西暦2059年12月24日 PM7:00


そう今日は世にいうクリスマスイヴ、キリストの2059回目の降誕祭ってわけだ。

聖夜とも言われているらしいが。

本来はキリスト教という宗教の行事なんだけれどもすでにそれは形骸化し、今では単に恋人や家族と

一緒にお祝いをする日、という形だけ残っている。商業主義の賜物かね。


何故祝うのかという本来の意味には興味はなく、祝うという行動のみを楽しもうとするなんて

本末転倒ではないかとも思うが大衆なんてそんなものなんだろう。

しかし、俺が今置かれている状況を考えればそれも悪くないかなとは思う。


今、俺はクリスマスのイルミネーションに彩られた街にいる。

そして前を何やら

「すっごく綺麗ですねー・・・キラキラって光って・・・ホンモノの星みたい」

「そうね、なんかクリスマスなんかに踊らされちゃってなんて思ってたけど実際見てみると感動するわね・・・」

なんて喋りながら、はしゃいで歩く奴らの後ろについて、

そんな光景を微笑ましく見て歩いている真っ最中だ。

あいつらもやっぱ普通の女の子なんだなぁと。


話しているのは誰か?と言えば、、”銀河の妖精”シェリル・ノームと”超時空シンデレラ”ランカ・リーの二人だ。

「一部の人間から刺されそうな面子だな」と後日、話を聞きつけて言ったのはミシェルだ。

確かにコイツラはアイドルであり、更に実力を伴った歌手でもあるという人気者だ。

ひょんな事から俺はほんの数ヶ月前にコイツラと知り合った。

神様ってものは信じちゃいないが、もし居るとするなら感謝したいね。


さて、何故この二人と一緒に聖夜を過ごす事になったのかと言えば、少し話を遡らなくてはならない。

あれは1週間あたり前の事だったか。


例によって俺が非番の日にウチに遊びに来ていたシェリルの奴が切り出したんだっけ。

「アルト、あんたX'masに何か予定はあるの?まぁないでしょうけどね」

くっ、この野郎、なんて失礼な言い草だ、確かに予定はなかった・・・昨日まではな!


