【時代を超えて愛される名曲・「ヨイトマケ-」】 | 【かほり放送局】

 《時代を超えて》
「かあちゃんの唄こそ 世界一」-「ヨイトマケ-」は昭和40年にレコードが発売された。貧しい家庭の少年と、工事現場で泥まみれになって働く母親を描いた、約6分のドラマチックな歌「真実、親子の情愛、無償の愛…。今、みなさんが欲しがっているものが入っているので支持されたのだと思います」

この歌の中で非常に醜い人間を演じている場面があると言う。

主人公の「ヨイトマケの子供」を別の子供たちがいじめるところだ。「いじめる側の人間は劣等感のかたまりで、頭が悪くて、それをごまかすために暴力を振るっていじめるんです。そんな卑しい心根に気づかないでいる。そのことを教えるために、なるべく嫌な顔をして表現しています」と説明した。

 美輪さんは幼少時、勉強ができて級長や副級長を務めることが多かった。自身がいじめられることはなかったが、いじめられる子供がいると、いつもかばった。「いじめられる子は優しくて、心がきれいで、傷つきやすくて。それで抵抗できないんです。だから守らなければいけない」と力を込める。

 美輪さんは自分が子供のころ耳にした、いじめられっ子とその母親のやりとりが、今も忘れられないという。

 「勉強ができたり、お金があったり、けんかが強いから偉いんじゃないよ。人間で一番偉いのは、お天道様の前で胸を張って一生懸命生きる人なんだ。正直に生きることなんだ。だからお前は偉いんだよ」

 どんな時でも自分を肯定しようとする態度。「自分が自分の味方にならなかったら浮かばれないでしょ。あの歌には、そんな気持ちが込められているんです」。時代を超えて愛される名曲には、それが名曲たる理由があった。
今の日本に「まとも回帰」現象が起きているという。テレビ番組は人に暴力を振るったり恥をかかせたり。小説や映画も恐怖やスリルなどを感じさせるものが多い。「文化の作り手の側はクールやニヒルでいることがかっこいいと考えているけど、そんな考えは過去のものになった。人々は心が温まる『まとも』なものを求めているんですよ」と話す。
「学校教育に修身の授業を復活させるべきだ」と力説する。「いじめることは、自分はバカです、劣等感のかたまりです、醜い心を持った人間です、と言いふらしているようなもの。だからやめましょうねと全国一律で教えれば、きっといじめはなくなります」。


 ◆“放送禁止歌”に

 美輪さんがこの歌を作ったのは五十数年前。作った理由は「こういう歌がなかったから」。当時、シャンソンは上流階級の婦女子の優雅な趣味ととらえられていた。問題意識を持って、怒りを込めて何かを告発するために歌うシャンソン歌手もいたが、そうした歌は下品だといって受け入れられなかった。そんな状況に我慢できなかった美輪さんが渾身(こんしん)の思いを込めて発表した作品なのだ。

 テレビで「ヨイトマケ-」を歌ったところ、大きな反響を引き起こした。レコードは大ヒットしたが『土方』などの差別表現を含むと判断されて民放の「要注意歌謡曲」に指定されてしまったのだ。後に指定制度が廃止されるが、以来、“放送禁止歌”という実体のないレッテルが張られてしまった。
 平成10年に泉谷しげるさんが「ヨイトマケ-」をカバーした。それ以降、桑田佳祐さんや槇原敬之さんら数多くのアーティストが歌い、名曲として認識されるようになった。それでも、紅白歌合戦というひのき舞台で歌われるまでには、さらに多くの時間を要した。
 ■美輪明宏(みわ・あきひろ) 昭和10年、長崎県生まれ。国立音大付属高校を中退し、16歳でプロの歌手として活動を始めた。類いまれな美貌で人気を集める。シンガー・ソングライターのさきがけとして活躍。32年、「メケメケ」を大ヒットさせた。俳優としての活動も注目を集めている。江戸川乱歩原作、三島由紀夫脚本の「黒蜥蜴(とかげ)」は空前の大絶賛を浴び、深作欣二監督で映画化もされた。「黒蜥蜴」は4月5日から5月6日まで、東京・銀座のルテアトル銀座で上演される。

半世紀近く前に発表されましたが、歌詞に含まれる言葉が問題視され、表舞台から姿を消していた名曲がよみた。『美輪明宏の良い話に心打たれる』
美輪明宏さんに聞く 「ヨイトマケ-」時代を超えて愛される名曲の理由