※このなまくら文章シリーズにはあらゆる作品のパロディ、オマージュ、演出が混じっております。

また実在の団体とはなんら関係ありません。また実在の北翔OB、OG、諸先輩方、お名前お借りしていおります。






hapter5 「誰が為に」



三浦鷹大。槻宮はこの男を知っていた。
HUD画面の識別ウインドウには「unknown」の表示が示され続けていたが、
槻宮はこの男が同姓同名の別人等ではなく、学生時代の友人であった「三浦貴大」
本人だと直感的に気付いたのだった。


「三浦...少尉!なんでこんなところに!?」


思わず呼び捨てにしてしまいそうになったその口で咄嗟に階級を叫び、
疑問をぶつける。


「久しぶりだな相棒。階級なんか付けるなよ、俺とお前の仲だろ。
色々聞きたい事もあるだろうが、まずはこの状況の打開が先だ」


三浦はコンソールパネルを器用に叩き、回線を全味方部隊へのオープンに切り換えた。



「ストライクワイバーンズ、及び近衛小隊。聞こえるか?貴隊はそのまま南下し、バイパス合流地点に
いる補給部隊と合流。推進剤と弾薬を可及的速やかに補給した後、可能ならば脱出してくれ。
当部隊からは俺と社が貴隊に随伴。残りの10機を迎撃に回す。尚現時刻より、本機のコールネームをイーグル1、社機をヴァルキリー1とする。以降指揮権を貴隊の最上階級官に委託。指揮下に入る」


言うと同時にIFFが更新され「unknown」表示だった三浦達の機体が味方識別に切り替わる。

見たことも無い二機の識別コードだったが、今は少しでも友軍が増えたという安堵感のほうが強い

本田が強めの口調で三浦に返答するのが聴こえてきた。


「こちらストライクワイバーンズ。本田雅士大尉だ。貴君の援護感謝する。だが、追撃部隊の戦力情報が圧倒的に欠けている。三浦少尉。この状況でTT10機で迎撃可能だと何故判断出来た?無謀にしか思えん。
何か知っているのか?」


本田の質問に三浦は明らかに表情を曇らせ、感情を押し殺すように返答する。


「・・・すみません、情け無い事ですが、私は社と本隊に合流し、残りの機体全てを迎撃に回せとしか
聞かされていません。敵戦力の予測はしていますが、私見の要素が大きい為、誤解を招かぬように
補給部隊合流後にお話させて頂きたいと思っています」


「了解した。敵戦車隊を迎撃しつつ南下を続けるぞ、イーグル1、ヴァルキリー1は本編隊最両翼に着いてくれ」


本田の指示通りに二機は槻宮を中心とした編隊の最両翼に着く。
それを確認すると同時に、三浦が連れてきた10機のTTは頭部の単眼をシパシパと輝かせ光信号を全機へ送ると、ブーストを吹かし漆黒の闇へと消えて行った。まるでそれは最後の別れを惜しむように・・。



―――キクンラ ノ コウウン ヲ イノル―――



どれくらい進んだだろうか、迎撃に行った見たことも無いTTを見送ってから
おそらく10分も経っていないのだろうが、槻宮にはこの間の時間が永遠のように
感じられた。同乗していた優歌はそれを察知したかのように槻宮に話しかける。


「槻宮、あの機体を知っていますか?」


言いながら、優歌はモニターに映し出されている三浦の機体を指指す。


「いえ、初めて見ます。というより、スティンガーと零式以外にTTがある事すら知りませんでした」


見透かされているな。そう思いながら槻宮は返答をする。


「・・あれは陽炎。そなた達の乗っているスティンガーのデータを元に、
信頼性とAMCS周りの負担と操作性を改善させた、いわば量産機です」


操作性を簡略化し、複雑な機動を行えない分、装甲と火力に重点を置く。
兵器運用と量産に伴う基本的なデチューンだ。三浦の乗る無骨なシルエットの機体を
眺めながら。何故彼が「操縦出来る」のか槻宮は少しだけ理解出来た気がした。


