半島有事の在日米軍基地使用許可はソウル陥落後更に南部への侵攻が明確になるまで正当化されない! | 匿名のブログ

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気になったニュースに関して自分なりに考え、掘り下げて、分析した結果を記録して行きたいと思います。ですから更新はかなり不定期です。どうぞよろしくお願いします。

 産経新聞及びZAKZAKに、3月27日の日韓非公式協議における日本政府関係者の発言についての記事が掲載されました。詳細は元記事をご参照いただければと思いますが、要は、朝鮮半島で再び戦火が起きて、北朝鮮が韓国に侵攻した場合、在日米軍基地を利用して米軍が朝鮮半島で活動することが必要になるが、その場合に必要となる日米両国の事前協議で日本側が米軍の基地使用に「ノー」と言うことも在り得る、という発言をしたという内容です。この記事を受けて、今回は、半島有事の際の米軍基地使用の事前協議について考えてみたいと思います。

1 日米安全保障条約の構造
 日米安全保障条約の原文及びその解説は外務省のHPにアップされています。日米安全保障条約の中核は、日米両国が、「日本国の施政の下にある領域における、いずれか一方に対する武力攻撃」に対し、「共通の危険に対処するよう行動する」と、我が国の施政の下にある領域内にある米軍に対する攻撃を含め、我が国の施政の下にある領域に対する武力攻撃が発生した場合に両国が共同して日本防衛に当たることです(日米安全保障条約第5条)。
 朝鮮半島のような日本国外への攻撃の場合には「日本国の安全に寄与し、並びに極東における国際の平和及び安全の維持に寄与するため、アメリカ合衆国は、その陸軍、空軍及び海軍が日本国において施設及び区域を使用することを許される」と定めた同第6条が適用されます。しかし、同条後段には「前記の施設及び区域の使用並びに日本国における合衆国軍隊の地位は、千九百五十二年二月二十八日に東京で署名された日本国とアメリカ合衆国との間の安全保障条約第三条に基く行政協定(改正を含む。)に代わる別個の協定及び合意される他の取極により規律される」と規定され、これに基づき交わされた交換公文により、我が国の領域内にある米軍が、我が国の意思に反して一方的な行動をとることがないよう、米国政府が日本政府に事前に協議することを義務づけられています。また、朝鮮戦争の休戦の折に締結された国連軍地位協定(日本国における国際連合の軍隊の地位に関する協定)の第5条第2項で、日米安保条約に基づいて利用される施設等は国連軍も利用できることとなっています。逆に言えば、日本国政府の許可なしでは米軍も国連軍も我が国に存在する軍事施設を外国での戦争のために使用することは出来ない構造になっています。

2 北朝鮮が韓国へ武力攻撃を行った場合の在日米軍基地使用について
 万が一、北朝鮮が朝鮮戦争の休戦協定を破って(北朝鮮は2013年3月協定の一方的破棄を宣言しています)韓国を攻撃した場合、日本政府は上記1の交換公文に基づく在日米軍基地使用の可否について、我が国の安全保障の観点から判断を行うことを迫られます。その際、特に注意すべきなのは、我が国内に存在する基地の利用を認めれば、自衛隊が参戦しなくても、北朝鮮側からすれば日本は「中立の立場」でなくなり、北朝鮮軍に攻撃を加える米国を支援している形となります。これは、北朝鮮が我が国に武力攻撃を仕掛けるのに十二分な口実を与えることでもあります。勿論、我が国に対する武力攻撃には断固として対処すべきですが、これによってもたらされる戦闘状態は国民の生命・財産に重大な影響を与えるものです。従って、「在日米軍への基地使用承諾は、北朝鮮との戦闘状態の引き金を引くことになる」ことを十分に認識した上で、基地使用承諾の可否が検討される必要があります。
 そもそも日米安全保障条約は国民の生命・財産を守るために必要不可欠であることを理由として締結されているものであり、同条約の枠組みの中で行われる事前協議・基地使用の承諾も、「国民の生命・財産を守るために必要不可欠な基地使用か?」と言う観点から検討が行われる必要があります。

3 事前協議における在日米軍基地使用可否判断の際は慎重な検討が必要
 この観点から考えると、北朝鮮による韓国への軍事攻撃が、我が国の安全保障にとってどの程度の脅威になるかという観点から考える必要があります。
明らかなのは
①北朝鮮が朝鮮半島の南端まで侵攻することがあれば、地理的に近い対馬をはじめとする九州への通常兵器による攻撃が可能になり、我が国の安全保障に直接の影響を与える。従って、北朝鮮が釜山等朝鮮半島の南端まで制圧する可能性が懸念される場合はこれを阻止するための在日米軍基地の利用は容認される。
②逆に、北朝鮮による攻撃が軍事境界線近くに留まる場合、我が国の安全保障に直接に影響を与えるものとは考えられず、在日米軍基地の使用は容認されない。
③更に米軍の作戦が、北朝鮮軍の進軍阻止でなく、例えば韓国に対して行われた砲撃への「報復」の場合は、我が国の安全保障に必要不可欠の軍事行動とは言えず、国連決議に基づく等特別の場合を除き在日米軍の基地使用は容認されない。

従って、米国・韓国の「北方限界線」の主張と北朝鮮の「海上軍事境界線」の主張に齟齬が存在する朝鮮半島西側の海域はもとより、ソウルや仁川を含む軍事境界線近辺の都市が北朝鮮から攻撃を受けたからといって、日本政府は無暗に在日米軍基地の利用を承諾すべきではないと考えます。

4 在日米軍基地の使用を政府が我が国の安全保障に必要不可欠な場合は限定される
 上記3のように在日米軍基地の利用が許容されるケースは極めて限定的になりますがこれを判断するメルクマールは以下の通りで、これ以外の時には米軍基地を使用しての武力行使に政府は「ノー」と言うべきと考えます。
①北朝鮮による攻撃が、韓国の大邱や大田等北緯36度線よりも南の都市に至っていること。
②上記攻撃が、爆撃や砲撃に留まらず地上軍による地域の制圧を伴うものであること。

外交・安全保障分野については、外交機密や軍事機密といった観点もあり、政府の検討は密室で行われがちですが、逆に国民の生命・財産に関する重大事項でもある訳であり、我々国民としても懸念事項はしっかりと政府に伝え、万が一の場合に国民の意思と反する形で我が国が紛争に巻き込まれないよう政府や国会議員に働きかけを行っておくことが重要と考えます。

(今回は以上です。適宜更新します。)