「いや、生憎その日は予定入ってるが」

俺は自信満々にこう答えてやった、どうだシェリル、クリスマスに暇な俺を馬鹿にしようって魂胆だろうが

今年の俺はそうはいかないぜ。


しかし、シェリルは俺の答えを聞くと一瞬ぽかんと口を開け、その後視線を空中で

泳がせ、なにやら「まさか・・・ね」と呟くと酷く動揺した様子でソファーに座りなおした。

そこまで俺がX'masに予定があったというだけで驚く事なのかよ。

そしてやっと口を開いた。


「そ、そうなんだぁ」

「ああ・・そうだが、何か用事でもあったのか?」

「あの、その、、女の子、、、と予定があったりするわけ・・・?」

「よくわかったな」

俺が即答すると、シェリルは今度は何やら顔を紅潮させると急に怒り出した。


「そう!よくわかったわ!好きにすればいいじゃない!」

そう言ってソファーに置いてあったクッションを投げつけてきた。

おいおい、なんだそりゃ子供かお前は。


「おい、シェリル」

「何よ!」

「何を怒ってるのか知らんがこれはお前にも関係のある話だぞ」

そうだ、俺はシェリルに伝えるべき用件があるんだった。


「どういう意味よ」

と呟いた直後に今度は何かを思いついて硬直するシェリル。

今度は酷く青ざめている、一体どうしたことか。

「おい、ちゃんと話をき・・」

「イヤっ!」

ちっ話を聞く気ゼロかよ。

「だから話を・・」

「イヤっ!絶対イヤっ!」と耳を塞ぐシェリル。

その瞳からは何やら涙が薄っすら滲んでいる。

「捨てられる」とか「別れ話」とか呟いてるが何言ってるんだ?シェリルの奴は。


俺はシェリルの手を掴むと落ち着けといって無理やり話を進めた。


「ランカが俺とお前と3人でパーティーやろうってさ」

「へ?」

「何、間の抜けた返事してんだよ、聞こえなかったのか」

「ランカが自分と俺とお前の3人で24日はパーティーやろうって言ってきたんだよ、

俺は予定なかったからすぐOKしたから、あとはお前の返事待ちってわけだ」

「あらやだ・・・」


「ったく一体なんの話だと思ってたんだよ」

「それは・・・・あんたには関係ないわよ、馬鹿アルト!そうならそうと早く言えばいいじゃない」

「言おうとしただろうが!」

「で、どうなんだ?スケジュール空いてるのか?」

「空いてるわよ馬鹿!っていうか苦労して無理やり空けたのよ、この鈍感姫!」

「なんだよ鈍感姫って、ならおkなんだな?ランカに返事しとくぞ」

「ええ、わかったわ」


てなような会話があったわけだ。

その後、ランカとシェリルと何やら話し合ったらしいが内容は謎だ。

そして当日というわけだ。


24日、俺は非番だったんだが出勤予定の人が急病だってんで、急遽昼勤になった。

オズマ隊長も流石に気を使って定時で返してくれたんだが、シェリルとランカには悪い事をしたな。

仕事を終えた俺は足早に家路についた。


「ただいま・・・わりぃ、お前らがせっかく休み取ったのに俺がこんな事になっちまうなんて」

「おかえり、アルト君お疲れ様」

「おかえり、アルト、別にあたし達はそんな事で文句言うようなうざい女じゃないわよ、ね?ランカちゃん」

「はいっ」


どうやら怒ってはいないようだ、なんていい女達なんだ、この二人は。

俺は一人、猛烈に感動していた。


話を聞くとどうやら昼間は二人で映画見たり買い物したり、結構あいつらはあいつらで楽しんだらしい。

シェリルが言うにはナンパがうざかったらしいが、全部ビンタと蹴りで追い返したそうだ。

声を掛けた奴ら、ご愁傷様。


「さ、昼間楽しめなかった分、夜はしっかり楽しみましょ」

シェリルが言った。


なんかちょっと如何わしい発言のような気もするが俺の心が汚れているからだろう、多分。


そうして俺達は街に出かけ、冒頭のような会話、、となったわけだ。

今俺達が来ているのはクリスマスのイルミネーションには定評のあるマクロスFの中央駅ビルだ。

毎年、趣向を凝らしたイルミネーションで人気のスポットなんだが、今年はなんでも「銀河」を

イメージしたイルミネーションらしい。

ランカが雑誌で調べてきて、どうしても俺とシェリルと一緒にみたい!という事でやってきた。


周りは人が溢れてて、いかにもイベントといった雰囲気だが本当にこのイルミネーションは綺麗だな。

駅の中腹から下まで100万個の白色LEDを使って表現したという天の川と銀河。

プラネタリウムばりに再現された星空の光景に見る人が思わず足を止め、息を呑む迫力だ。


駅のメイン通りに配置されたツリーは一転して煌びやかなさまざまな色が配色され、

これはまたこれで綺麗だ、しかしそんなイルミネーションよりも俺はソレを見る二人の方を実は

よく見てたりしたのだが。


「綺麗・・・」なんてお互いの腕を組んでうっとりとイルミネーションを眺める「銀河の妖精」と「超時空シンデレラ」

