その日、私はナナちゃんと教室でお昼ご飯を食べていた。

そこに唐突にアルト君が私達の居る教室に入ってきた、と思ったら私に近づいてきた。


そしていきなり「ランカ、もし暇なら今度の休みに一緒にどこかに行くか?」なんて言ったんだ。

私は暫く言葉の意味が理解できなくてすごく変な顔しちゃってたかもしれない。


「おい、ランカ?聞いてるのか?」

なんてアルト君が言うまでたっぷり30秒くらいは

イッショニドコカニイクカ?の意味を頭の中で理解しようとして固まってたんじゃないかな。


あの冷静なナナちゃんも口をポカンとあけてたくらいだから私が驚きすぎたのも無理も無い事だと思う。


「う、うん、いいよ?」

私はまだよく意味を理解してなかったけど、とりあえずOKの返事をした。

「そっか、じゃ、行きたい所考えとけよ」

と言ってすぐ去っていったアルト君、まさに嵐のような出来事だった。


教室の中はもう騒然。


「いやぁ、私のアルト姫がー」

「ランカ、羨ましい!」

「俺のランカちゃんが・・・」

「終わった・・・俺の青春」


なんて事を口々にみんな好き勝手言ってる。


何もこんなに人が居る時に言わなくてもいいのに・・・と思うけど

そんなの全然気にしないというか、そこまで気が回らない所がアルト君らしい。


「よかったですね、ランカさん」

そう言ったナナちゃんの言葉に私は始めて理解したんだ。


これってデートのお誘いじゃない!!って。

今までアルト君と二人で出かけた事は何回かあるけど、

アルト君が私を誘ってくれたのはハジメテ?


