『A3』 森達也著 | ナンでもカンでも好奇心!(tomamのブログ)

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硬軟取り混ぜた種々雑多なネタについて書いてみようかと思います。
全くまとまりがないと思うけど、それが自分らしさということで。。。

森達也著『A3』をようやく読み終わりました。

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オウム真理教事件を追い続ける森達也氏のドキュメンタリー。
元は2005年~2007年に月間PLAYBOYに連載されたもので、単行本として発刊するにあたり、「時折2010年の視点や情報が現れている」そうです。

あれほどの大騒ぎだったのに、もうほとんどの日本人にとって、オウムは忘れたことにしたい事件のようです。
森氏はテレビ製作会社勤務時代の98年に、オウム真理教を描いたドキュメンタリー映画『A』を自主的に撮影して以来、オウム真理教にこだわり続けています。

この本では、早川紀代秀、林泰男、中川智正といった死刑囚との面会や手紙のやり取り、麻原の4人の子どもたち「オウムシスターズ」やVXガスで殺されそうになった永岡弘行氏へのインタビューなどで、オウム真理教事件とはいったい何だったのか、丁寧に読み解こうとしています。


驚くのが、麻原彰晃の拘置所でのようす。

「額を掻いたり、首を傾けたり、鼻下を触ったり、それから側頭部を掻いたり、そういった小刻みな動作が続くわけです。それで、腕を組んで、にたっと笑いを浮かべて、そして口をもぐもぐさせて、時に、「うぅ、うぅ、うぅ」などと声を出しています。」
そして糞尿を垂れ流し、弁護士や娘の前で自慰行為に及ぶ。
どうも、薬物投与によりこのような状態にされていることがほのめかされています。

そしてもっと衝撃的なことは、裁判所によるその精神鑑定。
弁護側の精神鑑定によると、6人の精神科医がほぼ「訴訟能力はない」とし、「半年程度の治療で治癒する可能性が高い」との鑑定も出ているにも関わらず、裁判所からの正式な精神鑑定では、「詐病である」「被告には訴訟能力がある」と結論付けた。

そして裁判所は、弁護団の控訴趣意書を待つと約束していたのに、弁護団がそれを提出すると公表していた日の前日に控訴棄却を決定する。

それより前、一審弁護団を牽引していた安田好弘は別件で逮捕されています。


この国の司法はおかしい。かなりおかしい。

麻原彰晃に責任がないと言っているわけではないです。

世論や政治的意図やその他もろもろに影響されることなく、正しい手続きを正しく実行することこそが、我々が司法に求めていることではないでしょうか?

そして、狂気の集団が起こした事件だから早く死刑にしてしまえ!と片付けるのではなく、どこまでが本人の意思で進められたのかを明確にして正しく裁いてほしいです。
そして、その過程で実際に起こった真実は何かを丁寧に掘り下げることで、同じことが二度と起こらないための教訓も得られるはずと思います。

そして、当時はあれほど報道をしていたのに、今となっては完全に忘れたようなマスコミ。


森達也氏がオウム真理教の真実にこだわり続けて、このような著作を出版してくれることはありがたいです。
ただ、ドキュメンタリーの手法によりプロセスの記述が中心で、はっきりした結論を書かないのが、この人の書き方であり、ちょっともどかしい面もあることも事実です。

500ページ以上のボリュームですが、こんなことに今でもこだわる方は、ぜひご一読を。