笑って許して

こんにちは、スズトモです。

平凡なサラリーマンが平凡な毎日をほんのり面白く書き綴っています。

お暇なら見てやってください。



↓過去の記事をまとめました。初めての方はこちらからどうぞ。

<過去記事まとめ>



↓ご意見ご感想ご要望などはプチメか、こちらまで

warattesuzutomo@hotmail.co.jp



↓ついでにクリックしてもらえるとすんげー喜びます。

rank


Amebaでブログを始めよう!
1 | 2 | 3 | 4 | 5 | 最初次のページへ >>

【In Ten Years~10年後~】①

※不定期で更新していきます。(予定)


 

------------------------------------------------------------------



 

 

笑って許して-10年後





 

薄暗い路地裏に男女が二人、無言のまま立っている。

 

男は落ち着きのない様子で俯いており、時折女に何か言おうと顔を上げるも結局何も言えないまま、また頭(こうべ)を垂れる。顔上げ女を見つめてはうなだれる、それを何度も繰り返していた。

 

そんな男を女は一言も発することなく冷めた目で見ている。腕を組み、イラついた様子で足元をカツカツと刻んでいた。変わらずウジウジしている男の態度に女はしびれを切らして口を開いた。


 

「だから、あなたとはもう終わりなの。いいかげん分かってくれない?」

 

「いやでも!僕の悪いところは全部直すから!何でも君の言うとおりにするから!」

 

「そういう問題じゃなくて。言ったでしょ。他に好きな人が出来たの。だからお願い、別れてちょうだい。」

「いや・・・でも・・・」


 

再び押し黙る二人。束の間の沈黙の後、男が切り出した。

 

「分かった…分かったよ…君とは別れる。」

 

「やっと理解してくれたのね。良かったわ。」

 

「でも・・・一つだけ提案があるんだ。」


 

男の『提案』と言う言葉に女は警戒心を抱いた。男が一体何を言い出すのかを危惧しながらも、どんな要求も拒む覚悟はできていた。この男にもう利用価値はない、さっさと切った方がいい、そう女は思っていた。

 

男はそんな女の思惑を知る由もなく、自分の思いのたけを伝える。
 

「5年いや10年後でもいい!もし君が一人だったら僕と一緒になってくれ!!」


 

それは提案と言うよりも哀願に近かった。女はハァ・・・と溜息を漏らし呆れた顔で男を見つめる。男はさらに続ける。


 

「10年後、君が幸せなら問題ないんだ。でももし君が一人ぼっちだとしたら…その時は僕が君を幸せにする!だから10年経って君が一人なら一緒になってくれないか!?」


 

男の言葉は女をひどくイラつかせた。

 

(やっぱりこの男は全然分かっていない、あなたごときがこのワタシを幸せにする?あなたと一緒になってワタシが幸せになれるわけないじゃない!お金の無いあなたには魅力を感じないの。)

 

女は戯言を言う男にそう本音を言おうとしたが、それすら今の女には億劫だった。一刻も早くこの男から離れたかった。

女は思考を廻らせた。幸い男の出した提案は1年や2年という直ぐの話ではなく、10年という長い先のこと。10年もあれば男の前から完全に消えることもできるだろう、たとえまだ男が言い寄ってきたとしても警察に言えば済む問題だ。それに10年後にはワタシはきっとあなたの手が届かないセレブになっているのだから、そう考えた女は男の提案を受け入れた。


 

「いいわよ。仮に10年後、ワタシが一人ぼっちだったら…あなたと一緒になってあげる。」

 

「ほ、本当かい?一緒になるということは二人は永遠に離れないということだよ。」

 

「えぇ、いいわよ。10年後ワタシが一人だったなら、ね。」


 

女は自分の本当の気持ちとは裏腹に男にそう告げると、「サヨナラ」と言い残し男とは反対方向に歩き出した。男は女の姿が見えなくなるまで満足気な表情でずっと女を見つめていた。

 

女が路地裏を抜けるとそこにはもう一人男が煙草を吸いながら立っていた。その男は女の姿を見つけると煙草をもみ消し、すぐに女の側に駆け寄り、「どうだった?」と聞いた。女はうんざりした表情を見せて男に言った。


 

「うん、かなりしつこかったけど、別れてくれたわ。」


 

女の言葉に男はニヤリと笑い狡猾な表情を見せた。


 

「お前も悪い女だな。男心を弄んで。」


 

そう言う男に女は大げさに驚いた顔をした。


 

「人聞きの悪いこと言わないでよ。あの男が勝手に勘違いしただけ。それにワタシみたいな女とほんの一時でも恋人気分を味わえてあの男も幸せだったんじゃない。」

 

悪びれた様子もない女に男は肩をすくめ、またニヤリと笑う。女も男につれれて笑うも、ふいに何かを思い出した様子で話を切り出した。


 

「そうそうあの男、最後にこんな事言ってたわよ。10年後ワタシが一人ぼっちだったなら、僕と一緒になってだって。」

 

「10年後!?一緒に!?」

 

「そう、笑っちゃうでしょ。」


 

女と男は声を出してひとしきり笑うと、女は男の腕を絡めて、そして二人は街の雑踏へ消えていった。
 

 

―②へつづく―

 


------------------------------------------------------------------

 

1 | 2 | 3 | 4 | 5 | 最初次のページへ >>