うわぁ、超緊張してきた。

デートって事は男と女が一緒に1日過ごすわけで、、

昼間二人でたっぷり楽しんだ後に、綺麗なフロンティアの人工夜景見ながら

アルト君は私の肩を抱きながらこう言うんだ。


「ランカ・・・お前が好きだ」

「アルトくん・・・私も好きだよ」


そっと唇を重ねる二人、

そして・・・


「ランカ、もう我慢できない」

「うん、抱きしめて!銀河の果てまで・・・」

ってその後は、えへへへへ。


そんな妄想して一人でニヤニヤしてたら

「おーい、ランカさん、大丈夫ですか?」

って思いっきりナナちゃんに突っ込まれてしまった。


「え?大丈夫だよ、ナナちゃん、嫌だなぁ」

「そうですか?何か一人でニヤニヤしててかなり怪しかったですけど」

「一つ、忠告しておきます」

そういってナナちゃんは真剣な顔になる。


「何?」

「男は狼なんです、気をつけて下さいね、早乙女君もあんな顔して何するかわかりませんよ」

ナナちゃん心配しすぎだよぉ、あのアルト君だよ、むしろしてきてくれたらいいのに」

「ランカさん!」

「冗談だよ、ナナちゃん

半分冗談じゃないんだけどな、でもあれだけ普段シェリルさんがアタックしてるのに

全然気付かないでスルーしてるアルト君の事だから万が一ににも間違いはないだろう。


その日の夜、早速アルト君から電話があった。

「ドコいきたいか決まったか?」

どうしよう、今日1日浮かれてて全然考えてなかった。

ていうかその日の夜に聞くのは早すぎだよ、アルト君。


「えーと、、、まだ決めてないからとりあえず当日家に来てよ、アルト君」

「何も決めないでいいのか?」

「当日までには決めておくよ、アルト君は家に来てくれるだけでいいよ」

「わかった、ランカがそれでいいならそうするよ、それじゃ当日10時くらいにいくからな」

「おk、待ってるよ、アルト君」


しまった、勢いとはいえ適当な事言っちゃったよ。

でも当日までに考えればいい訳だし、なんとかなるよね。


そしてやってきた当日。

・・・うあああ、結局雑誌買ってあれこれ行く所考えたのに結局決まってないよ。

どうしよう、どうしよう。


そんな事で右往左往しているうちに、家の呼び鈴の音がなる。

アルト君が家に来ちゃったよ、ヤックデカルチャー・・・。


私はとりあえずアルト君を出迎える事に、

玄関先にはやっぱりアルト君、今日は制服じゃなくて黒いジャケット、それにあわせたシャツ、

コーデュロイパンツだ。

元々体のラインがよく出るデザインで細身の体だから凄くよく似合う、まるで雑誌のファッションモデルみたいだ。

めちゃくちゃ恰好いいよ、アルト君。

思わず「うわぁ・・・」と私は感嘆の声を上げた。


「どうした?いきなり変な声だして」

「な、なんでもないよ、とりあえずあがって、お茶くらい出すから」

「ああ、それは構わないが、、」


まだ行き先が決まってないなんて言えないので私の部屋にあがってもらうことにした。

これで時間が稼げ・・・って私の部屋に上がってもらうの!?どうしよう全然片付けてないよ!!

今日ギリギリまで色々考えてたから、雑誌は散らかってるし、何着てくか凄く悩んで服は出しっぱなし

ベッドはぐちゃぐちゃ、リボン散乱と、とても人に見せられるような状況じゃないんだった。

まして自分の好きな人になんて絶対見せたくない。


そんな私の気持ちも知らず「それじゃ、邪魔するぜ」とツカツカと入ってくるアルト君。

いやアルト君に罪はないんだけどね。


「ランカの部屋はどこだ?」

「えと、ここの突き当たりだけど・・・」

「ん?あ、ここかそれじゃ失礼してっと・・・うわっ」

アルト君は私の部屋の散らかりように驚いたみたいだ。


「これがランカの部屋か、なんか予想してたより、その、ワイルドな部屋だな!」

アルト君無理やりなフォローはいらないよ・・。

ああ、終わった、今。純情清廉超時空シンデレラなイメージの私、汚されちゃった。


「うあああ、アルト君の馬鹿ぁああああ」

「うわっ、ランカ何すんだ、そんなにポカポカ叩いたら痛い、痛いって」

「仕方ねぇなぁ、どれ、片付けてやるか、これでも掃除や整理整頓は結構得意なんだぜ」

そう言って、雑誌なんかを綺麗に片付け始めたアルト君。

私も涙目で自分の部屋を片付けることにした、ああ、なんでこんな事になっちゃんだろう。


「うっ・・ランカ、その・・・これは・・・」

そういってアルト君がなにやら顔を真っ赤にしている。

アルト君が指差した先にあったのは私のブラ・・・って、なんでこんな所に!

しかも、今朝つけるかつけないかでめちゃくちゃ迷った、シェリルさんと一緒に買ったちょっと大人でHな下着。

いわゆる勝負下着って奴だよ、結局恥ずかしくていつもの白いお子様ブラにしたのにって・・・。

よりによってそれをアルト君に見られるとか、もう死にたい・・・。


「あんまりみないで、アルト君・・・恥ずかしいから・・・」


私のローテンションな答えに慌てて視線を逸らすアルト君。

「すまんっ、そんなつもりじゃなかったんだ、雑誌片付けてたらたまたまソコにソレがあって・・・」

いや、でもランカでもこういうの付けるんだな、って俺は何言ってるんだ、ほんと、すまん!」


アルト君はアルト君でかなり動揺してるみたいだ。


「う~、もうしにたいよ・・・」

余りに連続で痴態を晒した私はほんと消え入りそうな声で呟いた。


「そんな大げさな、ランカだってそういう年頃なのは俺にも判るから」

「うわぁああ、そんな思春期の子を気遣う親みたいなコメントしないでよ、余計恥ずかしいよ、アルト君!」

そういって私はアルト君をまたポカポカ叩く。

結局の所、私の事をまだ”可愛い”妹くらいにしか思ってないのだ、アルト君は。


その後、黙々と二人で部屋を整理整頓&ついでに掃除もしようとかいい始めたアルト君。

とっくに部屋は片付いて綺麗なんだけど、やり始めたらエアコンのフィルターまでやらないと

気がすまないタイプらしい。

アルト君て料理も出来るし、いい主夫になりそう・・・。

私はそんなせっせと働くアルト君の姿をベッドに腰掛けて眺めてた・・・はずなんだけど・・・


ハッと気付くとベッドに横になって寝かされていた。

いつの間にか寝ちゃってたみたい、アルト君が毛布を掛けてくれたみたいだ。

そういえば昨晩は色々準備に時間掛かったし、興奮してほとんど寝れなかったんだった。

むぅー、でもここで寝ちゃうなんて私の馬鹿、せっかくのアルト君と過ごす貴重な時間を無駄にしてしまった。


アルト君、起こしてくれればいいのに!