「適性が低くても乗れるTT・・という事ですか?」


「簡単に言えば、そうなります・・・不思議そうな顔をしていますね?」


「・・いえ、ただ、詳しいんだなと思いまして・・」


「飾りとは言え、私は国務全権代行者です。

故あって今は手元を離れていますが、私専用の機体もあるのですよ?」


ディスプレイの光とモーター駆動音。狭く無機質なコクピットの中で優歌は
微笑しながら、屈託無く答える。


「専用機・・ですか・・」


そんなものアニメや漫画の世界だけだと思っていた槻宮にとっては違和感のあるフレーズだった。
きっとものすごく豪華な見た目で士気向上の為のヒロイックな機体なんだろう等と考えながら
いると、優歌が何かを思い出したように槻宮を問い詰め始めた


「そういえば、第19独立小隊・・堂丞が随伴しているという事は、瑞鶴(ずいかく)が配備されているはずなのですが・・」


近衛用ハンガーの再奥に鎮座し、未だ一度も稼働状態を見たことが無いアレの事を指してるのだと
槻宮は直感的に理解した。明らかなフルチューンを施したワンオフ機。「瑞鶴」という名前のインパクトと
偶然にしろ盗み聞きに近いあの状態での機体との出会いは記憶に新しかった。


全権代行であるが故に最新鋭機、しかも近衛の物となればその動向も知っていておかしくはないのだろうが、
それでもたかだか一機のTTにまで神経を張り巡らさなければ行けないのか?

という疑問を否が応でも抱いてしまう。


「槻宮?」


怪訝な表情で優歌は槻宮を見上げる。返答もせずに考え事をしてしまったからだろう。
悪い癖だな。と思いながら槻宮は慌てて返答を返した


「あ、すみません!瑞鶴ですよね?あの紫色の」


「はい、アレは先程話した私の専用機です。・・・見当たらないようですが、何故でしょうか」


あの瑞鶴が彼女の専用機。突拍子もない話に思わず絶句したが、いままでの違和感の正体が露になった気がした。


事実上の総司令である彼女から臥蓮への機体譲渡。なによりも見間違える程の容姿。決定的だった。
遠縁の親戚なんてレベルでは明らかに無い。


「槻宮、あなたは私を始めて見た時。項月と、そう呼びましたね」


「・・・はい」


「臥蓮が・・・煌武院臥蓮がここにはいるのでしょう?」


もしかしなくても項月の事だろう。
心拍数が上がっていくのが自分でも露骨にわかる。


「はい・・・」


「では何故、瑞鶴が見当たらないのですか?」


表情一つ変えずに、優歌は槻宮を見据え質問を繰り返す。
吸い込まれそうな程に真っ直ぐなその瞳の前に、槻宮はただただ事実を
喋る事しか出来なかった。


「あの機体は、その、項月訓練兵が特別扱いは無用だと、スティンガーですら身に余ると言って
使っていません」


「・・・やはり、そうでしたか・・」


寂しげに笑みを浮かべながら、彼女は俯く。

「・・彼は、今まで一度たりと、私の贈り物を素直に受け取ってくれた事が無いそうです」

憶測のようなその喋り方に酷い違和感を感じながら、槻宮は核心に触れる一言を彼女にぶつけた。


「あの、項月とは・・・兄妹・・・なんですよね・・?」


一瞬の静寂の後に、優歌は俯いたまま、返答をする。


「・・・彼は、己が身を何と?」


「将軍家の遠縁の者だという事くらいです・・でも、殿下の話を聞いていると、もっと近い関係にしか思えません。
それに・・」


「・・それに、何でしょう?」


「・・・そっくり、ですから。」


優歌はふっと槻宮を見上げ、ゆっくりと、何かを確認するように語り出す。
相当に覚悟がいる事なのだろう。優歌の唇が僅かに震えていた


「それは、そうでしょう。私と彼は、血を分けた双子なのですから」


似ているわけだ。違うのは性別と立場くらいのものだろう。
冷静を装いそんな事を思いながらも、実際はバットで頭を殴られたような衝撃だった。


「古より煌武院家には、双子は世を分ける忌み児だとする為来りがあるのです。
それによって、彼は物心つくころには遠縁の項月家に養子に出されました・・。
ですから私は、話をした事も、一緒に遊んだ記憶もほとんどありません」


