汚染水浄化装置  ~吸着理論 | ナンでもカンでも好奇心!(tomamのブログ)

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硬軟取り混ぜた種々雑多なネタについて書いてみようかと思います。
全くまとまりがないと思うけど、それが自分らしさということで。。。

久しぶりに福島第一原発そのものの話。

汚染水浄化装置では相変わらずトラブルが続いていますが、そんな中、国産の浄化装置が既存の装置と併用、あるいは補助として使われるようです。

http://www3.nhk.or.jp/news/genpatsu-fukushima/20110726/0535_shinsouchi.html


(引用開始)
汚染水浄化 新装置が原発へ(7月26日 5:35更新)

東京電力福島第一原子力発電所では、収束作業の要となっている汚染水を浄化する設備でトラブルが相次ぐなか、来月に運転開始を目指す国産の新たな浄化装置が、26日、福島第一原発に到着します。

「SARRY」と呼ばれる国産の新たな浄化装置は、円筒形のタンク14台で構成されていて、中に入っている鉱物によって、汚染水のセシウムなどを元の100万分の1ほどに減らす設計になっています。

この浄化装置は、25日夕方、第一陣のタンクなどの部品を乗せた船が福島県いわき市の小名浜港から出港し、26日、福島第一原発に到着する予定です。

福島第一原発では、汚染水の浄化設備のうち塩分を取り除く装置が24日から25日にかけて故障するなどトラブルが相次いでいて、最新の稼働率が53%と最終目標の90%を大きく下回っています。

東京電力は、新たな浄化装置を今あるものと併用したり、補助的に使ったりする予定で、今後、2度に渡って残りのタンクなどを福島第一原発に運び、来月上旬の運転開始を目指しています。
(引用終わり)

この記事では技術的にあまりよくわからなかったのですが(やっぱりNHK?)、メーカーは東芝で、以下のような説明がされています。

http://www.asahi.com/national/update/0714/TKY201107140623.html

(引用開始)
国産の高汚染水処理装置 東芝が公開 8月上旬本格稼働

東京電力福島第一原子力発電所内の高濃度汚染水を浄化処理する装置を東芝などが開発し、横浜市の同社京浜事業所の工場で14日公開した。現在使われている米キュリオン社と仏アレバ社の浄化装置と組み合わせるなどして、8月上旬に稼働させる。

 装置の通称は「サリー」。「単純型汚染水処理システム」の英語表記の頭文字などをとった。東芝と米ショー社、IHIの3社が共同で製造している。放射性物質を吸着させる合成ゼオライトとチタンケイ酸塩を詰め込んだ直径1.4メートル、高さ3.6メートルの円筒形の容器を直列につなげ、汚染水を流して浄化する。

 放射性物質濃度を100万分の1に低減させる。性能は同様の機能のキュリオン社製装置を超えるという。水を送り込むポンプの数を減らし、不具合が起きにくくしているという。14日、福島第一原発内に向け、吸着装置の出荷が始まった。
(引用終わり)


「放射性物質濃度を100万分の1に低減させる。」「キュリオン社製装置を超える」ってすごい!と思われるかもしれません。

しかし、本当はどういうことなのか、ケミカルエンジニアとして、これは黙っておられません。

ちょっと吸着操作、吸着塔について説明しましょう。(って、興味を持つ人がどのくらいいるのだろう・・・。)


(以下、書いてからつくづく思いましたが、技術に興味のない方にはきっと退屈な内容になっています(汗)。
飛ばしたい方はずっと下の★まで飛んでいってください。)


【吸着とは】

まず「吸着」という現象は、液体(汚染水)の中に溶けている成分(放射性セシウムイオン)が、吸着剤と呼ばれる固体の粒子(合成ゼオライト)にくっつくことです。

この現象を利用して、汚染水の中の放射性セシウムを除去して、浄化された水を得ます。
吸着塔とよばれる縦長の容器に吸着剤を詰め、そこに汚染水を流す(つぶつぶの隙間を水が流れる)とあ~ら不思議、浄化された水が出てくる、というわけです。

【吸着操作の理論】

その理論を説明した図を下に示します。

図は全く関係ないところから引用していますが、放射性セシウムを含む汚染水を吸着処理で浄化するケースだとして、以下記述します。


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左が液の入り口、右が出口です。ふつう、吸着塔は縦に置いて上から下に液を流すので、これを右回りにヨイショと回して立ち上げた状態だと考えてください。ただ、ここではこの図の向きのまま説明します。

縦軸は、その場所を流れている水の中のセシウムの濃度を示しています。
Inlet Concentration(入口濃度=原液濃度)が最も濃度が高く、最も下がゼロです。

汚染水を流し始めたとします。入口付近で汚染水がゼオライトと接触してセシウムが吸着剤に吸着されて、水の中のセシウム濃度が下がります。

一般に、接触している水の中のセシウム濃度が高いと、吸着剤にl吸着するセシウムの量(固体中の濃度のようなもの)は多くなります。

入口(=原液)のセシウム濃度に対応して吸着剤に吸着されるセシウムの最大の量は決まっています。この量までセシウムが吸着した状態を「飽和」といいます。飽和まで吸着した吸着剤の周りにこれ以上液(原液)を流しても、素通りするだけで何も起こりません。

