾局の担当者の話。

夫のポロ氏と共に実現に大きな力になったファーシッド・ムサビ氏は、多くの人がウッドデッキの上で横になってくつろいでいる様子を見て、「私たちがまさに望んでいたことです」とインタビューで答えています。

ということで、皆さんお忙しいとは思いますが、横浜の新名所2カ所、ちょっ足を延ばしてみてはいかがでしょうか。