「まほちゃんち」という展覧会 | 三太・ケンチク・日記

「まほちゃんち」という展覧会

水戸芸術館で「まほちゃんち」という展覧会をやっている、という情報は、ちらちらと前から知ってはいました。が、どうせ写真家の自分の子どもの成長記録だろうぐらいにしか思わず、今までは気にもとめませんでした。

今朝のNHK日曜美術館の「アートシーン」で、水戸芸術館の「まほちゃんち」を取り上げていたので、見るとはなしに見ていました。すると作者、島尾伸三さん、登久子さんご夫妻、お二人とも写真家、こりゃなにかと大変だ、と思いながら見ていると、展示品の中に、みほちゃんの子どもの頃使ったものがたくさん展示してありました。その中に小学校の学校名がS小学校とちらっと出てきました。あれっ、うちの近所じゃない?で、みほちゃん、いま何歳なんだろうと思っていたら、本人がインタビューに登場、26歳の女性になっていました。しかも漫画家として独り立ちしているということのようです。

そんなこんなで、水戸芸術館のHPにアクセスして「まほちゃんち」を調べてみました。年表を見てみると島尾伸三さんは、1948年 島尾敏雄、ミホの長男として神戸に生まれ、母の故郷である奄美大島で育つ。とあります。ん、奄美大島?なんと島尾伸三さんは、あの島尾敏雄さん、ミホさんご夫妻の息子さん!いや~、これには驚きました。1955年に島尾敏雄、ミホ夫妻は奄美大島名瀬市にへ移住しているんですね。島尾敏雄は、翌年12月にカトリック受洗、とあります。

島尾敏雄の代表作「死の棘」という「私小説」というか、自分の夫婦関係を赤裸々に書いて、衝撃を与えた作品です。読みましたよ、僕も。本棚の奥から探し出してきました。これはすぐに見つかりました。なにしろハードケース入り、ハードカバーの本ですから。この長編の題材は、昭和29年10月から翌30年6月までの島尾夫妻のたった9ヶ月間の出来事です。

本の帯には、「執念のライフワーク長編、17年を費やしてついに完成!」読売文学賞受賞、日本文学大賞受賞。「何が妻を狂気に追いやったのか?神経を病む妻との地獄さながらの諍いの日々を赤裸に描き、夫婦の絆とは何か、愛とは何かを底の底まで見据えた壮絶な人間記録」とあります。

評論家、奥野健男は「これほど夫婦というものの本質に迫り、そして狂乱の中に一対の男女の裸の愛と憎しみの姿を原初的に描いた作品はない。夫への糾弾のきわみに見せる女の裸の切ない求愛、妻の狂態と尋問のはてに絶望しながらもあらわれる妻へのいたわりと贖罪のやさしさが心を打つ。」そして「今までのここまで夫婦の本質を、その根元から問い、極限まで追いつめた作品はない。ここまで切なく読者のすべての心を不安に陥れる小説はない。」と、絶賛しています。

初出を見ると、昭和35年4月に「離脱」というタイトルで群像に発表されて以来、昭和51年10月に新潮に発表された最終章「入院まで」まで17年もの年月をかけて書かれたものです。僕の手元にある本は昭和52年9月30日発行、昭和53年8月10日23刷、とありますから、当時、そうとうなベストセラーだったことが伺えます。僕が島尾敏雄を知ったのは、大江健三郎と江藤淳の責任編集と銘打って発行された「われらが文学」という文学全集です。その中の一巻に島尾敏雄が取り上げられていたからです。その頃は比較的短編の名手といった感じの作家でした。この巻は昭和42年4月15日発行となっています。「死の棘」は小栗康平監督の元1990年に映画化されています。

いずれにせよ、島尾敏雄の「死の棘」は、もう一度読み直してみたい作品です。水戸にも行く機会があったら「まほちゃんち」、見てきますよ。それにしても親子三代に渡って、分野こそ違え「表現者」として生きていることに感動を覚えました。