液を流し始めてからしばらくたったときの水中のセシウム濃度の分布が、一番左の逆S字型カーブです。

入口からしばらくの部分は吸着剤が既に飽和している状態で、その周りでは水の中のセシウム濃度は変化せず入口濃度と一緒のままです。

ある高さで飽和が終わり、セシウムが吸着され始めます。それとともに水中のセシウム濃度が下がり始めています。このあたりの高さの部分を「吸着ゾーン」と呼びます。

そしてしばらく先で、水中のセシウムは全部吸着されてしまい、セシウム濃度はゼロになります。
そこから先は水中にセシウムがいない浄化された水が流れているだけで、出口に達します。

・・・ということで、「放射性物質濃度を100万分の1に低減させる。」と書かれていますがびっくりすることではなく、原理的には、吸着操作で得られる浄化水のセシウム濃度はゼロになるのです。

さて、このような吸着塔に汚染水を流し続けたら何が起きるのでしょうか?

答えは上の図にありますが、逆S字型の濃度分布が次第に下流に移動していきます。
すなわち、入口に近い方の吸着剤がどんどん飽和になり、吸着ゾーンが出口側に移動していきます。

さらに時間が経つと、吸着ゾーンが出口にかかってしまいます。
出口から出てくる水中のセシウム濃度はそれまでゼロだったのが、この状態になると、いくらか検出されるようになります。出口のセシウム濃度が、ある決まった濃度にまで上がった状態を「破過」といいます。

このまま続けると、出口水のセシウム濃度がどんどん上がってきますので、ここで汚染水を送り込むのをやめて、別の吸着塔に切り替えるのが普通です。
だから、吸着塔はふつう2塔以上設置して、切り替えながら使用します。


【吸着塔の性能】

さて、「性能は同様の機能のキュリオン社製装置を超える」という場合の性能って何なのでしょう?
結論から言うと、私も何を比較したのか、よくわかりません。

ひとつは、先ほどの図での逆S字カーブが、「立って」いたり「寝て」いたりすることが、装置の性能を左右します。立っている方が吸着剤を最後近くまで使えるので、より性能がいいと言えます。
極端に寝ている場合は、汚染水を送り始めた最初から出口でセシウムが検出されることになることは、想像いただけると思います。

立っているか寝ているかの差は、ひとつは吸着剤の性能によります。
吸着剤が、水中のセシウム濃度が低くてもたくさん吸着しやすいものであるほど立った曲線になります。
逆に水中が低濃度の場合に吸着しにくいと、寝た曲線になります。

もうひとつは、設備の設計です。塔の大きさを固定したとすると、流量を少なくするほど逆S字は立ったカーブになります。大流量を流したければ、塔の直径を大きくすることになります。

さらに塔の高さを高くすれば、吸着ゾーンが出口に達するのに時間がかかるので、切り替え回数が少なくてすむとともに、吸着剤の大部分を飽和まで使えることができ、効率的になります。


で、「キュリオン社製装置を超える」のは、吸着剤の性能なのか、汚染水の処理能力なのか、他の何かなのかよくわかりません。

もし、浄化水のセシウム濃度が最初からゼロではなく汚染水の「100万分の1になる」とすれば、充填された吸着剤の隙間を通らずにすり抜ける水があると考えられます。
吸着剤である充てん物が「割れ」て隙間の流路ができたり、あるいは吸着剤と吸着塔の壁との隙間を流れる液が多かったりすると、このような現象が観察されます。



さて、以上、あまりに技術的な話で、大多数の方にはつまらなかい、あるいはつまらない内容だったと思います。
自分でも、なんで一生懸命に吸着塔の講義を書いているのか、わからなくなってきました(笑)
書き始めたら最後まで書かなくてはならない気がして・・・。

まぁ、ここに書いたようなことは初歩の教科書的なごくごく基本に過ぎず、実際の研究・技術開発はもっともっと深いことを考えています。
技術者というのは、こんなことを日々やっているんだということを垣間見てもらえたとしたら、それだけでも価値があるでしょう(、と自分を慰める・・・。)


★ここからちょっと重要な話。技術の話を飛ばした人、いらっしゃいませ(笑)。

吸着塔で汚染水を処理する場合、大きな懸念点があります。

セシウムを十分(飽和まで)吸着した使用済み吸着剤の取り扱いはどうするのでしょうか?
一般には使い終わった吸着剤は、吸着塔から取り出して廃棄し、新しい吸着剤を詰めます。

(あるいは他の何らかの溶剤を流して、吸着している物質を溶け出させて(「脱着」して)再生することもありますが、ここでは考えられないでしょう。)

しかし使用済み吸着剤は高濃度の放射性セシウムを吸着していますので、高レベル放射性廃棄物になります。
交換作業は安全にできるのでしょうか?
また、どこに保管?廃棄?するのでしょうか?

また何も考えていない?いずれにせよ、福島第一原発内に保管しておくしかないのかもしれませんが。
半減期が30年だとすると、人体に影響がなくなるまでは何百年もかかるでしょうね。


それから、何度も書いていますが、循環注水冷却とかいって、汚染水を浄化した水を冷却に使用することは、一歩前進ではあるものの、これでは全体として汚染水の量は減りません。

せっかく浄化した水は海に捨てて、汚染水をそのまま循環して冷却に使用することは本当にできないのか、検討すべきと考えています。