平成26年会社法改正を見てみる③(監査等委員会) | 弁護士浅沼雅人のブログ

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 本日は、監査等委員会設置会社というのが、どういうものなのか、を見てみたいと思います。
 「会社法制の見直しに関する要綱案(案)」の第1、1です。以下は、その項目にしたがってみていきます。


(1) 監査等委員会の設置

 監査等委員会の位置づけとしては、委員会設置会社の指名委員会、報酬委員会を設置せずに、監査等委員会のみを設置できるものとしたものなのか、監査役会設置会社で監査役会を取締役会に取り込んだものなのか、それとも新たな形態として位置付けるのか、法制審議会会社法部会の議論があったようですが、結論的には、社外取締役を活用した新たな機関設計を認めるものということのようです。

 現在、海外からの投資の対象となるような大会社かつ公開会社である株式会社は、監査役会設置会社か委員会設置会社でなければなりません。

 監査役会設置会社は、業務執行から独立した監査役による監査のうちもっとも強化されたもの(監査役の数は3名以上で、監査役会の半数以上は社外監査役でなければならない。)。

 委員会設置会社は、このような監査役による監査という発想から離れて、取締役会を業務執行の監督機関として、業務執行については執行役に大幅に委任することが出来ることとしたものです。
 その代り、取締役の選任、解任の議案決定権を有する指名委員会、執行役・取締役等の受ける報酬の内容を決定する権限を有する報酬委員会、執行役の業務執行の違法性、妥当性の監査を行う監査委員会が設けられ、各委員会は3名以上、過半数は社外取締役であることが求められるなど、各委員会に相当な権限が与えられる一方、業務執行からの独立性が確保して、業務執行への監督が実効的なものとなるように設計されています。

 監査等委員会は、その両方の規律との相違から見ていくと理解しやすいのかな、と思いました。

 機関設計としては、監査等委員会が、監査役会に代わって、取締役会内において業務執行を監督していくという建付けなので、監査等委員会では、取締役会は必置、監査役は置いてはいけない、ということになります。
 また、監査等委員会の監査でも、委員会設置会社と同じく、取締役会による業務執行の監督という発想なので、同様に、計算書類の適正性・信頼性が重要ということで会計監査人は必置ということになっています。

(2) 監査等委員の選任・解任及び報酬等の決定の手続


 監査等委員の選任・解任及び報酬等の決定については、監査等委員の独立性を担保するためのものですが、この点は、監査役の規律を参照して、同じような規律が設けられています。

 ①監査等委員である取締役は、その他の取締役と別に株主総会の決議で選任するというのは、取締役と別に監査役が選任されるのと同じです。

 ②監査等委員の選任決議に関する監査等委員会の同意を要する点、③監査等委員会が、取締役に対し、監査等委員会の選任議案の提出をできる点、④監査等委員の解任に株主総会の特別決議を要する点、⑤監査等委員がその選任、辞任、解任について株主総会で意見を述べることができる点、⑥監査等委員が辞任後、最初の株主総会に出席して辞任した理由を述べることが出来る点なども、監査役と同じです。

 ⑧の監査等委員の報酬の規律、すなわち、報酬は通常の取締役と区別して、定款又は株主総会の決議によって定めること、監査等委員の報酬の個人別の定款の定め、株主総会の決議がないときは、監査等委員の協議によって定めること、監査等委員は監査等委員である取締役の報酬等について株主総会で意見を述べることが出来ること、も監査役と同じ規律です。

 但し、⑦の任期については、監査等委員の取締役は、監査役と異なり、業務執行に関与することから、監査役より短い期間とされていますが、独立性担保という意味で、選任後2年以内に終了する事業年度のうち最終のものに関する定時株主総会の終結時まで、とされています。
 この点は、議論の中で、当初1年という提案が、独立性確保の要請で、2年でしかも短縮不可という規律になって、要綱案に盛り込まれたという経緯をたどっているようです。


(3)監査等委員会の構成


 構成については、委員会設置会社の監査委員会の規律と同じで、3名以上で、過半数は社外取締役、当該会社及び子会社の業務執行取締役等との兼業禁止、という建付けです。


(4)監査等委員会の権限


 監査等委員会の権限は、委員会設置会社の監査委員会と同じような権限です。

 但し、会社と取締役との利益相反取引について、監査等委員会が事前に承認した場合には、任務懈怠についての推定規定(会社法423条3項)を適用しないとしている点に特徴があります。
 
 社外取締役には、利益相反取引の監督機能があって、その社外取締役が過半数いる監査等委員会で承認したのだから、当該取引については適正であると推定され、当該取引に関する任務懈怠の推定を免れる、という建付けになったようです。


(5)監査等委員会の運営


 ここは委員会設置会社の委員会にしたがった規定のようです(委員会設置会社の委員会の運営については会社法412条)。

 
(6)監査等委員会設置会社の取締役会の権限 


 監査等委員会設置会社の取締役会の権限については、通常、取締役会の権限とされ、委任が許されない会社法362条4項各号の事項の委任について検討されたようですが、結局、監査等委員会設置会社でも委任は不可とされました。

 取締役会に監督機能を求め、監査等委員会を設置する場合、業務執行から離れて、監督に集中出来ることが望ましいという議論のもと、上記の委任が検討されたようですが、委員会設置会社において、指名委員会、報酬委員会、監査委員会による強力な監督機能のもので、執行役への委任が認められていることとのから、結局、監査等委員会に認められる監督権限では、委任は不可とされたという議論をたどっています。

 但し、上記のような議論のもと委任が認められないとされたものですので、委員会設置会社と同等程度の監督機能が取締役会において可能な場合には、例外的に、大幅な権限委任を認めるという趣旨で、監査等委員会設置会社で取締役の過半数が社外取締役である場合は、重要な業務執行の決定を取締役に委任することが認められています。

 これらの議論も、委員会設置会社との比較という視点ですね。

(7)は、登記に関する規律ですので、割愛します。

 以上のような監査等委員会設置会社ですが、元々は、海外からの投資を呼び込むために、分かりやすい企業統治システムを作るろう、そのために社外取締役の活用しようという発想から、監査役会設置会社で社外取締役を置くことを義務付けることの反対論に配慮しつつできてきたものです。

 したがって、主に大会社かつ公開会社が導入することを検討することになるのだろうと思いますが、改正要綱では、それ以外の会社でも監査等委員会設置会社とすることが出来るようになっています。

 ただ、実際に、我が国の中小企業がこのような機関設計を採用するか、というと、上場を目指している会社などでない限り、積極的に採用する企業も少ないのではないかなと思います。まだまだ、株主総会、取締役会、監査役という機関設計の会社が多く、なじみ深いのだろうと思います。