■■■■■■  万巻誤用塾・メルマガNo.14-③


承前…つづき…   


◇―――――――――◇ 編集後記◇――――――――――◇


北京五輪もたけなわ。表彰台でアテンドする女性も美人揃いですね。

「美女」には他にこんな言葉も作問の候補になったのですが…。


嫦娥[ジョウガ]
 嫦娥(じょうが・または「こうが」:この字は女偏に「亘」の字+娥)は、中国神話に登場する人物。漱石の『猫』でも美学者の迷亭が博識を披露して、こう言うくだりがある。

「サンドラ・ベロニが月下に竪琴(たてごと)を弾いて、以太利亜風(イタリアふう)の歌を森の中でうたってるところは、君の庚申山(こうしんやま)へヴァイオリンをかかえて上(のぼ)るところと同曲にして異巧なるものだね。

惜しい事に向うは月中(げっちゅう)の嫦娥(じょうが)を驚ろかし、君は古沼(ふるぬま)の怪狸(かいり)におどろかされたので、際(きわ)どいところで滑稽(こっけい)と崇高の大差を来たした。さぞ遺憾(いかん)だろう」と一人で説明すると、
「そんなに遺憾ではありません」と寒月君は存外平気である。

菖蒲 杜若[あやめ かきつばた] 

 「いずれがあやめか、かきつばた…」というふうに使う。美人の形容の決まり文句。また「立てば芍薬、座れば牡丹、歩く姿は百合の花」なども多用されるが今は死語に近い?
 
国色天香[コクショクテンコウ]とは牡丹のこと。

黒人の美女ではありません。


閉月羞花[ヘイゲツ・シュウカ] 

 月も隠れ、花も恥じ入るほどの美人の意「羞花閉月」とも。   


西施[セイシ] 

 西施は中国春秋時代の美女の名。芭蕉『奥の細道』には

 

象潟や 雨に西施(せいし)が ねぶの花 

象潟(きさがた)は松島と並ぶ風光明媚な歌枕として名高かった。象潟を芭蕉は「俤(おもかげ)松島に通ひて、ま

た異なり。松島は笑ふが如く、象潟は憾む(うらむ)が如し。寂しさに悲しみを加へて、地勢 魂を悩ますに似たり」と形容した。松島は男性的、象潟は女性的。その女性の代表として西施を詠みこんだ。
 
漆姫[シツキ]

 梅原猛氏は『水底の歌』で、[シツキ]とは「漆部の妻」に女仙のイメージをかけた表現と解説している。


『懐風藻』の藤原不比等の漢詩「吉野に遊ぶ」に


文を飛ばす 山水の地   

漆(しつ)姫(き) 鶴を控(ひ)いて挙(あが)り
柘(しや)媛(ゑん) 魚に接して通ず
 

とある。
 シツキもシャエンも「仙女」のことで、「漆姫」については『日本霊異記』に大和国宇陀郡漆部(ぬりべ)の里の女が仙草を食べて昇天したという。この詩は吉野宮滝の地が神仙の遊ぶところとして描かれている。
(『水底の歌』下巻72頁/新潮社刊)


この号おわり


【発行者】神谷 雄高(かみや ゆうこう)

日本語教育研究所(第16期)客員研究員
日本漢字能力検定準一級(H12)認定


〔表記ルール〕
・読み方は音読みはカタカナ、訓読みはひらがなで、基本的には丸谷才一『文章讀本』巻末の表記法に準じます。(ただし漢字からの送りは新仮名づかい)
・出典は出来るかぎり明記しますが、「慣用」使用などの場合は岩波『広辞苑4版』旺文社『古語辞典8版』角川『新辞源〈改〉』に準じます。

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