なんて早々お目にかかれるものじゃないぞ。よく目に焼き付けておくべきだろう。


「何ジロジロ私達の事嘗め回すような目でみてんのよ」

「えー、アルト君ダメだよ、そんなことしちゃ」

「ばっ、みてねぇよ!お前らなんか、うぬぼれんな」

「ふぅーん?今度アルトがいやらしい目で見てきたら罰金取ろうかランカちゃん」

「あ、ソレいいですね」


コイツラ・・・。まぁ見てたのは事実だし、ここはグッと堪えよう。


どうやら駅前通りではクリスマスイベントと称して、幸せのクリスマスツリーなる企画をやっているようだ。

なんでもこの駅前のクリスマスツリーの前で一緒に写真を取ったカップルは永遠の幸せが約束されるそうだ。

いかにもな子供騙しの眉唾なイベント企画だな。


しかし、ランカとシェリルは大いに食いつき結局1時間も待ってランカとシェリルと一緒に写真に映った・・・。

イベント会場の人からは「女性2人連れて映られた方は始めてです!いやぁこの幸せ者!」

なんて声を掛けられて恥ずかしかったりしたんだが・・・。

ランカとシェリルは出来上がった写真を満足そうに見ると、何やら会場に置いてあったペンで写真に

メッセージを書き込んで俺に手渡した。


銀河一の幸せ者へ

こんなサービス滅多にしないんだからね Jぇりる

幸せでかるちゃー! ランカ


なんじゃこりゃ、俺は苦笑しつつ、写真を受け取った。

こいつはパイロットスーツに偲ばせてでもおこうかね。


さて、あとはクリスマスケーキと適当に七面鳥でも買って帰るかね。

概ね屋外イベントをこなした俺達は家路についた。


家について俺達は一息つくと、買ってきたノンアルコールシャンパンに、クリスマスケーキ、

ファーストフード店のクリスマスバーレルなんてものでささやかだが3人でパーティーを始めた。

「メリークリスマス!」なんて声を掛けてクラッカー鳴らしたりなんてガラにもない事したりしてな。


でもやっぱり3人で過ごすのはいいものだ。

去年なんか俺1人で特に何事もなく過ごしただけだったからな。

あれは我ながら寂しいクリスマスだった。


で、パーティーの内容はというと、シェリルにランカが人生相談したり、シェリルが業界裏話とか言って

セクハラされた事にブチ切れたり、ランカは学校で何あっただとか、あそこのお店のアレが美味しかっただとか、

今、何にはまってるだとか、あれが可愛いだの、あの化粧品がいいとかあれはダメとか。

女二人はとめどなく喋り続け、俺はほとんど聞き役だったがそれでも楽しそうなあいつらの顔を見てるだけで

十分か。


話もひと段落して、何やらゴソゴソとシェリルとランカが用意を始めた。

それぞれのバッグから取り出されたのは綺麗にラッピングされたクリスマスプレゼントだった。


「はい、これどうぞアルト君」

「この私があげるんだから感謝なさい、アルト」

なんてそれぞれ俺に手渡してくれた。

まさか俺の為にわざわざ・・・有難い、涙が出そうだ。


「あけていいか?」

「うん」

「どうぞ」


許可を貰ったのでその場で包みを開ける。

ランカからは髪留め用の紐と櫛。

シェリルからはパイロット用の手袋だった。


「えへへ、色々悩んだんだけど、やっぱり毎日使って貰えるものがいいと思って」

「ありがとう、ランカ、早速明日から使わせて貰うよ」


「この手袋、俺達SMSが使ってる特殊な奴じゃないか、よく手に入ったな」

「ちょっとコネがあってね、ほら、メッセージ入りよ」

「げ、お前、シェリルノームより愛を込めてって・・・ しかもハートなんて刺繍すんなよ、恥ずかしいだろ!」

「あー、シェリルさんそれぬけが・・・いや協定違反だよぉ」

「ごめんなさいランカちゃん、つい」


「でもお前らホントありがとな、大切に使わせて貰うよ」

そう真面目にお礼を言うと、シェリルもランカも満面の笑顔を返してくれた。


「でもまだとっておきのプレゼンがトあるのよね?ランカちゃん」

「ですねぇ」

「??」

何の事かと戸惑う俺の両側からシェリルとランカが近づいてくる。

うろたえる俺を尻目に女性陣はぐんぐん近づいてシェリルとランカに俺は挟み撃ちの形で

もう逃げれない・・・。

「おい、それ以上近づいたら・・・」

警告を発する俺に構わずシェリルとランカはどんどん俺の顔に接近してきて・・・

俺は思わず目を閉じた。


そして両方の頬にある箇所特有の柔らかい感触を感じた。

そうシェリルとランカが俺の頬にキスをした瞬間だった。


「ばっ、お前らっ、やりすぎだっ」

「あらあら顔真っ赤にしちゃってウブなとこあるじゃない、流石お姫様、可愛いじゃない」

「アルト君でもそんなに動揺することあるんだね、あははは」

ぐっ、完全に弄ばれてしまった。

まぁ、これなら何度でも弄ばれたい・・・って俺は何考えてんだ!

