私はいま、
証言台に立っている。
憎きあの男を殺人犯として有罪にするためだ。
「証人は当日、
被害者の部屋にいる犯人を見たというのですね?」
裁判長の質問に私は「はい」と答え、
そして続ける。
「あの日は雪が降っていて、ひどく寒い夜でした。
私の部屋からふと向かいのマンションを見ると、
被害者の女性が鍋料理を用意していて、
そこに男が入ってくるのが見えました。
こんなふうに、
たまに部屋の中が見えるので知っていたのですが、
その男は間違いなく彼女の恋人、
つまりいま目の前にいる被告でした!」
「待った!」
あわてて被告の弁護士が言った。
「被害者のマンションとあなたのマンションは、
幅20mほどの大きな道路を挟んでいます。
どうして彼女の部屋が見えたのですか?」
いちいちうるさいヤツだ。
私は答える。
「彼女の部屋のカーテンが開いていたからです。
夜、カーテンを閉めずに部屋の電気をつけていれば、
外からは丸見えですよ。
ついでに言えば、私の視力は両目とも1.5です」
ぐぬぬ、という弁護士の歯ぎしりが聞こえる。
「証言を続けてください」
と裁判長が言った。
「暇だったのでなんとなく見ていると、
最初のうちは仲良く二人で鍋をつついていたのですが、
そのうち口論が始まりました。
口論はしだいに激しくなり、
ついに男はキッチンから包丁を持ってくると、
彼女をひと突きして立ち去ったのです」
「待った!」
しつこい弁護士が言う。
「ということは突発的な犯行ですよね。
しかし凶器の包丁に指紋はついていませんでしたよ?」
「指紋は拭き取りました。
言い忘れただけです。犯人は指紋を拭き取ってから、
立ち去りました」
「そのあいだ、
アナタは通報もせずに黙って見ていたのですか?」
「指紋を拭き取る時間なんて、
ほんの数秒でしたから。
もちろん彼が立ち去ったあと、すぐに通報しました」
「いや、まだ立ち去ってないはずです。
発見時、彼女の部屋には石油ストーブがついていました。
犯人は死体を暖めて、死亡時刻をごまかすための
偽装もしたのではないですか?」
弁護士のズレた質問に、
私は呆れながら答える。
「だから、あの日は寒かったと言ったでしょう。
石油ストーブは最初からついていましたよ」
すると弁護士は得意気に叫んだ。
「異議あり!アナタの証言はムジュンしています!」
そのムジュンとは一体何だろう?
ヒント↓(反転)
・部屋の中の状況で最も大事なポイントは、
ストーブと鍋料理だ
・部屋の外の状況と中の状況で
考えてみるといいかもしれない
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