スキー界に起こっている外圧について | トナカイの独り言

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 トランプ氏が大統領になった。
 日本との関係がどう変化するかわからないが、わたしは 「日本の官僚のなかには、アメリカと癒着していると思われる人が多い」 と感じてきた。そんなアメリカ寄りの方々が従ってきたのは、俗に 『軍産複合体』 と呼ばれる組織、人脈であったように思う。

 9.11で怪しい動きをしたブッシュ親子も、あれだけ 「チェンジ」 と叫んだオバマも、軍産複合体に動かされてきたところが大きかったのではないだろうか。

 果たして、トランプ氏が勝ったことでアメリカは変わるのか。そして日本には、どんな影響があるのだろう。

 

 政治の世界から日本のスキー界を振り返ると、ニセコや白馬エリアにおいて、否応のない外圧によって変化が始まっている。

 具体的には海外のお客様の増加と、海外からのスキー&スノーボードスクール、インストラクターの進出である。

 白馬を観るなら、現在もっとも成長しているのは英語によるスクール活動で、この分野にたくさんの外国人たちが進出している。外国人の外国人による外国人のためのスクールである。ほとんどの場合、こうした活動は白馬村や地域に利益をもたらさない。

 

 わたしは若い頃、縁あってニュージーランド観光協会のスキーモデルを何年も務めさせていただいた。そのため、夏場(ニュージーランドのスキーシーズン)に長期滞在をさせていただいた経験がある。
 そこで知ったのは、ニュージーランドは 「海外からのスキーインストラクターにとても厳しい」 という現実だった。日本からもいくつかのスクールや有名スキーヤーがお客さまを連れていくのだが、彼の地でレッスンするためには高額の所場代と許可を求められたのである。

 最初はその意味がよくわからなかったが、しだいに次のことが知れた。
 ヨーロッパやアメリカ、カナダがシーズンオフの時、ニュージーランドはオンシーズンとなる。だから、能力のあるインストラクターにとって絶好のビジネスチャンスがある。しかもニュージーランドのインストラクターレベルは決して高くない。本場ヨーロッパやアメリカ、カナダのインストラクターの方があきらかに平均的レベルが高い。放っておくとニュージーランドのインストラクターたちは生きていけなくなる。だから、政府がニュージーランド人インストラクターを保護するため、こうした厳しいルールを設けているのである。

 

 

 海外ではふつうスキースクールはスキー場の直営である。校長だけが社員で、あとは季節雇用の有資格アルバイトによって構成されるところがほとんどだ。大きなスクールだと副校長まで社員のところもあるだろうが、総じてインストラクターの給与は日本にくらべてとても良い。仕事内容は各スクールにもよるが、日本よりハードなところが多いだろう。人気があって、自分の名前で集客できるインストラクターなら、シーズンの収入だけで一年間暮らす人も多い。
 海外において、なんと言ってもスキースクールはれっきとしたビジネスであり、インストラクターの地位も決して低くない。

 こうした大型のスクールと別に、有名スキーヤーや元有名競技者によるごくごくプライベートなレッスン、そして比較的大型のキャンプも世界中で頻繁に開催されている。
 これらはほとんどの場合、スキー場と遂行者の間で契約を結び実行されるものだ。
 

 いっぽう日本のスクールの場合、もっとも大きな組織は SAJ (全日本スキー連盟)の公認校であろう。こうしたSAJ のスキー学校は海外のスキースクールとあきらかに形態が異なっており、簡単に比較することはできない。
 日本のスキー学校を組織している方々は、上部に地方の名士や実力者を配し、現場を担当するインストラクターは農家や宿泊施設を運営されるみなさまというケースが多い。そして、スキーは本業を支えるためのツールである場合も多く見かけられる。極端に表現する失礼を許してもらうなら、「スキーを餌にして、本業で儲ければ良い」 という仕組みのようにも見えてしまう。
 業務内容も大きなスクールになればなるほど、公式大会の運営や公のイベント運営という半分ヴォランティアのような仕事も多い。

 

 それではSIA (日本プロスキー教師協会) がほんとうの意味のプロフェッショナルなスクールかというと、それも少し疑問が残る。どちらかと言えば、スキーを職業とする家内工業のよう形が多い。​ ただ、こちらはスキーで生きて行こうという意気込みがあるだけ、実力本位のところがあって気持ちがいい。
 わたしのスクールは SAJ 内部に置かれたアカデミー形式を取っているが、内実は家内と二人だけと言ってもいいくらいちっぽけなものである。土日のみお手伝いが来てくれ、同じ系列のスクールも、それぞれインストラクターが片手の指で余るくらいの規模である。
 スキーブームの頃ならまだしも、現在は厳しいというのが実状だ。

 そんな日本のスキースクール環境に、海外から強い競争原理と理論武装した集団が入りつつある。
 もしニュージーランド的な考え方を適応するなら、外国人のスクール活動から現地のスクールとスキー場に大きなマージンをいただかなければならないだろう。日本のインストラクターを守るためという大義名分もある。
 もしアメリカやカナダ的に考えるなら、海外のスクール(インストラクター)と地元のスクール(インストラクター)が共存共栄するための方法を、お互いにしっかりと考え、歩み寄っていかなければならないだろう。

 

 白馬エリアには 「一山一校」 と呼ばれるルールがあった(もしかしたら、今でもあるのかもしれないが・・・・・・)。あえて過去形で書いたのは、現状なし崩しになっているからである。
  「一山一校」 は、かつて一部の日本人インストラクターやスクールを排斥するために機能していたが、海外のスクールに対してまったく機能していない。


 すべてが自由であるなら、それはそれで平等だろう。
 その場合の決定権はスキー場運営会社になり、各スクールとスキー場との契約という形になるだろう。
 もし大きな規制をかけるなら、その決定権はスキー場だけでなく、SAJ や SIA と言ったインストラクターを統括する団体にも及ぶだろう。


 どちらにしても、早急によりよい道筋を作る必要がある。
 そうでなければ、本物の競争原理にさらされたことのない日本人は、気付くとすべてを失うことになる。そして、ほんとうに優秀なスクールが生き残るのではなく、日本人特有の人脈や友人関係によって淘汰されることになる。

 

 トランプ現象と同じように、外圧でしか大きな変化を起こせない日本にがっかりしている。しかし、わたしはこれまでずいぶん自分の意見を言い、そのために利権を絶たれたり、組織を追われたりしてきた。

 ヒラリー・クリントンが言うように 「信じることのために戦う事、それはとても価値のある事」 だと今でも信じているが、もう六十才もすぎ自分のやりたいことをひっそり、コツコツと続けていきたいという願いも強い。
 だから、まずわたしの役割としては自分の知識と経験をここに書かせていただくこと。
 それくらいで、どうかご勘弁いただきたい。