いかん、いかん。

俺もこの日の為に冬のボーナスと給料を使い切って、あいつらに買った代物があったんだった。


「素晴らしいプレゼントありがとな

それじゃお前らにも俺から渡すものがある」


「へぇ、ちゃんと用意してあるんだ、アルトのくせに珍しいわね」

「うわぁ楽しみだよ、アルト君、何くれるのかなぁ?」


俺は机の引き出しから小箱を取り出すとシェリルとランカにそれぞれ渡した。


「今開けていいの?」

「勿論だ」


シェリルとランカはお互いに背を向け、中身を確認した。


「っ~~」

「うああ」


「指輪じゃない」

「指輪だ!」

二人がほとんど悲鳴にも近い叫び声を上げた。

と同時にシェリルとランカがお互い「えっ?」と言った顔で顔を見合わせる。


「ランカ・・・ちゃんも指輪?」

「シェリルさんも・・・指輪ですよね」


「どうだ、この前お前らが欲しがって奴だぜ、いやぁ苦労したよ、なんたってボーナス全部と

給料をコツコツとだな・・・っておい、なんだその目は」


「アルト、あんたね、男が女に指輪贈るって意味わかってるの?」

「アルト君、嬉しいけどこれじゃリアクションに困るよ!」


「へ?だってお前らソレ欲しいって言ってたじゃないか」

そう、確か2月程前だったか、ファッション雑誌のアクセサリー類を見てたランカとシェリルが

「これ可愛い、欲しい」と騒いでたのを覚えている。


「そう・・だけど、ねぇ?」

「うーん、まさか二人同時に渡すなんて・・・想定外ですよね」

シェリルとランカは顔を見合わせて苦笑している。


「まぁ貰えるものはありがたく貰っておくけどね」

とシェリルは箱から指輪を取り出すと左手の薬指にはめた。

「むー、シェリルさんわざとやってるでしょ」

とランカも自分の左手の薬指に指輪をはめる。


「けどアルトもいい度胸してるわよねぇ、いきなり重婚だものね」

「ですよねー、意外と大胆で驚きました・・・」

「へっ?重婚って、、ああああああああ、そういう意味なのか!」

ぐあっやっちまった、なんて恥ずかしい事をしてしまったんだ。

これじゃ二人相手にプロポーズしてるようなものじゃないか。


「今頃気付いてるわよ、このバカ」

「うーん、天然な所がある意味恐ろしいかも」


「ま、私が正妻だけどね」

「ええ?じゃあ私が愛人・・・て事になるんですか?」

「2号さんね」

「えええ、いくらシェリルさんでもその発言は取り消してください、私が妻でシェリルさんが愛人てイメージですよ」

「・・・ランカちゃん喧嘩売ってる?」

「シェリルさんから言い出したんでしょ」


何やらいつの間にか険悪なムードだ。


「おい、お前ら落ち着け・・いや、これはその、だな、そういう意味で贈ったんじゃなくてな」


「うるさいっ!アルトは黙ってなさい」

「うるさいっ!アルト君は黙ってて!」

「はいっ!」


綺麗にハモられてしまった。


その後、第1回チキチキアルト争奪ゲーム大会なんてものが開催され、

とんでもない料理を食わされたり、歌やダンスの審査をしたり、

はてはどっちを選ぶんだと問い詰められたりして、とんだクリスマスとなってしまった。

結局引き分けという事で納得しては貰ったが。


休み明け、シェリルとランカの左手には当然のように指輪が輝いていて

俺はあいつらから貰った品物を愛用している。

それはいいのだが・・・

あいつら「その指輪どうしたの?」と聞かれたら「”アルト”から貰ったの」とわざとらしく言うものだから

俺がシェリルとランカに二股をかけ両方を食い物にしてる最低の男だという評判が立ってしまった。

あいつら・・・根に持ってやがるな。


ま、いいか、それでもちゃんとつけてくれてるなら俺もなけなしのボーナスを叩いた甲斐もあるというものだ

そう言い聞かせて俺は「あ・・あれが早乙女アルトよ、さいてー」だの「女みたいな顔して女ったらし」だの

校内ですれ違う女子達の批判にも耐えて日々を過ごしている。


おわり。