ってそういえばアルト君は???と思い部屋を見回すと

中央のテーブルに突っ伏すようにしているアルト君を発見した。


「アルト君?」

声を掛けてみるけど、反応はない。


近づいてよくみてみると、アルト君もまた気持ちよさそうに寝息を立てて寝ていた。

うあああ、アルト君の寝顔見ちゃった、なんか可愛い、てか美人すぎだよアルト君。


数十秒、いや数分だったのか私は思わずアルト君の姿に見惚れて放心状態。


そして、すぐよからぬ妄想が思い浮かんだ。

・・・このまま、キスしちゃおうか?

そうだよ、今日は掃除してくれたしそのお礼だよ、なんて自分を行動を脳内で正当化すると

私は気持ちよさそうに寝てるアルト君の横顔に近づく。

この角度じゃ唇には無理だけど、限りなく近い頬に私はそっとキスをした。


しちゃった・・・。

うあ、自分からしたくせに私は自分の顔が熱くなるのを感じた、多分鏡を見れば真っ赤なんだろう。

なんだか一歩大人になったみたいで嬉しくなる。

そういう所が子供みたいだと言われても仕方ないかな、でも嬉しいものは嬉しいのだ。


「ん・・・?ランカ?いつ起きたんだ?」

「って、きゃああああああああああ」

想定外の突然の事にパニックになる私、アルト君こそ起きてたの?いつから?

「おいおい、勘弁してくれよ、なんだその悲鳴は・・・って俺もいつの間にか寝ちまってたのか」

よかった、どうやらアルト君も今起きた所みたいだ、私の恥ずかしい所業はどうやらバレていないみたい。


「起こしてくれればよかったのに」

私は素直に疑問に思った事を口にした。

「いや、、あんまり気持ちよさそうに寝てるもんだからな・・・起こすのも気がひけてな」

うわー、アルト君の目の前で寝顔を晒したかと思うと、私はまた顔が熱くなるのを感じた。

「どうした?ランカ、顔真っ赤だぞ」

「え?ああ、どうしたのかな、えへへ」


「しかし参ったな、二人して寝ちまうとはな」

「そうだね、せっかく今日やる事色々考えたんだけどなー、時間なくなっちゃったね」

そんな会話をしつつアルト君はさりげなく部屋に置いてある鏡で髪の乱れをチェックした。

そして「ん?」と自分の唇付近に手をやる。


「え?」と思い近づいて見ると、うっすらと唇の横に痕が残ってる・・・そうだ、今日はちょっとおしゃれしようと

思って色つきのリップつけてたんだった。迂闊!


