承前…つづき…


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◇―――――――――――◇ 編集後記◇――――――――――◇


群ようこ:『肉体百科』はバブル絶頂の頃、夕刊フジに連載されたエッセイで、全部で103篇。平成2年5月扶桑社から単行本・文芸春秋から文庫1994年刊。
トビラの惹句に「人間の体にこんなドラマがあったのか、と目からウロコが落ちる」とあるが、だいたい1400字でひとつのテーマにまとめてある。
使われているのは殆ど常用漢字で、どうしても漢字でないと感じが出ないという場合は振り仮名つきだった。


●「尻毛を抜かれる」について

ちくま文庫1997刊『こいつらが日本語をダメにした』の中で、
南伸坊・赤瀬川原平・ねじめ正一の三人が面白いオダを上げている。

ちょっと露悪的だが引用しましょう。

ねじめ:この「尻毛を抜かれる」だけどさ、考えたんだけど尻毛って少ないよね。尻毛って肛門じゃないよね。
―――尻毛ってどこの毛なんですか
(この―――は編集者だと思う。たぶん女性)
南:肛門周辺の毛でしょうね。臀部全体に生えているやつじゃないね。
ねじめ:肛門の周りだけね。
南:だから、本来は見えていないところまで見すかされるっていうことだから。
赤瀬川:女性の場合はどうなんですか?
―――えー、大丈夫ですよ―。
(一同爆笑)
南:そうね、女性が尻毛を抜かれるっていう文脈ではあんまり出てこないよね。鼻毛を読むのも、女の人が読むんであって、男はね――。で、鼻毛を読むってのはどうするのだろう。
赤瀬川:鼻毛を読む?
―――女性が男性の弱みにつけこむ場合に使います
。←(辞書でもみているのでしょうか)

南:尻の毛を抜かれるって、でも怖いよね。


このあと鼻毛の話に移る…(P160)



編集中にボツになった言葉


●辣腕[ラツワン]
 辛+束=「辣」。「らつ」と読み、味がぴりっと辛い・ぴりっと引き締まって厳しい。きつい、ひどい という意味。辛辣(しんらつ)なやり手のこと


※神谷は「剌と刺とは違う文字である」と2002年に論じたことがある…。


……「辛辣」「溌剌」という字を調べていて、異な事に気がついた。
かつては、溌剌の「剌」という字は「サンズイ偏」で書いたと或る本にあった。
つまり「溌溂」と書くわけである。広辞苑を引くとそのことは明記していなかった。
たしかに「溂」という字は存在し”IME”でも候補の三番目に出る。

…この話はおいといて、
 今度はこの「剌(ラツ)」という字が「刺激・刺客」の「刺」と非常によく似ている
のに気がついた。
 漢和辞典では、わざわざ「剌と刺とは別字である」と大書してある。
このよく似た二字はどうちがうのか調べてみた。


 溌剌の「剌」のほうはJISコード4979で、音は「ラツ・ラチ」であるが、
訓読みはない。
「剌」の意味は「もとる」「そむく」である。りっとうが部首で9画の文字だ。


 一方、刺客の「刺」は音が「シ」で訓は「さす」とある。
JISコードは2791となっており、こちらは8画の文字である。
同じ「りっとう」なのに、立派にちがう字なのである。


 ちなみに広辞苑では、「溌剌」は「魚がおどるさま」とあり
「剌剌」は「ラツラツ」と読み「風の吹く音」の意だ。
 ところが、もう一方の「刺」のほうが二つ並べば、「刺刺」となり、
これは「セキセキ」と読み、「無駄口をたたく」「ぺちゃくちゃおしゃべりする」
の意であるという。
 また刺の旁(つくり)の字は「とげ、さす」意とあり、刺青、風刺などに使う。

 さらに余談だが、辛辣という熟語は、「辛」の「からい」という意味と
「辣」の「とげとげしい」という意の語がふたつ並んだ強意の熟語である。


 漢和辞典で確かめたい人は
http://members.at.infoseek.co.jp/sohoweb/index-117.html


●玄人跣[くろうと・はだし]
 プロをも凌ぐほどの技量や能力を持ったアマチュア(素人)。はだしは裸足とも


●病膏肓に入る[やまいコウコウにイる]/コウコウに「はいる」は誤読
 治る見込みのない病気にかかる事。転じて何かにはまってしまうほど熱中すること。肓は「盲」とは別字で「膏肓」とは、からだの中で鍼の届かないところ


●脾肉の嘆[ヒニクのタン]
 老いて、ももの肉が落ち馬に乗って活躍できないと嘆くこと


●刎頚[フンケイ]の友
 刎ははねる、頸はくび。生死を共にする程の友


またほかにも●馬脚 ●苦肉の計 ●断腸 ●肝入り ●指呼の間 ●食指が動く なども候補になったが又の機会に…。


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【発行者】神谷 雄高(かみや ゆうこう)

日本語教育研究所(第16期)客員研究員
日本漢字能力検定準一級(H12)認定


〔表記ルール〕
・読み方は音読みはカタカナ、訓読みはひらがなで、基本的には丸谷才一『文章讀本』巻末の表記法に準じます。(ただし漢字からの送りは新仮名づかい)
・出典は出来るかぎり明記しますが、「慣用」使用などの場合は岩波『広辞苑4版』旺文社『古語辞典8版』角川『新辞源〈改〉』に準じます。


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