ただ、黙々と聞くしかなかった。


「己が素性と関わりなく生きてゆけたならば、それなりに平穏な暮らしを営むこともできたでしょう。
しかし彼は、幼少より事あらば私の身代わりになるよう教育され、常に周囲からそう扱われて来たのです」


「・・・身代わり・・?」


「臥蓮という名は、彼に刻まれた忌まわしき者である証。
床に臥す者。私の代わりに亡き者に成れと・・。
その生まれ故、忌み児として家を追われ、身の上を語る事を禁じられながら、
私の兄妹であるが故に、政の道具として扱われて来たのです」


「道具って、そんな・・」


意識はしていなかった。思わず言葉が出る。今まさに背中を預け、命を預けている戦友が、
自分の家を無くし、人とすら思われていないなどと、簡単に許容できる話では無い


「今、そなたの部隊に籍を置いている事もそうです。
常に民の範たるべし、という煌武院家の責務を奉じているのは事実ですが、彼は別の由を以ってここにいます。
国連に対する、日本の信義の証として、千歳基地にいるのです」


煌武院にとってはもともと「居ない事になっている」最悪死んでも構わない。
それを知らない国連にとっては格好の「人質になっている」
・・・ふざけた話だった。


「つまり人質、ですよね?」


「有り体に言えば、そのようになりましょう」


国連と日本の馬鹿馬鹿しい取引の犠牲。
近衛部隊が堂々と国連の千歳基地に駐留できる唯一の理由。
吐き気がするほど胸の悪い話だ


「そして、間接的とはいえ、それを強いてしまっているのは他でもない私です。
恨まれても、仕方ないかもしれませんね」


それは、ちがう。確かに優歌の存在がそれを強いているのかもしれないが、
恨んでもいなければ憎悪の対象でもない。
槻宮にはそれを否定できる証拠も確信もあった。


「それは、違います。瑞鶴が搬入された時、項月が乗らなかったのは、
あの機体が、殿下を守る最後の砦だからじゃないですか?
近衛と決起部隊が睨み合いになった時も、殿下を護りに行けって、堂丞を怒鳴りつけてました。
あんなに取り乱した項月、見たことありませんでしたよ・・殿下のそれは、その言葉は、そんな想いじゃ項月は!・・」


言いかけながら、はっとする。やってしまった。所属は違えど一国の国務代行への無礼。
手を上げたわけではないがその語気の荒さと言葉使いは許されざる行為だ。


「済みません・・無礼、でした・・」


今更何を言っても遅いだろうなと思いつつ顔を上げてみる。


「良い。槻宮、ありがとう。彼・・・兄は良い友人を持ったようですね」


皮肉のかけらも無いその笑顔と言葉を槻宮に投げかけ、優歌はそっと槻宮の頬を撫でる。

正直、予想外の反応だった。


直後、コクピット内に短い電子音が響き、HUDにウインドウが表示される。
三浦だった。


「補給ポイントに到着、補給部隊の健在を確認。降下準備、お願いします」


腰に意識を向け、ベクターノズルに逆噴射をかけながら姿勢制御を行う。
渡邊から言われた例の制約のおかげで、フルドライブリンクが出来ずに多少ぎこちなさが
残ってしまう着陸になったが、それでも着陸誤差60センチ以内に収められただけでも
上出来というべきだろう。
深く深呼吸をし、ゆっくりと息を吐く。

まだ終わったわけではないが補給をうけるだけの余裕が生まれているという
安心感は心強かった。


「06本田だ。三浦、約束だ。聞かせてもらうぞ」


「はい、おそらく、敵の本隊は富士教導隊です・・。」


―――to be continued