「うああ・・・」私は頭を抱え込んでしゃがみこむ、恥ずかしさでもうアルト君の顔なんてまともに見れないよ。

「これキス・マーク?か、ランカがその、俺につけたのか?」アルト君が問いかけてくる。

ここまで来たらもう言い逃れは出来ない、私は素直に告白した。


「うん・・・ごめんね、つい、その出来心で・・・」

「いや、、いいんだ、謝らなくて・・・俺もその、悪い気はしないし」

アルト君はそう言ってくれたけど、アルト君をそっと見てみる。

あ、目があった、恥ずかしさですぐ視線を逸らす、暫く無言になる二人、シーンとして空気が緊張感を

余計に煽るよ、どうしよう。


「ま、なんだ、そのとりあえず外でようか、まだ時間は多少あるしな」

アルト君も無言に耐え切れなくなったのか、こんな提案をしてくれた。


「うん、、どこ行こう?」

「展望公園でもいくか」

「いいよ」

展望公園は私がアルト君にアイモを披露したり、夢を伝えたり、アルト君が紙ヒコーキ作ってくれたり

思い出の場所でもあるのだ。

これは勝手に私が思ってる事なんだけどね、そんな場所を提案してくれて嬉しかったり。


私達は展望公園に移動する事にした。

移動してる間に色々会話してたら、いつもの私達に戻れた。

さっきまでのギクシャクした感じがなくなっただけでもよかったよ。


展望公園につくと私達はお気に入りの場所に移動した。

中央の塔の下の展望台、フロンティアの市街が一望できる。


「なんかココに来ると思い出すね」

「ん?ああ、ランカがここでアイモ歌ってくれたんだよな」

「うん、そしてこの場所で私、決心したんだよ、絶対シェリルさんみたいになってやるって」

「そっか、、ランカ変わったよな」

「え?」


「あの頃はオドオドしてて、みてて危なっかしいというか、自分に自信がなさそうで、脆さがあった。

でも今は芯が通ってて強さすら感じるよ」

「えへへ、そうかな?そう言われると嬉しいよアルト君」


「アルト君も変わったよ?」

「俺が?」

「うん、出会った頃はもっと尖ってて何か、怖い顔をよくしてた、常に何かにイライラしてたみたい

でも今は優しい顔になった、余裕が出来たというか、心にあったモヤモヤが取れてすっきりした感じ」

「よく俺の事見てるんだな」

「そりゃ、これでもあたしはアルト君の結構近くにいるからね、ちゃんと見てるよ?」

「参ったな・・・お袋みたいだ」

「アルト君、私はアルト君みたいな大きな子産んだ覚えはないけどね?」

そういって私達は顔を見合わせて笑ったんだ。

今日一番、お互い自然な笑顔だったかもしれない。


暫く二人で公園からフロンティアの市街を眺めた。

アルト君がさりげなく私の肩を抱いてきたんだけど、不思議とそんなにドキドキとしなかった。


「ランカ、そのこんな事言うの恥ずかしいんだが」

「どうしたの?アルト君」

「その、キス・・していいかな」

驚いた、奥手だと思ってたアルト君にしては意外な発言だ。

そしておかしな事に私は冷静だ、なんでだろ、なんとなくこうなると感じてたからかな。

でも今なら凄く自然に受け入れられそう。

「いいよ?」

そう答えるとアルト君は屈んで頭の位置を私の身長に合わせた。

アルト君の顔が近づいてきたのが見え、私は目を閉じてそのときに備える。

唇に柔らかい感触が伝わってくる、私にとってアルト君と2回目のキスだ。

1回目は映画でだったから実質プライベートではファーストキスといえなくも無い。


脳が痺れるような甘い数秒の時間が終わって、すっと暖かくて柔らかい感触が離れたのを感じて

私は目を開けた。

「えへへ、2回目、だね?」

私が言うとアルト君が罰が悪そうに何か頭を掻いた。

「?」


「悪い、ランカ!」

そういうとアルト君は両手を自分の前で合わせると謝罪した。

「??」

私は何でアルト君謝ってるんだろうと未だに理解できないで首をかしげた。


「3回目・・・なんだ」

「え?」

「昼間、お前が寝てるとき、あまりにその、可愛くて・・・しちまった」

「えぇぇえええええええええええ?」

今度は私は自分の顔が見る間にまた熱くなるのを感じた、嘘、全然気付かなかった。

「それなら私がしたってバレた時に言ってくれればよかったのに」

「なんか言い出し辛くてな、黙っててすまん」

「それで私だけに謝らせたんだ、自分もしてたくせに!しかも唇に!」

「すまん、この通りだ」


「もぅ、やっぱりいじわるだよ、アルトくぅん!」


そういってまた私達は笑ったんだ。

色々考えたデートプランは台無しになっちゃったけど、でもそんなの関係ないくらい楽しめた1日になったよ。


私は家に帰り寝る前にお気に入りのねこの日記帳に今日の出来事を綴るとベッドに入った。

今日はいい夢が見られそう。

また、こんな日が過ごせるといいな。


おわり。