警視庁、ストーカー更生制度7カ月 加害者治療の受診ゼロ

2016年11月5日 13時54分

 

 警視庁が精神科医と連携し、ストーカー加害者を治療につなげる制度の利用が進んでいない。四月の運用開始から七カ月がたっても、治療を受けた人はゼロ。十万円以上かかる費用が支障になっている。ストーカーへの規制強化の一方で、更生の仕組みづくりは難航している。 (北川成史、土門哲雄)

 全国の警察が昨年、把握したストーカー被害は約二万二千件だった。三年連続で二万件を超えており、制度は警察庁が本年度から全国で始めた被害防止策の一環。ストーカー規制法に基づく警告を受けたり、逮捕されたりした加害者の状況について、警察が本人の同意を得て、精神科医に伝える。治療が必要と判断されれば、受診を促す。

 警視庁の場合、東京都内にストーカーの加害者治療を手掛けてきた数少ない精神科医がいるため、全国的なモデルとして期待されていた。

 警視庁などによると、四~十月、元交際相手に付きまとうなどして、警告を受けたり、逮捕されたりした加害者に話を向けたところ、約十人が治療に関心を示した。このうち二人は、本人負担のない精神科医の初回面談を受けたが、有料の治療には進まなかった。

 警視庁が想定していた「認知行動療法」による治療は一~二週間に一回、約一時間半の面談で、三~六カ月程度かかる。公的医療保険の対象外で、費用は一回一万~二万円、合計十万~二十万円ほどになるという。

 警察庁は全国的な制度の運用状況をまとめていないが、担当者は「軌道にのっている都道府県は多くないだろう」との見方を示している。

◆自己負担、当初から懸念

 警察がストーカー加害者を治療につなげる取り組みは、被害の防止策として期待される一方、当初から費用負担の問題や専門医の不足が懸念されていた。「警告や摘発でもやめない行為者に、カウンセリングや治療が有効な可能性がある」。二〇一四年、警察庁の有識者検討会は、加害者治療の調査研究や更生プログラムの実施を報告書で提案した。

 報告書によると、一三年四~六月、警察の警告や禁止命令の対象になった二千七百六十七件のうち、12%に当たる三百四十五件はストーカー行為が止まらなかった。警察の介入後、殺人事件に至る事例もあるため、警察庁は本年度、精神科医との連携を始めた。

 警視庁は、一般社団法人「男女問題解決支援センター」(東京)の代表理事で精神科医の福井裕輝(ひろき)氏との連携を柱に考えていた。

 福井氏は約三百人の治療に取り組んだ実績を持つ。警視庁は毎月一人程度、治療につなげる考えだった。

 警視庁の担当者は「自己負担だと説明すると、話が止まる」と漏らす。福井氏は「英国やオーストラリアには百パーセント公的負担する制度がある。そうなればだいぶ変わる」と指摘する。有識者検討会のメンバーの一人で、加害者のカウンセリングに取り組むNPO「ヒューマニティ」(東京)の小早川明子理事長は「いきなり病気扱いで医者を紹介され、しかも有料では受診しづらい」と治療へのつなぎ方を課題に挙げる。「いったん、民間のカウンセラーや自治体の相談窓口が無料で言い分を聞く。その上で、必要なら専門医につなげる仕組みを整えるべきではないか」と提案する。

 警察庁の担当者は「加害者は『悪いのは相手』と思っている。治療を促すには、家族の協力を得るなど工夫が必要」と話す。今後、海外の先進例を調べるなど、更生の仕組みを研究していくという。

<認知行動療法> 強いストレスなどで現実をゆがんだ形で受け止めている人に対し、面談を通して、現実と思い込みのギャップを修正していく精神療法。うつ病やパニック障害、不眠症などの治療に使われる。ストーカーの治療では、加害者の言い分を全面的に聞いた上で、付きまとった相手に何を伝えたかったのか、伝えることがなぜ大事なのかを考えさせる。その結果、加害者が仕事や家族など、本当に価値があることに目を向けられるようになると、快方に向かうという。

(東京新聞)

 

http://www.tokyo-np.co.jp/s/article/2016110590135310.html?ref=rank

 

 

コメント:このような結果は当然誰もが予見し得た筈である。下記文献を参照のこと。

 

上記取り組みがようやく開始されたと、この本でも期待されていたのだが・・・。ストーカー自身の理解が得られなければ、無理に決まってる。

 

ストーカー心理を知る草分け的名著。